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蚊帳の外


 第四ハイフォリア領海。


 銀水船ネフェウスは帆を目一杯に張り、銀海を一直線に駆け抜けていく。


 その前方に見えてきたのは、目映く輝く銀泡――第四ハイフォリアである。


「防衛態勢は敷かれていない。今ならば、入るのに手間取りはしない」


 前方の銀泡に魔眼を光らせながら、バルツァロンドはそう言った。


「ですけど、少し妙ですわね。わたくしたちがパブロヘタラを目指していることに、正帝が気がついていないとも思いませんけれども?」


 言いながら、ミサは考えを巡らせる。


 正帝ヴラドは聖王レブラハルドに成り変わり、ハイフォリアを支配していた。


 本物のレブラハルドであるレイに自由に動かれたくはないはずだ。


 バルツァロンドにレイを討たせようとしたように、ハイフォリアやパブロヘタラの者たちを動員し、銀水船ネフェウスを沈めようと画策しているはずだ。


 だが、目的地である第四ハイフォリアが目の前にあって、なんの動きもない。


「罠だと思うかい?」


 ミサとバルツァロンドに、レイが訊いた。


「こんなにも長い間、何人もの重要人物に成りすましていた相手ですもの。ここを疎かにするとは思えませんわ」


「だとしても、絡繰世界(からくりせかい)を知らなければ、手の打ちようがないのだろう?」


「そうですわね」


 正帝ヴラド、そして体を写し取る絡繰神がどのような秩序によって動いているのか、それがわからねば滅ぼし尽くすことはできぬ。


 その鍵はパブロヘタラにある、とレイは睨んでいる。


「では、行くしかあるまい。罠があろうと、伏兵がいようと、私と兄上ならば、恐れることはありはしない!」


 力強く、バルツァロンドは言い切った。


「強引なのも、わたくしの好みにはあってますけれど?」


 と、ミサはレイを振り返る。


 どうなさいますの、と意向を伺うように彼女は視線で問いかけた。


「行こう。たぶん、もう時間もあまりない。そんな気がする」


「承知しましたわ」


 レイの決断を受け、銀水船ネフェウスはまっすぐ前方の銀泡に降下していった。


 瞬く間に黒穹を抜け、周囲が青空に変わる。


 そこに浮かんでいるのは、巨大な浮遊大陸――銀水学院パブロヘタラだ。


 すぐに、ミサは表情を険しくした。


「様子がおかしいですわ」


 銀水学院パブロヘタラから、黒煙が上がっているのだ。浮遊大陸は浮力を維持できず、徐々に落下し始めていた。


「パブロヘタラが攻撃を受けている……?」


 バルツァロンドがそう呟く。


 正体を知られた正帝ヴラドが、パブロヘタラを攻撃しているのだとすれば、やはりレイの見立て通り、そこに絡繰世界の秘密を知る鍵があるのだろう。


「まだ間に合う。ミサ」


「わかっていますわ」


 銀水船ネフェウスを加速させ、彼らはパブロヘタラの浮遊大陸に迫った。


 半壊している結界をすり抜け、内部へ侵入する。


 すぐさま、ネフェウスから降りた三人が目撃したのは、不気味な木製の人形だ。


 人と同じぐらいの大きさがあり、操り人形のように四肢に黒い糸がつながっている。


 その糸の先は頭上に展開している魔法陣に続いていた。


傀儡皇(くぐつおう)ベズ……!?」


 思わず、そう言葉を漏らしたのはバルツァロンドである。


 これまで傀儡世界にこもりきりだった主神が、今なぜパブロヘタラを攻めているのか?


 すっと傀儡皇ベズが片手を上げる。


 無数の魔法陣が描かれ、そこから十字の木片が出現した。


「<黒糸(くろいと)>・<魔刃(まじん)>」


 ベズの両手の指から、幾本もの黒い糸が伸びて、十字の木片に絡みつく。


 糸が地上に向けて垂らされる形になり、その先には魔剣や魔槍が吊り下げられていた。


 ベズが指先を動かす。


 それに操られるかのように、吊り下げられた魔剣や魔槍が勢いよく地上へ降り注いだ。


「がああっ……!!」


「ぎゃあぁぁっ……!!」


 鮮血が散り、口々に悲鳴が上がった。


魔刃(まじん)>に貫かれたのは、パブロヘタラに所属している各世界の生徒たちだ。


 浅層世界、中層世界の者たちばかりなのだろう。突然の襲撃に、彼らは混乱しており、まるで統率が取れていない。


「傀儡皇ベズっ!!」


 語気を荒げ、バルツァロンドが弓を引く。


「聖上六学院の主神でありながら、同盟世界の生徒たちを襲うとはどういう了見だっ!? 事と次第によってはただで済ましはしないっ!!」


 強い視線で、彼は傀儡皇ベズを睨みつける。


「どういう了見?」


 木製の瞳が、バルツァロンドを見た。


「この期に及んでわからないというのなら、貴様は蚊帳の外だということだろうな。愚かな狩人よ」


 再びベズは指を動かし、<黒糸>を操る。


 それよりも僅かに早くバルツァロンドは矢を射った。


 音を置き去りにして疾走する矢を、ベズは右手でわしづかみにした。


 残った左手で奴は<黒糸>を操ろうとする。そうはさせまいとレイが突進し、聖剣を振り下ろした。


「はあっ……!!」


 左手につながっていた<黒糸>が全て斬り裂かれる。


 しかし、傀儡皇は動じず、言ったのだ。


「貴様もなにもわかっていないな、聖王レブラハルド」


 レイがはっとする。


 瞬間、傀儡皇ベズは足で<黒糸>を操った。


 レイの背後から、糸につながれた魔槍や魔剣――すなわち、<魔刃(まじん)>が突っ込んでくる。


 彼が飛び退いてかわすも、<魔刃(まじん)>は方向を変えて、追撃してきた。


 レイはその半分を聖剣で切り落とす。


 残った半分がレイに迫るも、ミサが魔法障壁で弾き飛ばした。


 しかし、二人が回避行動を取っている最中、ベズは両手で<黒糸>を操り、再びパブロヘタラの生徒たちへ<魔刃(まじん)>を向けた。


「くっ……!!」


 バルツァロンドが素早く弓を引く。雷の如く、矢は降り注いだ。しかし、間に合わない。


魔刃(まじん)>の雨が降り注ぐ。


 ガギンッと甲高い音が響いた。


魔刃(まじん)>をその頑強な体で受け止めたのは、絡繰神である。


「ようやくお出ましかね、正帝よ」


「邪魔をするな、傀儡皇」


 ザバンッ、ザバンッと水音が響く。


 湖の中から姿を現したのは二体の絡繰神。合計三体になったそいつらは、空中に浮かぶ傀儡皇に同時に突っ込んでいった。


「正帝ヴラドの名のもと、我々は完全なる正義を実行する」


「許さんよ。この海を支配するのは、第一魔王アムルだ」


 傀儡皇ベズと三体の絡繰神が衝突し、パブロヘタラの浮遊大陸を震撼させる、魔力の火花が渦を巻いた。



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― 新着の感想 ―
同じ傀儡属性でも音楽性の違いがあるんだなぁ
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