表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
769/791

続かぬ日々


 六年後――


 混沌の銀河を切り裂いていく男がいた。


 第一魔王アムルである。


 彼はその先にある銀泡に降下して、赤い空を全速力で飛んでいく。


 急いでいた。約束よりも、帰ってくるのが数日遅れてしまったのだ。


 すぐに見えてきたのは水上都市リプロアーニだ。


 次の瞬間、爆音が響いた。


 ガラガラ、と廃墟の建物が一つ崩れ落ちるのが見える。


 アムルは急降下し、水上都市に降り立つ。


「あ・あ・あああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 叫びながら、頭を両手で抑えているのは六歳ほどの少年だ。


 体の周囲に、キラキラと輝く赤い星々があり、それらがゆっくりと渦を巻いている。


 ムルガだった。


 彼は苦痛を堪えるように、奥歯を噛み締める。強く嚙みすぎて、切れた口から血が滲んでいた。


 ガタン、と彼は膝を下り、石畳に手をついた。


「やめ、ろ……!」


 ムルガが石畳に爪を立てる。


 ズドッと指先が石畳に穴を開け、五本の直線を引いていく。


 その目は暗く、憎悪の影が見て取れた。


「や、め、ろぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」


 ムルガが石畳に拳を叩きつける。


 彼の全身から魔力の粒子が噴出し、彼の周囲に渦巻く赤い星々が膨れ上がった。


 衝撃破が全方位に巻き起こり、建物という建物が薙ぎ倒されていく。


「うあああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「ムルガ」


 駆け寄っていくアムルの魔眼が、激しく燃え上がる。


 同時に、ムルガの体から立ち上った憎悪の炎がアムルのもとへと流れていき、赤い星々の渦が収束する。


 石畳に拳を打ち付けていたムルガが、ピタリと止まった。


 そうして、顔を上げると、アムルを見つけた。


「パパだっ!」


 つい数秒前までとは打って変わって、ムルガは天真爛漫な笑みを覗かせる。


 勢いよく立ち上がると、とてとてと走ってきて、アムルの体に飛びついた。


「おかえりっ、パパ!」


 アムルは少年を抱きとめて、その頭を軽く撫でた。


「すまん。遅くなった」


「だいじょうぶ! ぼく、一人でも無限に遊べる遊びを見つけたんだっ。<願望の星淵>の星を数えるの。二万六〇四四個まで数えた!」


「そうか。星はぐるぐる回ってるからな。難しいが、よく頑張ったな」


「うんっ! ぼく、がんばったっ!」


 アムルが再び頭を撫でると、嬉しそうにムルガは笑った。


「デュエルニーガはどうした?」


「うーん……たぶん、あっち!」


 と、ムルガが指さす。


「ぼくの調子が悪くなったから、デュエルニーガが危ないと思って、一人で走ってきたんだ」


「そうか。偉いな」


 その方向へアムルは歩き出した。


「ねえ、パパッ。お話ししてっ。また外の世界で活躍してきたんでしょっ?」


 嬉しそうにムルガはねだる。


「……そうだな。今回行ってきたのは、()(へい)()(かい)ガリリオン。奴らはいくつもの浅層世界を侵略し、その住人たちを自らの()(へい)として、兵団に加えていた」


「倒したのっ!?」


「倒す必要はなかったな。ガリリオンの元首はただ行き場のない憎しみに囚われていただけだった。俺はそれを奪い、彼を解放した。失われた命は戻らないが、次の元首は無暗に兵を起こすことはないだろう」


 うーん、とムルガは首をかしげた。


 よくわからなかったのだ。


「悪い奴をパパがやっつけたんだ」


「善悪というのは見方によって変わる。浅層世界にとっては確かに悪に違いなかったが、俺が見た彼個人は……」


 と、そこまで口にして、アムルは考え直した。


 正しく説明しても、ムルガには理解し難いと思ったのだ。


「少しでも平和になったと信じたい」


「絶対、平和になったよっ! だって、パパはどんな悪い奴らもやっつける、壊滅の暴君だもんっ! 銀水聖海の平和のために、ずっと戦ってるんだ!」


 そう誇らしげにムルガは言った。


「俺は、それほど大した者ではない。せいぜいが、この海に蔓延る憎しみをほんの少し減らせる程度。だが、本当に必要なのは自由だ。風が吹かぬ海に、風を吹かせることのできる者こそ、真に必要なのだ」


