援軍
銀泡の周辺では、死闘が繰り広げられていた。
攻めてきているのは絡繰神の大部隊。それをかろうじて防いでいるのが、それ以上の数の<疑似紀律人形>である。
「エンネちゃん。もう一回!」
「だ、だけど、今だってもう限界なんだよ。これ以上、<根源降誕母胎>を使ったら、体がもたないよっ!」
<根源降誕母胎>は限界を超えて、魔力を増幅する。しかし、その強すぎる魔力は、エレオノールの根源に負担を与え、やがて崩壊させるだろう。
「あれだけの数の絡繰神を防げるのはボクたちしかいないぞっ! あんなのが一体でも入ったら、ミリティア世界はめちゃくちゃにされちゃうっ!」
覇気のある瞳で、エレオノールは声を上げた。
「アノス君に防衛線を任されたんだっ! 死ぬ気で守り通すぞっ!」
「……うんっ! わかった……!」
エレオノールは魔法陣を描く。
<根源降誕母胎>により、出現したのは一〇〇二二羽のコウノトリだ。
エンネスオーネの体が光り輝き、背中の翼がぐんと延びた。
「<聖体錬成>」
出現した無数の聖水球にコウノトリの羽が舞い降り、ゼシアによく似た少女たちが生まれていく。
三〇〇〇体である。すでに戦闘中の<疑似紀律人形>と合わせて、これで約一〇〇〇〇の軍勢となった。
「追い返しちゃうぞ、<疑似紀律人形>!」
彼女は手にした軍旗――軍勢鎧剣ミゼイオリオスを大きくはためかせる。
それが緋色に輝くと、同じ色に<疑似紀律人形>の体が光り始めた。新たに加わった三〇〇〇体に、緋色の聖剣と聖なる鎧が与えられる。
ミゼイオリオスの能力は、魔力の波長を同調させればさせるほど、同調する数が増えれば増えるほど、剣と鎧を強化する。
一〇〇〇〇体で同調した<疑似紀律人形>は、次々と絡繰神に取りついていき、その聖剣で切りつけていく。
「危ない……!」
エンネスオーネが声を上げる。
エレオノールの真後ろから、突如現れた絡繰神が突進してきたのだ。
「やっつけ……ます……!」
ゼシアが緋翔煌剣エンハレーティアを振り下ろす。
光の複製剣が数百本、くるくると回転しながら、絡繰神の体に突き刺さった。
「偉いぞ、ゼシアッ!」
とどめとばかりにエレオノールが、軍勢鎧剣ミゼイオリオスを絡繰神の腹部に突き刺した。同時に発動中の<根源降誕母胎>の魔力をかき集める。
「<聖域羽根熾光砲>!」
広大な光が絡繰神を飲み込んでいき、消滅する。
「……まだ押されてるぞ……」
数は<疑似紀律人形>の方が多いが、絡繰神は強力だ。
三〇〇〇体を増やしてなお、彼女たちはじりじりと後退を余儀なくされている。
「ママッ……!」
ゼシアの表情が険しくなった。
彼女の視線の先には、向かってくる銀水船ネフェウスがあった。
周囲には三〇体の絡繰神がいる。その両腕が赤く輝いている。
「フレアドールと……パルム……です」
「今はちょっと厳しいぞ……絡繰神の部隊と戦いながらじゃ……」
エレオノールは背後に視線を向けた。
そこには銀泡がある。彼女の故郷、転生世界ミリティアが。
退くわけにはいかなかった。
「<断罪刃弾>」
真っ赤な斬撃が無数にエレオノールめがけて撃ち放たれる。
立ちはだかった数十体の<疑似紀律人形>を斬り裂いて、<断罪刃弾>は彼女に押し迫る。
『<魔深流失波濤砲>』
激しく波打つ青き無数の魔弾が<断罪刃弾>を相殺する。
『第二射、撃て』
即座に放たれた<魔深流失波濤砲>が、絡繰神の部隊を撃ちぬき、押し返していく。
はっとして、エレオノールはその方向を振り向いた。
魔弾世界の大艦隊だ。戦艦は絡繰神から距離を取りつつ、<疑似紀律人形>を援護するように弾幕を張っている。
『こちらは深淵総軍一番隊隊長ギー・アンバレッドであります。我々は銀水聖海の滅びを望まない。よって、転生世界ミリティアに加勢する』
<魔深流失波濤砲>に撃ちぬかれた絡繰神はどろりと半液体状になったが、再び元の姿に再生していく。
「銀の雪代」
清浄な声が響く。
半液体状の絡繰神に降り注いだのは、黒い雪月花である。すると、再び絡繰神の体がどろりと溶けた。
再生するはずの絡繰神は溶けたまま、元に戻ることはない。その根源を丸ごと創り替えられたのだ。
「絡繰神は私たちが食い止めるから」
エレオノールの前に舞い降りた雪月花が光を放ち、創造神エレネシアの姿に変わった。
「あなたたちは、彼女を」
エレネシアは銀水船の甲板に立つフレアドールを見据えた。
「この絡繰神の部隊を指揮している。倒せば、統制がとれなくなる」
一瞬、エレオノールは考える素振りを見せた。
確かにフレアドールを仕留めることができれば、戦いを有利に進められる。
しかし、魔弾世界の援軍が来たとはいえ、絡繰神の部隊は強力だ。その上、他にもまだ強者は残っている。
打って出るには早いかもしれない。そう思ったのだろう。
「私たちだけじゃない」
エレネシアは言った。
「故郷の危機に、彼が黙っているはずがないから」
エレオノールは決意を固め、こくりとうなずく。
「エンネちゃんはここをお願いっ。ゼシア、行くぞっ!」
「いき……ます……!」
エレオノールとゼシアは<魔深流失波濤砲>の弾幕とともに、銀水船ネフェウスに突っ込んでいく。
「足を止めるぞっ!」
エレオノールは魔法陣を描く。
<聖域羽根熾光砲>が撃ち放たれ、銀水船の前に張られた何重もの魔法障壁を突き破る。
「乱れ斬り……ですっ……!」
エレオノールが空けた魔法障壁の穴から、光の複製剣が入り込んでいき、銀水船をズタズタに斬り裂いていく。
動力部に損傷を追い、船足ががくんと減速した。
「よしっ」
「ママッ……上ですっ……!」
ゼシアの言葉でエレオノールは咄嗟に頭上を見上げた。
一直線に落ちてきた影が二つ、フレアドールとパルムだった。
振り下ろされた狩猟剣アウグストをエレオノールは軍勢鎧剣ミゼイオリオスで防ぎ、パルムが放った魔法砲撃を、ゼシアは光の複製剣を盾にして受け止めた。
「フレアドール。こんなことをしてなんになるんだっ? 正帝の正義がそんなに大事なのかっ?」
アウグストとミゼイオリオスでつばぜり合いをしながら、エレオノールはそう訴える。
「わかるでしょう、エレオノール。あなたになら」
ぐっと力を入れ、エレオノールを押し返しながら、フレアドールは答えた。
「正帝が大事なのではありません。私たちには正帝が全てなのです」




