表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】修羅場となった地獄の舞踏会  作者: 入多麗夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

⑩ ロザリンデの忘備録 (ロザリンデ視点)

 春の大舞踏会から、いくらか日が経った。


 王都ではまだ噂が続いているが、ロザリンデにとっては、すでに評判ほどの意味はなかった。


 ただ、一連の出来事を思い出そうとすれば――

 胸の奥に、くすりと笑いたくなるような感情が残る。


(……ええ。面白かったですわ。なかなか刺激的でしたもの)


 あの夜以降、ロザリンデはエリザベートとセシリアに手紙を送った。


 三人は文通を続け、やがてお茶会を開くようになった。

 性格も育ちも違うのに、なぜか話はよく合った。


 エリザベートの慎ましい優しさも、セシリアのまっすぐな純粋さも、ロザリンデにとっては居心地がよかった。


(……お友達、というのでしょうか。まあ、悪くありませんわね)


 その日の午後、ロザリンデはふと思い立ち、書斎の机に向かった。


 机の上には、ほとんど白紙のまま眠っていた日記帳が置かれている。


 開くのを待ち続けて、いつの間にか季節が一つ過ぎていた。


 ロザリンデは椅子に腰を下ろし、日記帳をゆっくりと開いた。


 真新しい白紙のページが現れる。


(……これは、忘備録として残しても良いかもしれませんわね)


 あの舞踏会は、彼女の日常から見れば素晴らしい“事件”だった。


 事件と言っても、恐ろしいものではない。

 ただ、ひどく面白く、色鮮やかで、退屈とは程遠い貴重な夜だ。


 ペンを手に取りながら、ロザリンデはふっと笑う。


 三人が封筒を掲げた時の空気。大広間のざわめき。三連続の平手打ち。レオンハートの顔色が見るたび変わっていく様子。


 どれも鮮やかで、まるで舞台の一幕のようだった。


 そしてその舞台が終わったあと、こんなふうに文通やお茶会が始まるとは、当の本人であるロザリンデすら予想していなかった。


(人生とは……何があるのか分からないものですわね)


 ペン先を紙に軽く置く。

 まずはタイトル、といったところだろうか。


 しかし、しっくりくる言葉がすぐには浮かばない。

 ロザリンデは肘をつき、少しだけ考え込んだ。


(普通につけてもつまらないですわね……そうですわ。少し大げさなくらいが、ちょうど良いかもしれません)


 ロザリンデはペンを手に取った。思いついた言葉を形にしようと、ペン先を紙に置く。


 最初の文字が滑るように記された。


『修羅場となった地獄の舞踏会』


 自分でつけたにもかかわらず、ロザリンデはくすりと笑った。


「ふふ……大げさですけれど、あの場にいた方々なら、納得してくださるはずですわ」


 ページに記された黒いインクが光を受けて乾いていく。


 次にどんなことを書こうか。

 あの夜に見た光景を連ねてもいいし、舞踏会のあとに知った二人の変化を書いてもいい。


(ああ、そうでしたわ。エリザベート様とセシリア様のことも記しておきませんと)


 彼女たちの成長や、これから先どんな人物になるのか――


 この日記帳は誰にも見せない。見せる気もない


 彼女にとって、記録とは“整理”ではなく、後から読み返して“ああ、こんなこともあった”と自分で面白がるためのものだ。


(今度会う時に、二人にも聞いてみましょうか。色んな話が聞けるかもしれないですし)


 ロザリンデは「さて」と小さく呟き、紙の上へと筆先を滑らせた。

 

最後までありがとうございました!面白かったら評価&ブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エリザベート、セシリア、ロザリンデの三人は交流を持つようになったけど、ダイアナとのやり取りは無いんですね。 まぁ三人とは少し立場が違うし、あの場を作った黒幕?はダイアナ嬢でしたが。 ダイアナ嬢やレオ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