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人狼への転生、魔王の副官  作者: 漂月
本編

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「モンザのおしゃべり」

92話「モンザのおしゃべり」



 あれラシィ、どしたの?

 ん、隊長? 太守の館に戻ってるみたい。

 太守と打ち合わせでもするんじゃない? 知らないけど。

 あたしに聞けば何でもわかるみたいに思わないでよ。尾行ばっかりしてる訳じゃないんだから。

 ま、お仕事の邪魔しちゃ悪いからね。

 ここからなら館の様子も監視できるし、ゆっくりしようよ。

 あはは、うん。癖でね。狩りのときはいつも見張り役だから。

 あ、あたしお酒飲まないの。

 嫌なんだ、感覚が鈍るのって。



 でもねえ、うちの隊長って面白いでしょ?

 なーんかねえ、隊長が「できる」って言うと、できちゃう気がすんのよねえ。

 で、本当にあっさりやっちゃうのよね。

 今回もなんだかんだいいながら、「魔の海」をやっつけちゃったもん。面白いよねえ。

 やってることはムチャクチャな気がするけど、いつも当たり前みたいな顔してやっちゃうの。で、別にそれを自慢もしないで、またすぐ無茶をしちゃう。

 なんていうか謎めいてて、危険な香りがするんだよねえ……。



 えっ? いやあ、これは恋愛感情じゃないと思うけど……。あたし、恋愛ってよくわかんないからなんとも言えないかなあ。

 どっちにしても、隊長だってあたしのことなんか意識してないでしょ?

 それよりラシィのほうが隊長と仲いいんじゃない? 魔術師同士、話が合うでしょ?

 いやいや、あたしは同じ人狼だけどさあ。うふふ。



 自分でもよくわかんないけど、あたしは隊長のムチャクチャなとこが気に入ってんのかもしれない。

 どこに向かって走り出すかわかんないし、走ってる間はどうなるかドキドキしてるんだけど、終わってみたらいつもいい結果。

 だからまた、隊長がどっかに向かって走り出すのを待ってるの。

 きっと、あたしの人生を面白くしてくれるからさ。



 そりゃまあ、いつかは失敗して酷い目に遭うかもしれないよね。今まで人狼隊が誰も死んでないのは、半分奇跡みたいなもんだし。

 でもいいの。隊長には楽しませてもらってるから。

 隊長が死ぬときは、あたしも一緒。

 人狼隊はみんな、おんなじような気持ちじゃないかなあ。

 隠れ里で小さくなって暮らしてた頃は、ほんとみじめだったもん。

 あの頃は人間に怯えながら、森の中でひっそり生きてただけだもん。そ、生きてるだけ。

 生きてるけど、人狼としては死んでるのと同じよね。

 それに比べたら、危険と隣り合わせの今のほうが人狼としては燃えるよねえ。



 今回は海の上で面白い怪物と戦えたし、ついてきて良かったよ。

 人間とも仲良くなれたしね。あと、お魚美味しいし。

 ああでも、人間全部と仲良くなっちゃうのは嫌かなあ。

 少しは殺す分が残ってないと、ね?

 あーごめんごめん、怖がらないでってば。

 あたしたちって人間からみると凶暴みたいだけどさ、生まれつきの狩人なんだからしょうがないじゃん。

 大丈夫、ラシィは群れの仲間だから。

 心配しないで。

 何かあったら、群れのみんなで守ったげる。



 あれ、ガーベルトがいる。うん、見分けなら簡単につくよ。

「がーっ」てしてるのがガーベルトで、そうじゃないほうがニーベルト。

 わかんない? ま、いいじゃん。

 どっちがどっちでも同じようなもんだし。

 おーい、ガー兄ぃ! どしたの、いつも以上に変な顔して?

「魔の海」?

 隊長が食べてたの? あの怪物を?

 えっ、なんで?

 いや、あたしに聞かれても、なにがなんだか。

 あは、どんどん謎が深まってくねえ……。

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