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精霊の学舎


「あれ?」


「あれあれ?」


「この人知ってる」


「知ってるよ」


 ティティたちが俺の周りを飛び回り、口々に言葉を発する。


「魔王だ」


「暴虐の魔王」


「強い人」


「神さまより、強い人」


 ふむ。どうやら、俺のことがわかるようだな。


「久しぶりだな。アハルトヘルンに行きたいのだが、案内してくれるか?」


 ティティたちは集まり、こそこそと内緒話をしている。

 やがて、彼女たちはこちらを見た。


「その子たちも来る?」


「面白い子たち」


「間接兜で」


「八本八本っ」


 どうやら、ファンユニオンの少女たちが気に入ったか。


「無論だ。俺の配下だからな」


 妖精ティティは万歳をしながら、嬉しそうに周囲を飛び回る。


「やったー」


「来るって、間接兜の子ー」


「魔王の配下、二千年前と違うー」


「全然違うー」


 ファンユニオンの少女たちは妖精ティティと波長が合うのではと思っていたが、なかなかどうして、これは予想以上だな。


「では、案内の礼に良い物をやろう」


 <創造建築アイビス>の魔法で妖精ティティのサイズに合わせた、小型のアノッス棒を創り、彼女たちの手元へ飛ばした。


「やったー、アノッス棒アノッス棒」


「えいっ、えいっ」


「妊娠妊娠っ」


「きゃー」


 ふむ。まるで小さなファンユニオンだな。

 和やかなことだ。


「案内するねー」


「こっちだよ。おいで」


「おいでおいで」


「大精霊の森が待ってるよ」


 妖精たちが燐光を放ちながら、霧の奧へ進んでいく。


「行くぞ」


 俺が一歩を踏み出すと、レイが訊いてきた。


「ノウスガリアは大丈夫そうかい?」


「ふむ。今のところ、この草原にいるようだが――」


 途中で言葉を切り、俺は振り向く。

 そこにノウスガリアが姿を現した。


「やあ。うまくティティたちを笑わせたようだね」


「何用だ?」


「引率だよ。生徒だけ先に行かせては、成績をつけられない。君もその方が都合がいいだろう?」


 確かに、近くにいてもらった方が目を配りやすいか。


「好きにするがいい」


 そう言って、歩き出すと、俺たちの少し後ろにノウスガリアは続いた。


 ティティたちの燐光で作られた道を歩きながら、しばらく霧の中を進む。

 どのぐらい歩いた頃だろうか。霧の向こう側に見える景色が変わり始めた。


 見渡す限り草原が続いているはずが、すぐ近くに木々が見える。ディルヘイドにはない形をしたキノコや、ぼんやりと明かりを灯す花々、人の顔のような窪みのある岩などがあった。


 更に先へ進めば、次第に霧が晴れていき、やがて完全になくなった。

 そこは幻想的な深い森、アハルトヘルンだ。


「ついたー」


「ついたよー」


「大精霊の森」


「アハルトヘルンッ」


 ティティたちはアノッス棒を振り回してチャンバラしながら、嬉しそうに飛び回っている。


「ティティ。シン・レグリアという魔族がここにいるはずだが、知っているか?」


 ティティたちは集まり、お互いに話し始めた。


「シン・レグリア?」


「知ってる?」


「知らない」


「知らないよねー」


 シンがアハルトヘルンに来ているなら、ティティたちが知らないというのも妙な話だが、まあ、彼女たちは気まぐれな上に適当だからな。そのうち思い出したと言いかねない。


「では、二千年前の俺の配下がここにいるはずだが、知らないか?」


 そう問うと、ティティたちは口々に声を上げる。


「知ってるー」


「二千年前の魔族」


「いるよー、沢山」


「精霊の学舎まなびやにいるー」


 精霊の学舎?

 ふむ。聞き覚えのない場所だな。


 もっとも、精霊については俺も知らぬことばかりだ。


「では、そこへ案内してくれるか?」


「いいよー、アノッス棒くれたから」


「感謝感謝ー」


「兜に感謝で」


「八本八本っ!」


 道案内をしてくれるようにティティたちは飛んでいく。

 その後を俺たちは追いかけていった。


「ねーねー」


「そこの人ー」


「名前ー」


「お名前はー?」


 妖精たちはリィナに声をかけた。

 

「リィナだよ」


 彼女がそう答えると、ティティは羽を休めるように彼女の肩や頭に乗った。


「リィナ?」


「そんな名前?」


「違う気がするー」


「本当にリィナ?」


 一瞬きょとんとして、それからリィナは笑った。


「記憶喪失なんだよね。ティティは私のことなにか知らない?」


 うーん、と妖精たちは思案するように手を顎にやった。


「知ってる気がする」


「するねー」


「でも」


「思い出せないー」


 再びティティたちは空を飛び、楽しそうにリィナの周囲を飛び回っている。

 その様子をミーシャはじっと見つめていた。


「アノス」


「どうした?」


 リィナを見つめながら、ミーシャは言う。


「魔族じゃない」


「そのようだな」


「精霊?」


「ああ」


 魔力が微少のためわかりづらいが、彼女の根源は精霊のそれだ。

 リィナがアハルトヘルンへ行かなければいけないと思っていたのも、彼女が精霊だからだろう。


「どうりで、ちょっと変わってると思ったわ」


 サーシャが言う。


「でも、精霊って記憶喪失になるものかしら?」


「さてな。記憶喪失の少女という噂と伝承によって、生まれた精霊かもしれぬ」


「ああ、そうね……」


 リィナは、まるで懐かむような表情で森の様子を見つめている。

 

