表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
748/791

深淵魔法の継承


 牙獣世界ドゥーダウス。


「ずいぶんと弱くなったものだな、二律僭主」


 五センチほど抉られた右肩に回復魔法をかける俺に、第十魔王ダンカンは言った。


 激しい戦闘の余波を受けて、青き森――<絶望ぜつぼう獣淵じゅうえん>はその半分が吹き飛び、荒れ地となってしまっている。


「昔のお前ならば、我らは今の一撃で原形をとどめてはいなかったはずだ」


 俺の後方にいるのは、人馬世界の第六魔王エルヴィナ。


 彼の愛馬は四本の足を真っ赤に血に染めており、立ち上がることができない様子だ。


 右方には擬態世界の第八魔王ヴィアンがいる。肩から右腕が引きちぎられ、左手で傷口を押さえている。


 左方にいるのは雷鳴世界らいめいせかいの第九魔王ガジラ。胸と腹部、左脚のふとももに風穴が空いており、片膝をついている。


 そして、前方にいるのが降魔世界こうませかいの第十魔王ダンカンだ。両眼を抉られ、右腕を真っ赤に染めている。


「十分だろう」


 そう俺は答えた。


「……まるでわからんなぁ、二律僭主」


 光を失いながらも、正確に俺の方を向いて、第十魔王ダンカンは言った。


「なぜ今更、大魔王の座を求める? そんなものに興味も示さなかったお前が」


 ダンカンは俺の心変わりが不可解でならないといった様子だ。


「ふむ。<淵>を調べるのに手っ取り早いと思っていたのだが、どうやら雲行きも怪しくなってきた」


 聖剣世界の状況を鑑みれば、あまり悠長にもしていられぬ。


「なんの話だ?」


「願望世界の<絶渦>が再び渦動する話は知っていよう。思った以上に時間がないやもしれぬ」


 意味がわからないといった風に、第十魔王ダンカンは眉根を寄せる。


「つまり、アレは自然発生したものではないということだ」


 レイが思い出した前世の記憶、レブラハルドの過去と死因。そして、正帝ヴラドとの会話を考えれば、<絶渦>は人為的に引き起こされている可能性が高い。


<絶渦>自体が目的だったのか、それともなにか別の目的があったのか。


 いずれにせよ、<絶渦>に干渉できる術を身につけておいて損はあるまい。


「銀海の平和を望むならば、お前も手を貸せ」


「残念だが、力以外に興味はないっ!」


 その言葉が合図となった。


 負傷した体がもたないのを覚悟で、四人の魔王は全魔力を解放した。


 光の粒子が轟々と立ち上り、その余波で残った森さえも吹き飛ばさんとするほどだ。


「<降魔轟絶深王宝華ジーズ・ゼイズ・エベロディオ>!!」


 第十魔王ダンカンの背後に、ゆらゆらと揺らめく闇の粒子が立ち上る。


 それはまるで邪悪な亡霊のように見えた。


「<神鳴音雷幽暗孤月ロゼ・アビロニア・ガルファッゼ>!!」


 轟く雷鳴とともに第九魔王ガジラの全身から雷が迸る。夥しい量のその雷は、巨大な球を象っていく。

 それは雷の孤月を彷彿させた。


「<擬態解放闇手圧殺滅撃ゴルロ・ゴロズ・ゴアゴドゥザ>!!」


 第八魔王ヴィアンの引きちぎられた右腕から、闇の手が無数に生えてくる。


 それら全てが長く伸び、手の平を大きく広げた。


「<深人馬合一魔翼光聖オルゼオ・フォル・バリドン>!!」


 第六魔王エルヴィナとその愛馬が一体化し、半人半馬となった。左に闇の翼が、右に光の翼が生えて、彼はふわりと浮かび上がる。


 光と闇、相反する二つの力がバチバチと鬩ぎ合いながら、エルヴィナの周囲に球状の結界を構築する。


 四人の魔王による深層大魔法。


 全魔力を込めたそれを四方から衝突させ、この牙獣世界ドゥーダウスごと俺を滅ぼすつもりなのだろう。

 避ける術はあるまい。


 しかし――


「<二律影踏ダグダラ>」


 深層大魔法が放たれる一瞬前、長く伸びた奴らの影を踏んだ。


 すでに<涅槃七歩征服ギリエリアム・ナヴィエム>と<背反影体ダヴエル>を発動していた俺の<二律影踏ダグダラ>によって、四名の魔王は同時に血を吐き出した。


 根源を踏み抜かれ、その魔力が消失していく。


「……がっ……うっ……!!」


 深層大魔法は消え、彼らは糸の切れた人形の如く、その場に崩れ落ちた。


「……まだ……だ……」


 第十魔王ダンカンは地面に手をつき、歯を食いしばる。そうして、己の根源に魔力を集中した。


