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悪の味方


 魔王列車は銀灯のレールを伸ばし、全速力で銀海を疾走していく。


 機関室には先行している飛空城艦ゼリドヘヴヌスから<思念通信(リークス)>が届いていた。


『まもなくゼリドヘヴヌスはミリティア世界に到着します』


 ファリスの声だ。


 エールドメードの指示で、速力に優れたゼリドヘヴヌスをいち早くミリティア世界に向かわせたのだ。


「急ぎたまえ。敵が先につけば、どれだけ死ぬかわからんぞ」


 唇を吊り上げながら、エールドメードは言う。


『敵……ですか? しかし、陛下があの場に残った以上、いかに銀水聖海の魔王といえども、そうやすやすと深層十二界から出て来られるとは思えませんが?』


 ファリスの口調からは怪訝そうな様子が伝わってくる。


「銀水聖海の魔王たちは、そうだろうなぁ」


 事態を楽しんでいるかのように、熾死王はニヤニヤと笑みを覗かせる。


「他に誰がいるのよ?」


 率直にサーシャが尋ねた。


「さっぱりわからない」


「はあ?」


 肩をすくめる熾死王に、サーシャが疑問の声を発する。


「カカカカ、だから急ぐ必要があるのではないか。少なくとも魔王はなにかに勘づいていたようだぞ」


「レイを聖王に同行させた」


 淡々とミーシャは告げる。


「その上、ハイフォリアに到着した後、<思念通信(リークス)>が通じなくなった」


 サーシャがはっとして、深刻な表情を浮かべる。


「……なにかあったってこと?」


「なかなか面白く……おっとぉ! きな臭くなってきたではないか!」


 言い直しながらも、心底愉快そうな顔は変わらない。


「さてさてさて、我らが転生世界にはどんな怪物がやってくるのか。首を長くして急ぐと――」


 言いかけて、エールドメードははたと気がついたように魔眼を光らせる。彼は頭上に視線を向けた。


 走り続ける魔王列車の上方に、純白のドレスを纏った少女がいた。


 星のように碧い瞳が、魔王学院の者たちに向けられている。


「あれって……?」


希輝星(ききぼし)デュエルニーガ」


 サーシャとミーシャが言葉をこぼす。


 デュエルニーガの言葉が確かならば、彼女はこの海の最も深いところ位置する願望世界ラーヴァシュネイクの神――恐らくはその主神であろう。


「星は踊る。天を(めぐ)り、地を廻り」


 デュエルニーガの瞳が瞬いたかと思えば、次の瞬間、彼女の頭上に無数の星々が生まれていた。


 それは願望世界ラーヴァシュネイクの海域にあった銀河によく似ている。


 すなわち、混沌だ。


 細い指先がゆっくりと魔王列車を指す。


 無数の星々が光の尾を引きながら、一直線に降り注ぐ。


「<聖域白煙結界テオボロス・イジェリア>!!」


 魔王列車の煙突からもうもうと立ち上った白煙が、車両全体を包み込み、結界と化す。


 しかし、デュエルニーガの放った流星はその結界をみるみる削り、魔王列車にいくつもの風穴を空けた。


「「うああああああああああぁぁっ」」


「「きゃああああああぁぁぁぁっ!!」」


 魔王列車が激しく揺れ、魔王学院の生徒たちから悲鳴が上がった。


「ゼシア、大丈夫?」


 結界室にて、ゼシアを庇ったエレオノールが心配そうに声をかけた。


「大変……です……」


「どこかに当たった? 見せてっ!」


 エレオノールは血相を変えたが、ゼシアがふるふると首を横に振った。


 彼女が手を前に出すと、収納魔法陣が出現しており、そこに小さな星が突き刺さっている。


 先程の攻撃にて強制的に収納魔法陣をこじ開けられたのだ。


「パリントン人形……ありません……!」


「え……?」


 エレオノールが目を丸くしたその頃、機関室ではエールドメードが一点を見つめていた。


 降り注いだ星が王虎メイティレンの絵画を撃ち抜き、青く光り輝いているのだ。


「な・る・ほ・どぉ。そんなものを狙ってくるとは夢にも思わなかったではないか」


 メイティレンの絵画がその場からぱっと消える。


 それは魔王列車の外、デュエルニーガの手元へ転移したのだ。


 同じくパリントン人形も、彼女の前にあった。


「デュエルニーガ」


 魔王列車の外に出たミーシャが、その名を呼んだ。


 星の瞳がゆっくりと彼女に向けられる。


「あなたはなにをしたいの?」


「可哀想な彼らを助けただけ」


 そう口にして、デュエルニーガはその神眼を瞬かせた。


 パリントン人形とメイティレンの絵画が星の光に包まれる。


 二つの輪郭が歪み、変化していく。


 一つはおかっぱ頭の青年の姿へ、一つは白金(しろがね)の体毛を持つ、巨大な虎へ。


 すなわち――パリントンとメイティレンへと。


「パリントンとメイティレンは、多くの人を苦しめた」


 説得するようにミーシャが言う。


「だから、助けるべきではない?」


 デュエルニーガがそう問いかける。


「当たり前でしょっ。そいつらは悪党よ。助けたって、どうせまたろくでもないことをするだけだわっ!」


 ミーシャの隣で、鋭くサーシャが言い放つ。


「あなたたちは正義なの?」


 再びデュエルニーガが問う。


「そんな大層なものじゃないわよ。パリントンもメイティレンも、野放しにされたら、銀水聖海のみんなが困るってだけ。誰だってそう思うわ」


「けれど、正義が救うのは正しい人だけ。悪には悪の味方が必要だと、私たちは思っている」


 星の瞳が瞬き、二つの光がぱっと弾ける。


 強い魔力を感じた。


 銀城世界の王虎メイティレンと、傀儡世界の元首パリントンがそこに蘇った。



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