「あ」


「わかった」


「リィナは似てる」


「似てる人がいたー」


 ティティたちが声を上げる。


「どんな人……?」


 リィナが尋ねると、ティティたちは彼女の周りをぐるぐると回った。


「レノ」


「レノに似てる」


「大精霊」


「精霊たちの母ー」


 言われてみれば、雰囲気が似ているか。

 とはいえ、フードの奧の顔は俺の魔眼でも見えぬ。ただのフードではなく、そういう精霊なのだと思っていたのだがな。


 レノの伝承には、顔を隠すフードを被っているといったものはなかったはずだ。


「でも、レノはもういない」


「死んじゃった」


「悲しい」


「もう会えない」


 一瞬、ミサが足を止める。

 レイが彼女の背中にそっと触れると、「……大丈夫です」と笑顔を作り、また歩き始めた。

 

 大精霊レノが死んだ、か。


 ジークの言ったことが事実なら、ミサは大精霊レノの実子だ。

 少なくとも、一五年前までは彼女は生きていたはずだ。


 では、この平和な世で、なぜ死んだ?


 その噂と伝承が根強く残るからこそ、彼女は大精霊と呼ばれていた。

 確かに、二千年経てば、噂と伝承が潰えることもあろう。しかし、一五年前まで生存していたのなら、この時代まで噂と伝承は語り継がれてきていたのは確かだ。


 ならば、そうそう潰えるとも思えぬ。


「いつ死んだのだ?」


 そう問うと、ティティたちは首をかしげた。


「いつだっけ?」


「数年前?」


「もっとかも」


「二千年前?」


「忘れちゃったー」


 数年前と二千年前では大違いだがな。

 まあ、ティティの言うことだ。話半分に聞いておくのがいいだろう。

 

「あれ?」


「あれあれ?」


「レノの匂い」


「レノの匂いがするー」


 言いながら、ティティたちはミサの近くへ飛んできた。


「お名前は?」


「お名前なにー?」


「レノ?」


「レノが生き返った?」


 ミサは困ったように笑う。


「え、えーとですね。あたしはミサです。レノではないですよ?」


 すると、ティティたちは嬉しそうにアノッス棒を振り回し、ミサの周囲をぐるぐる飛び回り始めた。


「もしかして、レノの子?」


「本当の子供。実子実子ー」


「レノの子の名前は、ミサー」


「ミサだったはずー」


 その言葉にミサが食いつくように言った。


「本当ですかっ!?」


 しかし、ティティたちはとぼけるように明後日の方向を見た。


「ミサだっけ?」


「サミかも?」


「ミーサとか?」


「でも、大体あってるー」


 肩すかしを食らったように、ミサは俯く。

 けれども、すぐに頭を振って、気を取り直すかのように訊いた。


「あの、それじゃ、大精霊レノの子供の父親は誰だか知っていますか?」


 ティティたちが数匹、ミサの顔の前にやってきて、彼女をじーっと見つめた。


「父親は、秘密ー」


「言っちゃいけないって」


「精霊王が言ってたー」


「みんなを守ってくれる、良い王さま」


「ティティは王さま、好きー」


「精霊はみんな、王さまが好きー」


 ティティはまるで教えてくれる気配がない。

 ミサは諦めたように引き下がった。


「精霊王というのは何者だ?」


 俺はティティたちにそう問うた。


「えー?」


 ティティたちが声を上げながら、散っていく。


「精霊王が何者?」


「何者ってー?」


「王さまは王さまっ」


「偉い人ー」


 そんなことを口々に言いながら、ティティたちは離れていく。

 彼女たちの向かう先には、信じられないほど巨大な大樹があった。


「わおっ、でかくて太いぞ」


「……びっくり……です……」


 エレオノールとゼシアが大樹を見上げる。

 それは終わりが見えないほど高く、雲を突き破って天を突いている。


 幹の太さも尋常なものではなく、少なくともデルゾゲードと同じ程度の横幅があるだろう。普通の樹木とは考えがたい。


「ついたよー」


「ついたー」


「精霊の学舎」


「エニユニエンの大樹」


 鱗粉と燐光を撒き散らしながら、ティティたちはエニユニエンの大樹の正面へ飛んでいく。

 大樹には穴が空いており、蔓草が垂れていた。


 彼女たちの後へ続き、俺たちは蔓草をくぐって、穴へ入る。

 大樹の中は、さながら木でできた洞窟だった。迷路のような場所を妖精たちの誘導に従い歩いていけば、やがて広い空間が見えてきた。


 そこには終わりの見えないほど長い階段がある。何度も折り返し、どこまでも上へ上へと続いている。

 ティティは奧に見える一番大きな扉の前へ飛んでいった。


「ここだよー」


「みんながいる教室」


「ここでいつもお勉強」


「魔王の配下もいる?」


「いるよー」


「二千年前の魔族たち」


 俺たちは扉を開け、教室の中へ入った。


 一見すると、そこはまるで中庭だ。

 草花が生い茂る地面には切り株のような椅子が並べられ、教壇にあたる位置には大木が生えていた。


 しかし――


「あれ?」


「いない?」


「みんないない?」


「神隠しだー」


 二千年前の魔族の姿はどこにもなかった。


重要っぽい情報が、妖精たちの緊張感のない声でポロポロこぼれております。

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