 第六魔王エルヴィナ、第八魔王ヴィアン、第九魔王ガジラもまた残った力を振り絞り、俺を睨んだ。


 残る手段は一つ。決死の特攻だ。


 どうやら、滅ぶまで負けを認めるつもりはなさそうだ。


「貴様に、深層十二界は渡さん……!!」


 ダンカンの根源が輝きを放つ。


 それは深層大魔法を超える力。根源を燃やす、最期の魔法だ――


「やめよ」


 そう、声が響いた。


 四人の魔王、いずれのものでもない。


 空からだ。頭上を見上げれば、白い装束の老人がそこにいた。


 大魔王ジニア・シーヴァヘルドである。


「ノアや。後を継ぐ気はあるか?」


 ちょうどいい。


 いや、大魔王のことだ。事態が切迫しているのを察知して、やってきたのやもしれぬ。


「<絶渦>は任せよ。だが、肩書きはいらぬ」


 そう口にすると、穏やかにジニアは微笑んだ。


「昔から、我が儘ばかり言うものじゃ」


 ジニアは自らの腹に魔法陣を描く。そうして、その手を魔法陣の中心に入れた。


「深層十二界と深淵魔法をお前に譲ろう」


 ジニアは自らの体内にある根源をつかんだ。ゆっくりと彼は手を引き抜き、握った拳を開いた。


 手の平の上に浮かんでいるのは、黒い球だ。


 それは深く、深く、底が見えないほど果てしなく深い、凝縮された力の塊だった。


「これが<深魔(アギド)>じゃ」


 そう言って、ジニアはその黒い球を手放した。


「秩序の影響下にない唯一の魔法。お前ならば、使いこなすことができるじゃろう」


 重力を無視した速度で、黒い球は俺のもとへ落ちてくる。


 速いようで遅く、遅いようで速い。


 遠いようで近く、近いようで遠い。


 その術式がいかなるものかを知ろうとして、魔眼を光らせ、<深魔(アギド)>を見た。


 途方もなく、深い魔力だ。


 これまでに強い魔力は幾度となく見てきた。


 だが、深いと感じたのは初めてだ。


 俺は更にその深淵を覗こうとして、それに気がつくのが一瞬遅れた。


 黒い滅びの力だった。


 見覚えのある終末の火が、視界の端にちらついたのだ。


「<極獄界滅壊陣魔砲エギルズ・グロア・アウヴスハーデ>」


 一瞬の出来事だった。


 牙獣世界ドゥーダウスの一切が黒く炎上した。


 全てが黒き灰燼に変わっている。


 第六魔王エルヴィナも、


 第八魔王ヴィアンも、


 第九魔王ガジラも、


 第十魔王ダンカンも――


 空も海も大地も灰燼に帰していく。


 絶望の想いが集う青い森――<絶望の獣淵>さえ、ただの黒き灰と化し、<淵>としての力を完全になくしている。


 ぐらり、と傾いた大魔王ジニアが落ちてきた。


 俺がその体を抱きかかえれば、ボロリと顔が黒い灰に変わる。連鎖するように全身がボロボロと黒き灰燼と変わっていく。


 反射的に、俺は五つの魔法陣を描いていた。使ったのはある魔法だ。


 やがて、大魔王の体は完全に灰と化した。


 今、滅びゆくこの世界で動いているものは三つ。


 俺と、<深魔(アギド)>と、そしてもう一つ――闇の全身鎧だ。


 その鎧の手が伸び、黒い球をつかむ。


 滅びの魔法を撃ち放ち、深淵魔法<深魔(アギド)>を奪ったのは、傀儡世界の軍師レコルだった。


 そんなことは、あり得ぬはずだった。


 上空から、俺を見下ろす冷たい瞳に、一つ問うた。


「なぜだ? アムル」


 <深魔(アギド)>が反発するかのように、魔力の渦を作り出す。


 闇の全身鎧はその手でそれを握り、深淵魔法を力づくで掌握していく。


 力と力がぶつかり合い、彼の纏った闇の全身鎧が弾け飛んだ。


 あらわになったのは燃えるような赤い髪と、銀水聖海に二つとない赤黒き魔眼。


 第一魔王、壊滅の暴君アムルがそこにいたのだった。


十六章も、これにて終わりとなります。

残すところ最終章のみとなりますが、完結まで更新しましたのでお頼みいただけましたら嬉しいです。



またWEBが完結しました記念としまして、新作『全知全能の王、御言葉が勘違いされる』を書き始めましたので御覧になっていただけましたら嬉しいです。↓↓↓にスクロールしていただくと、リンクがありますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
精密な成りすましが多すぎるせいで何も信用できない……!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