補充
聖上大法廷。
今日の六学院法廷会議に出席している聖上六学院の者は三名。
聖剣世界ハイフォリアの元首、聖王レブラハルド。
鍛冶世界バーディルーアの元首、よろず工房の魔女ベラミー。
そして俺だ。
「傀儡世界ルツェンドフォルトは元首を決める儀式中につき、欠席となります。傀儡皇は聖上六学院の判断に従うとのことです」
裁定神オットルルーが、傀儡世界の欠席理由を説明した。
「誰に決まるのかねぇ。あたしとしちゃ、付き合いもあるし、レコルが一番やりやすかったけどねぇ」
話題を振るようにベラミーが言う。
「それには同意するけれど、彼は元首が決まるまでのつなぎだろうね。傀儡皇も波風を立てない人材を選んだのだろう。本来は利害が対立するものだ」
レブラハルドが見解を述べた。
霊神人剣エヴァンスマナを抜いて以降、彼は少し変わった。以前よりも、自信がついたように見える。
無論、自らの道が間違っていなかったと証明したのだ。自信を持って当然とも言えるが……
「どうかしたかな? 元首アノス」
「いいや」
軽く言葉を返し、俺はオットルルーに視線を向けた。
彼女はいつものように、事務的に言った。
「それでは一つ目の議題に入ります。現在、聖上六学院は四学院しか存在しません。よって、六学院法廷会議の公平性を保つため、二学院の補充を行います」
転移の魔法陣が起動し、そこに三名が転移してきた。
その内の一人には見覚えがある。
「こちらは呪歌世界ディメディオンの元首、呪歌王ボイズです」
両手の指全てに指輪をつけた男を、オットルルーは紹介した。
先程、深層講堂で一悶着を起こした呪歌の男である。
続いて、オットルルーは一組の男女を手で指し示す。
「そして、こちらが教育世界ローデンヌの主神、教育神ガーガリとその元首カルラです」
教育神ガーガリは、鞭を手にした紳士である。カイゼル髭を整え、オールバックで方眼鏡をつけている。
元首カルラは質素な服装をした少女だ。装飾品の類いも身につけておらず、青い髪も後ろで一つにまとめているだけだ。
「呪歌世界の呪術音楽院を序列五位、教育世界の啓蒙学府を序列六位に昇格させます。異論のある方は挙手を」
すっと手を挙げたのはベラミーである。
「異論というわけじゃないけどね。元々パブロヘタラにいた学院じゃないのはどういう理由なんだい?」
釈然としないといった風に彼女は問う。
「聖上六学院への昇格につきまして、序列上位の学院に打診をしましたが、全学院が拒否をしました。理由としては先のイーヴェゼイノ襲来や魔弾世界の<銀界魔弾>、それらを解決する戦力がないためです」
聖上六学院になれば、権限は増えるが責任も伴う。パブロヘタラの脅威とあらば、矢面に立って戦わなければならない立場となる。
災人イザークや絡繰神、<銀界魔弾>を目の当たりにしていた各世界が尻込みするのは無理からぬ話だ。
「呪歌世界と教育世界はかつて聖上六学院の一つだった夢想世界フォールフォーラルと交流があった世界です。フォールフォーラルの滅亡を知り、パブロヘタラに情報の提供を求めてきたのが加盟のきっかけです」
そうオットルルーが説明する。
「まあ、イーヴェゼイノに比べりゃ、ずいぶんマシだろうさ」
そう言いながらベラミーは、呪歌王ボイズ、教育神ガーガリ、元首カルラを見た。
続いて、レブラハルドが口を開いた。
「先程、深層講堂での騒動は報告を受けたが、銀滅魔法の対抗策を隠していたと考えていいね?」
「そりゃそうだ。返し歌へブロイの存在が知られりゃ、魔弾世界はこっちに責任をなすりつけてきたかもしれないだろ」
悪びれることなく、ボイズは答えた。
神詩ロドウェルと違い、返し歌へブロイは狙いを逸らすため、他の銀泡に標的を移させる必要がある。
たとえば、呪歌世界が<銀界魔弾>の目標を聖剣世界ハイフォリアに向けさせたと主張することも可能だろう。
「銀滅魔法が実際に使われるようになった今じゃ、返し歌へブロイを広めた方がむしろ得だと思った。隠してたことが暴かれれば、怪しいことこの上ないからな」
それがパブロヘタラに加盟した理由か。
確かに怪しまれる前に、自ら打ち明けた方がいいというのは理にかなっている。
「他に発言はございませんか?」
オットルルーが言った。
手を挙げる者はいない。
「では、呪歌世界の呪術音楽院を序列五位、教育世界の啓蒙学府を序列六位とし、ともに聖上六学院に昇格させます。賛成の方は挙手を」
俺とレブラハルド、ベラミーが挙手をする。
「賛成三、反対ゼロ。全会一致により、昇格を決定します。また転生世界ミリティア、魔王学院を序列二位に昇格。鍛冶世界バーディルーア、よろず工房は序列三位に降格となりましたことを報告します」
転生世界ミリティアが昇格? それは聞いていなかったな。
「特に昇格するようなことはなかったはずだが?」
銀水序列戦があったわけでもない。
