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人狼への転生、魔王の副官  作者: 漂月
本編

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「ラシィの手紙」

50話(ラシィの手紙)



 お母さん、お姉ちゃん、元気にしていますか? とんでもなく愚妹のラシィです。

 実は私、こないだまで勇者ランハルトに仕える聖女ミルディーヌの役をやってました。

 もうやめましたけど。

 今はリューンハイトにいます。

 あ、ちなみにランハルトなんて人はいません。

 元老院の人たちが作った虚像です。



 私が偽聖女をやめて、リューンハイトで暮らすようになって、数日が過ぎました。

 最初は南部の気候や風土に戸惑いましたが、割と適当な性格のおかげかすぐ慣れました。南部のごはんは美味しいです。



 リューンハイトの様子は、私が思っていたのと全く違っていました。

 元老院から偽勇者の一行に加わるよう命じられたとき、私が受けた説明はこんな感じです。

『リューンハイトは魔族に支配され、処刑や拷問による絶叫が毎日響きわたっている。死体は野晒しにされ、腐敗臭が満ちている。排水溝は血で赤黒く染まり、清潔な水さえまともに得られない』

 正直、怖いなと思いました。

 でもそれなら、私たちが偽勇者になってでも、ミラルディアの人たちをひとつにまとめないと。

 そう思ったのです。



 しかしそんな私たちの作戦も、うまくいきませんでした。

 あの夜のことは、一生忘れられません。

 そして一生、思い出したくありません。

 一緒だった三人の騎士さんたちは死にました。

 私だけ生き延びて、ごめんなさい。



 人狼のヴァイトさんに助けられて、私はシュベルムからリューンハイトまで落ち延びてきました。

 ここの人たちは偽聖女だった私のことを知りませんし、知っていてもあまり気にせずに接してくれています。



 例えば、ここの輝陽教の司祭様は、よそとは違っていてとても優しい人でした。わざわざ私を訪ねてきてくださったんです。

 私が自らの罪を告白すると、何度も大きくうなずいて「私も同じ、罪深い迷い人です。罪を消すことはできませんが、償いを積み重ねることはできますよ。これは受け売りですが」と、微笑んでおられました。

 輝陽教の偉い人って、もっと威張ってる印象があったんですけど、ここでは違うみたいです。



 街の中には魔族の人たちがいっぱい歩いています。

 犬人さん? たぶん犬人さんだと思いますけど、すごくかわいいです。もふもふしてました。

 人狼さんもいますし、あとはトカゲみたいな人とか。最初は怖かったけど、意外に親切で丁寧でした。

 そうそう、下半身が馬になっている人もいました。ハンサムが多かったですけど、なんかすごくムキムキでした。



 あ、そうだ。私と一緒に行動していた三人の騎士さんの名前を書いておきます。

 本名かどうかわかりませんけど、もしそっちに遺族の人がいたら伝えてあげてください。

 主に剣聖役担当だったのが、エヴィネムさん。

「俺より剣の巧い奴なんかいくらでもいるのに、この名前はちょっとなあ……」といつも言ってました。

 聖騎士役のカーニッツァさんは、「モテるのはいいけど、品行方正にしてないといけないからつらい」って。

 勇者ランハルト役を一番たくさんやったシェルクさんは、「ミラルディアから魔族を追い払ったら、いつか真実を話せる日が来るのだろうか……」が口癖でした。



 三人とも人狼のヴァイトさんに倒されてしまいましたけど、ヴァイトさんは三人のことを誉めていましたよ。一流の戦士だったって。

 だから三人とも、安らかに眠ってください。いつも紳士的で、頼もしくて、優しくて、本当にありがとうございました。

 卑怯者の私は、魔王軍の保護下でこれからも生きていこうと思います。ほんとごめんなさい。



 ヴァイトさんは敵だった私を、命がけで助けてくれました。なんでなのかはわかりません。

 それと不思議だったのは、あの夜にヴァイトさんが殺したのは三人の騎士さんだけです。私を助けるために大暴れしたのに、ミラルディア兵は一人も殺しませんでした。



 その理由を聞いたら、ヴァイトさんは「しまった」みたいな顔をして、私に背中を向けてからこう言いました。

「あー……あれだ、ほら。あんな雑魚どもを殺してもつまらんからな」って。

 私は魔族でも軍人でもないのでよくわかりませんが、そういうものなんでしょうか?

 でもおかげで、私は気持ちが楽になりました。人が死ぬのは嫌ですから。

 それにしてもヴァイトさんは魔族なのに、なんだか不思議です。

 近所のお兄さんみたいな気安さがあります。



 そうそう、魔王軍のとっても偉い魔術師、大賢者ゴモヴィロア様の弟子にもなりました。モヴィちゃん先生ってお呼びしています。

 でもゴモヴィロアってお名前、修行時代に習った記憶があるんですよね。魔術史かなあ? 苦手なんですよね魔術史。 

 久しぶりの勉強はとても楽しいですよ。魔法は入力した術式通りに動くから、人付き合いと違って疲れないのがいいですね。

 モヴィちゃん先生にそう言ったら、とても深くうなずいておられました。



 ところで私は助かった後も、「偉い人に言われた通りにしてきただけなのに、なんで怒られるのかなあ」と思ってました。

 でも結局、自分がやったことの責任は自分が取らないといけないんですよね。偉い人のせいにはできないんです。

 ……いや、やっぱり偉い人の責任も追求したいです。よく考えるまでもなく捨て駒ですよね、これ。

 それはそれとして、私も反省しています。



 だから私は大勢の人を欺いた分だけ、これから何かを始めてみようと思います。私みたいな下っ端官吏でも、何か役に立てることはあると思うんです。たぶん。

 世界平和とか?



 さて、この手紙を誰かに届けてもらえるといいんですけど……ちょっと届きそうにありませんね。

 だからいつか、生きてお母さんとお姉ちゃんに会いに行きます。

 二人とも元気でいてください。



追伸:元老院はたぶんクビになったと思いますので、奨学金は魔王軍でコツコツ働いて返します。意地でも返します。みてろ!

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