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【完結】修羅場となった地獄の舞踏会  作者: 入多麗夜


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9/10

⑨ 三通の封筒と一つの真相 (ロザリンデ視点)

次話で完結です

 春の大舞踏会、初日の夜。

 大広間の扉が開かれると同時に、温かい光と音が流れ出し、王都特有の熱気がふわりと肌に触れた。


 ロザリンデはゆっくりと歩みを進めた。


 白いドレスの裾が床をかすめるたび、磨かれた大理石の淡い光が揺れる。


(さて……レオンハート様は、どのあたりかしら


 レオンハートに指定された時間も場所も、何か思惑があるとは感じていたが、深く考えたわけではなかった。


 ただ、せっかくなら何か一つくらい面白いものが見られるといい。

 その程度の気持ちが、胸のどこかにあった。


 視線を巡らせていたとき、青いドレスの令嬢――エリザベートが目に入った。


 彼女の胸元に、白い封筒がわずかに覗いている。


(……まあ。わたくしと同じ封筒)


 続いて、紅いドレスの少女――セシリアが、

 その封筒を見て小さく息を呑んだのが分かった。


 彼女は迷った末に、思い切ったような声でエリザベートに近づいた。


「……あの、失礼いたしますっ!」


 エリザベートが優雅に振り返る。


「ごきげんよう。どうかされまして?」


 セシリアの手が胸元へと伸びる。


 そこから取り出された封筒は、ロザリンデが受け取ったものとまったく同じだった。


「そ、その封筒……! もしかしてレオンハート様から、ですか……?」


「ええ。……あなたも、ですの?」


「わ、私も……その、同じようなものを」


 セシリアの声は心許なかったが、言葉は確かだった。


 三人の視線が自然と重なった瞬間、ロザリンデは静かに口を開いた。


「……お二人とも、その封筒を?」


 エリザベートとセシリアが振り返る。

 ロザリンデも胸元の封筒を指先で軽く示した。


「初めまして。わたくしにも届いております。文面は、おそらくお二人と同じでしょう」


 驚きに目を見張る二人。ロザリンデの胸の内は冷静だった。


(これは……三人まとめて、ということ?それとも、ただの杜撰な手配?)


 どちらであっても、この後に“何か”が起こるのは確かだった。


 暫くの沈黙のあと、エリザベートが落ち着いた声で言った。


「……ご一緒に伺いませんか。三人であれば……誤解もすぐに解けるはずですわ」


 ロザリンデはすぐに頷いた。


「異存ありませんわ」


 セシリアも、ぎこちないが確かな動きで頷いた。


 三人は自然と並んで歩き出した。

 大広間の人々の視線を受けながら、レオンハートのいる中心へと向かう。


 彼は、たくさんの令嬢たちと笑い合っていた。


 それを見て、ロザリンデはふと、“よくここまで器用に回せるものだ” と思った。


 まるでひとつの芸でも見ているようで、変な意味で感心すらした。


 エリザベートが一歩前へ出る。


「レオンハート様」


 振り返った彼の笑顔が、三人を同時に見た瞬間に止まった。


「エ、エリザベート……? セシリア……? ロザリンデまで……? ど、どうして三人で……?」


 どうして、の意味を考える必要はなかった。

 呼んだのは彼だ。


 三人が封筒を手元に出すと、レオンハートの顔から血の気が引いた。


「ち、違う! これは……! 誤解で――!」


 その時だった。

 深紅のドレスの影が近づく。


「皆様、お揃いでしたのね」


 ダイアナだった。


 その姿を見た瞬間、ロザリンデは気づいた。


(……ああ。そういう事でしたのね)


「レオンハート様の“婚約者”として、ご挨拶を」


 人々のざわめきが波のように広がる。

 エリザベートが目を見開き、セシリアは小さく震える。


(……三通も招待しておいて、婚約者に隠す。これでは、さすがに擁護のしようがありませんわね)


 その後の展開は、あまりにも早かった。


 エリザベートが一歩前に出て、はっきりとした音がひとつ。

 続いて、セシリアの小さな手が紅い跡を残す。


 ロザリンデは二人の背を見届けてから、

 ゆっくりとレオンハートの前へ進んだ。


 彼はもはや取り繕う余裕もなく、必死に言葉を探していた。


「ロ……ロザリンデ……君だけは、違うだろう……?」


 ロザリンデは軽く首を傾げた。


「どうして、そのように思われたのかしら。三人とも同じ手紙を受け取りましたのに」


 レオンハートの喉が詰まり、言葉が止まった。


 ロザリンデはふわりと微笑むでもなく、表情を変えぬまま、静かに続けた。


「……でも、そうですわね。私も “区切り” は必要ですもの」


 その瞬間、白い手が弧を描いた。


 パァンッ。


 乾いた音が三度目に響く。


「これでよろしいでしょう。 これ以上、場を引き延ばしても意味がないですわ。後は、ダイアナ様に任せます」


 そう告げると、ロザリンデは丁寧にスカートの裾を整え、二人の後を追うように歩き出す。


 実に爽快な夜だった――そう思うような一日であった。

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