真の狙い
パブロヘタラ宮殿は攻撃を受けていた。
前方には魔導気球があり、十数体の絡繰神の部隊を伴っている。奴らの放つ<断罪刃弾>がパブロヘタラ宮殿の結界をみるみる斬り裂いていき、浮遊大陸を破壊していく。
貯蔵されている魔力を使い、大陸と結界の修復をしているが、ジリ貧である。
「妙だな」
コツコツ、と杖で地面を鳴らしながら、エールドメードはそう言った。
「みょ、妙……ですか?」
不思議そうにナーヤが聞く。
「これだけ戦況を有利に進めておきながら、消極的すぎると思わんかね? 奴らの魔法砲撃は強力無比だが、この宮殿もそうやわではない。このままでは日が暮れるではないか」
「じゃ、じゃあ、なにか別の狙いがあるんでしょうか……?」
言いながら、ナーヤが頭を捻る。
「確かめてみようではないか」
「え?」
愉快そうに笑みを覗かせ、エールドメードは杖を魔導気球に向けた。
「行くぞ、犬ぅっ!」
飛び上がったのはカボチャの犬車である。エールドメードとナーヤも飛び上がり、結界の外に出た。
<断罪刃弾>の弾幕の中を、カボチャの犬車は無謀と思えるほど真正面から突っ込んでいく。
「せ、先生っ! 大丈夫ですかぁぁっ!?」
悲鳴交じりの声が響く。
「カカカカカッ! 大丈夫だ、居残り。これからすることは当ぉ然! 危険、危難、絶体絶命だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「なにが大丈夫なんですかあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
赤い斬撃がカボチャの犬車に次々と被弾する。結界が切断され、車輪が切り離され、屋根が飛ぶ。最後にキャビンが真っ二つにされると、それは派手に爆発した。
「――いやいやいや、間一髪ではないか」
魔導気球の塔にぶら下がりながら、エールドメードが言う。
カボチャの犬車が爆発する直前に、<変幻自在>にて偽者を作り、入れ替わって脱出したのである。
彼は杖で窓を叩き割ると、中に入った。
「こんなに堂々と入ったら、気がつかれませんか?」
「そうかね?」
エールドメードは魔導気球の中を、無警戒にズカズカと歩いていく。
「だって、ここにはガーガリ様とカルラ様が……」
言いかけて、ナーヤは口を噤んだ。彼女は耳をすましている。
「……静か……ですね」
「カカカカカッ!」
笑い声をあげながら、エールドメードは扉を思い切り開いた。
そこは魔導気球のブリッジである。
しかし、誰もいない。
「誘い出されたというわけだ! してやられたではないかっ!!」
エールドメードは愉快でたまらないといった風に笑ったのだった。
◇
パブロヘタラ宮殿。
最下層へ続く縦穴を教育神ガーガリと門下宗匠カルラが降下していた。
「ガーガリ様、まもなくです」
薄暗い縦穴の先に光が見えた。
彼らはその光の先へ降りていき、<絡繰淵盤>の上に着地した。元々、それは絡繰世界の<淵>だ。取り返しに来たのだろう。
無論、エールドメードも備えていなかったわけではない。
「オットルルーは警告します」
<絡繰淵盤>で待っていたのはパブロヘタラの裁定神オットルルーである。
「ただちに戦闘行為を停止してください。でなければ、パブロヘタラの総力を挙げて、正帝を排除します」
「なにを言うのだ。お前は絡繰世界によって生み出されし者。さあ、今こそ正義に目覚め、<絡繰淵盤>を正帝のもとへ返すのだ」
ガーガリが魔法陣から歯車を取り出す。
それが不気味な光を放ちながら、ゆっくりと回転し始めた。
しかし、その歯車に亀裂が走る。鈍い音を立てながら、ガーガリの手の中で歯車は砕け散った。
「これは……?」
カルラが視線を険しくする。
「歯車を取り除かれたか。ならば、力づくでもらっていこう」
そう言って、ガーガリは魔法陣を描く。
「甘え」
響いた言葉と同時に、落ちてきたのは一匹の獣だ。
災人イザーク。その莫大な魔力がパブロヘタラ宮殿を震撼させ、十本の爪が冷気を放つ。
深層世界すらも容易く引き裂く、界殺災爪ジズエンズベイズが唸りを上げた。
「シャッ!」
奴が振るった爪が、空間ごと<絡繰淵盤>を引き裂いた。
「ジャッ!!」
蒼き爪撃が疾走し、寸分違わず同じ場所に爪痕を刻む。
「ジアァァァシャッ!!」
仕上げとばかりに両手で繰り出された災爪が走り、<絡繰淵盤>が地響きに似た音を立て、真っ二つに割れていく。
「魔戦絡繰エルガンデだったか? 強え絡繰神を、正帝は<絡繰淵盤>で蘇らせるつもりだったんだろ」
災人イザークが言う。
「それは間違いである」
教育神ガーガリはそう言うと、オットルルーの目の前に転移した。
彼女が身をかわそうとするより早く、その頭をわしづかみにする。
「魔戦絡繰エルガンデはすでに蘇っておる」
「くっ……!」
ガーガリは彼女の頭に魔法陣を描いた。
「<深層意識支配洗脳>」
抵抗するようにオットルルーはガーガリの腕を激しく叩く。
しかし、彼にはまったく通じず、オットルルーの目が光を失っていく。
やがて、だらりと彼女の腕が脱力した。
カタカタカタ、と歯車が回る音が聞こえる。同時に、彼女の体が姿を変えていく。それは無数の歯車の集合体、かつてミリティア世界で戦ったエクエスを彷彿させた。
ガーガリは言った。
「さあ、来るがいい、災人。貴様の野蛮な力を、正義のために役立ててやろう」