「知ってる。二律僭主ノアでしょっ!」


 虚を突かれたようにアムルが少年を見返す。


 ムルガは得意げに笑った。


「パパがいつも言ってるもんね。あいつは、自由なる風だって」


「……そんなに言ったか?」


「言ったよ! パパの兄弟なんでしょ?」


「ああ。そうだ」


 と、アムルは穏やかな笑みを湛える。


「でも、ぼく、パパが一番だと思うなっ! だって、壊滅の暴君はお願いごとも叶えてくれるよっ。ぼくのお願いだって叶ったよ! パパになってくれたもん!」


「そうか。それなら、俺も戦い甲斐があるな」


 そう言って、アムルはムルガの頭を撫でる。


 ふふふっ、と少年は嬉しそうに微笑んだ。


「ぼく、大きくなったら、壊滅の暴君になる!」


「……とういうことだ?」


 不思議そうにアムルは問う。


「えっとね、パパみたく、お外の海を平和にしたいのっ! だから、最初にふっこーする!」


「ふっこー?」


「あれ? ふっこーじゃない? デュエルニーガが言ってたよ、前はね、ラーヴァシュネイクにもたくさんの人がいて、たくさんのお願いごとのお星さまがお空にあったの。ふっこーすれば、またみんな返ってくるんだって」


「なるほど。復興か」


 納得いったようにアムルはそう口にした。


「ぼく、あんな憎悪には負けないよっ! ちゃんとパパが来るまで、我慢できたし! デュエルニーガからも離れたし! それで、ふっこーして、みんなの本当の願いを集めて、叶えるんだっ! 壊滅の暴君になって!」


 無邪気にムルガは夢を語る。


 もしかしたら、叶うのではないか。


 いや、叶えてやりたい。


 そんな風にアムルは思った。


「なら、手始めにこの水上都市を復元するか?」


「できるの?」


「街だけならな」


「やりたいっ!」


 ばんざいをしながら、ムルガは飛び跳ねる。


「希輝星。聞いていたな?」


 そう問えば、アムルの目の前にキラキラと輝く白い星が現れて、それがデュエルニーガの姿に変わった。


「リプロアーニが楽園だった頃のことを語ればいい?」


「詳細にな」


「しょーさいにな!」


 アムルの真似しながら、ムルガはデュエルニーガに抱きついたのだった。


 かくして、デュエルニーガから昔話を聞きながら、創造魔法を駆使してアムルたちは水上都市を一か所ずつ再現していく。


 彼の力ならば、一瞬で水上都市リプロアーニを創り直すことができただろう。


 しかし、彼はムルガに創造魔法を教えるため、それを任せ、自らはその補助に徹することにした。


 時間はかかるが、ムルガが願望世界のことを知ることができる。なにより、彼が楽しそうだった。


 順調に復元作業は進み、あと僅かというところ。


 デュエルニーガは、アムルが俯いたまま、硬直しているところを見かけた。


「アムル?」


「……近づくな……」


 低く、冷たく、暗い声だった。


 その瞳は紅蓮に染まっており、危うい輝きを放っている。


「憎悪が蓄積しているの?」


「……大丈夫だ……」


 一つ、アムルは息を吐く。


 次第に瞳からは紅蓮の輝きが薄れていき、彼は顔を上げた。


「魔兵世界のことだが、やはり裏で別の世界が関わっていた」


 デュエルニーガは、ムルガが遠くで建物造りに夢中になっているのを確認した後、改めてアムルに聞いた。


「絡繰世界デボロスタ?」


 アムルはうなずく。


「奴らの狙いは、ここだ」


 そう彼は言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