「転生世界ミリティアの再査定を行いました。無神大陸の転生により、深層世界分の火露が転生世界ミリティアに移動されたことが確認されました」
「ほう」
「転生世界ミリティアは主神のいない泡沫世界のため、実際に深さがあるわけではありませんが、通常の銀泡として換算すれば、鍛冶世界バーディルーアより深くなります。その特性も兼ね備えています。よって、昇格と判断されました」
実際に深さがあるわけではない、か。言い得て妙だな。
泡沫世界の火露が増えるという現象は、本来の銀水聖海の理を逸脱している。パブロヘタラにとっても未知の出来事だ。そう判断せざるを得なかったのだろう。
「それでは次の議題に移ります。呪術音楽院、啓蒙学府は着席してください」
オットルルーが言うと、ボイズ、カルラたちはそれぞれ用意された席に座った。
それを確認して、彼女は言った。
「転生世界ミリティアの元首アノスが確認したところ、<絶渦>に再び渦動の危険性があるとのことです。事実ならば、パブロヘタラとして対処する必要があるとオットルルーは考えます」
「まったく。あんたは次から次へと、厄介な話ばかり持ってくるもんだねぇ」
ベラミーがそうぼやく。
「大凡のことは事前に聞いたけどねぇ、本当なのかい? 大魔王が<絶渦>を防いでたっていうのも、あたしたちにゃ初耳だよ」
「大魔王の寿命が尽きようとしているのは事実だ。ジニアが滅べば、深層十二界は深淵世界に飲み込まれ、再び<絶渦>が渦動するだろう」
俺がそう説明すると、
「どうやってあの大魔王と話をするに至ったのか、聞かせてくれるね」
レブラハルドが言った。
「先日、思い出してな。俺はミリティア世界に転生する前、銀水世界リステリアにいた」
はっとしたように、ベラミー、レブラハルドの視線が険しくなった。
「二律僭主ノア、それが俺の前世の名だ」
「二律僭主……!?」
あっと驚いたようにベラミーが声を上げる。
ボイズやカルラ、レブラハルドも驚きを隠せないといった表情でこちらを見ていた。
「いや、それはどうなんだい? 二律僭主はずっとパブロヘタラと争っていた。いったいいつ転生したのさ?」
「一万四〇〇〇年前だ。それ以降、お前たちが出会った二律僭主は替え玉、俺の従者、ロンクルスだ」
「……あんたが本当に二律僭主なら、大魔王と交流があるのもおかしな話じゃないのかもしれないけどねぇ」
信じがたいといった風にベラミーは首を捻った。
「とはいえ、事実ではあるのだろうね」
レブラハルドがそう言った。
「素直に信じるのかい? 荒唐無稽な話だよ」
ベラミーは肩をすくめる
「元首アノスは荒唐無稽な話はすれど、嘘をついたことがこれまでない。深層十二界にある無神大陸を奪っておきながら、大魔王の逆鱗に触れず、帰ってきたのだから、むしろ納得するというものだよ」
「……まあ、それは確かにねぇ」
ベラミーは半信半疑ながらも、明確な反対意見は出せない様子だ。
「話を進めよう。<絶渦>の渦動は、大魔王が深淵魔法で未然に防いでいるという話だったね? つまり、パブロヘタラがその深淵魔法を手にれようという話でいいかな?」
「いいや。それでは根本的な解決にならぬ。深淵魔法を使って大仰な綱引きをしなければ保てぬというのなら、この海はいつか必ず滅びるだろう」
どれだけ頑丈であろうとも、綱はいつか切れるものだ。
無論、次善の策としては有りだろうがな。
「それじゃ、どうするつもりだい?」
ベラミーが問う。
「まずは深層十二界の<淵>を調べる。<淵>と<淵>が交わり、<絶渦>になるのならば、そこに何らかのヒントがあるやもしれぬ」
大魔王ジニアには深層十二界へ立ち入る許可をとってある。
もっとも、曲者揃いの魔王が素直に言うことを聞くとは限らぬがな。その時はその時だ。
「そんな悠長なことをしてて間に合うかねぇ? あの大魔王でも、結局、深淵魔法を使うしか方法がなかったんだろう?」
「そうだ」
だが、アムルは何かに気がついていた。
だからこそ、<絶渦>を止めてはならぬと言ったのだ。
「大魔王が絶対というわけでもあるまい?」
「ま、そりゃそうだけどねぇ」
ベラミーは望みは薄いだろう、と言いたげだった。
「それでは<絶渦>を未然防ぐため、パブロヘタラの総力を挙げて、深層十二界の調査に向かいます。賛成の方は挙手を」
教育神ガーガリ、呪歌王ボイズを含む、全員が手を挙げた。
「賛成五、反対ゼロ。よって、深層十二界の調査を決定します」
「オットルルー。傀儡世界は来られるのか?」
俺は問う。
「法廷会議の結果には従うと聞いています。調査には軍師レコルが参加されるものとオットルルーは考えます。傀儡世界は儀式中のため、合流が遅れる可能性がございます」
「ならばよい」
すると、オットルルーは全員に言った。
「それは六学院法廷会議を閉廷します。各学院は速やかに深層十二界へ向かう準備を調えてください」




