104：外交ドクトリンと裏の顔

・「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、最終手段とする」

・「人類の普遍的価値である思想・表現・言論の自由の十全な実現」

・「自由でオープンな、互いに結び合った経済関係の追求、この観念を共有できぬ場合交易及び交流そのものを拒む権利を有するものとする」

格好良く書いてあるが偉い人の文言を都合よくつまんで拝借しただけ

これが諸外国へ向けて出す外交ドクトリン、これを共有できない国とは国交は結ばない…これが表の顔

そして

「踵が浮いてるしっかりつけろ」

うつ伏せの状態で小銃を構えるエルフのエリィに注文をつける、構えているのは新型試作照準メガネ(スコープ)を着けた三八式歩兵銃、照準メガネは調整機構を開発できなかったため２．５倍と５倍の２つ距離に拠って交換する

銃は旧日本軍が通った歴史通り命中率の良い物を探している最中だがこれが難しい

銃と照準メガネのゼロインと呼ばれるマッチング、前もって銃を固定してゼロイン調整をしたつもりだが俺達は何百丁何千丁とゼロインのマッチングをしたプロの職人でもなんでもないのだ

手持ちの中で最良の物をが限界

十発撃って銃と射撃メガネを替えてを繰り返し精度の良いものを探し出す地道な作業

エリィが選ばれたのはその忍耐力と集中力、全くと行っていいほど動じないその能力からだ

汚い話だが、漏らそうが飯が食えなかろうが何をしようがじっとその場から動かないだけの胆力が狙撃兵には求められると聞いた

ノウミさんには斥候部隊を編成してもらった斥候部隊にはもうノウミさんは入ってない今後のことを考えればもう前線に立ってもらうべきではないと判断した、部隊はフェデンとその部下達と一緒にサンダン王国の内情…主に狙撃ポイントを模索して貰う算段

フェデンの部下に関しては現地での場所の確保や警戒に当たってもらう

フェデンが言うにはサンダン王国では麦の作付けを終えたタイミングで祈念式が行われ国の錚々たる面々が勢揃いする、それを狙って得体のしれない女もしくは裏から国を動かしているだろう人物を暗殺する、最小限のダメージで最大の効果を狙う、言うは易く行うは難し

旧日本軍では狙撃兵は木の上から狙い、狙撃に成功したとしても発見されその場で殺されてしまうというケースが多かったと本では読んだ事がある、ある種の特攻に近い行為

そうやって散っていった兵士に哀悼は捧げても否定しなきゃいけない、俺達の狙撃兵には成功でも失敗でも生きて帰って来てもらう為の最大限の努力をする

祈年祭は毎年の持ち回りで場所が変わる、今年はレガーテという地域で開催これは既にベルザードからの情報で確定していて会場のセッテイングも始まっている

問題は誰をターゲットにして何処から狙って安全に逃げられるルートを確立させるかだ」

第一の攻撃目標は政治の場に居るという謎の女、種族はリザード族だと言うがフェデンと戦った女と同類なら中身はどうだか解らない

第二の攻撃目標は宰相、ベルザードの情報では国王は臥せっていて表に出てこない、実質の権限を振るっているのは宰相

この宰相も怪しい動き有りとのこと女と宰相のセットと見た方がいいと思ってる

データの転送は出来ないため写真を撮っても手元に来るまで行きと帰りの途中、車を使っても5日は掛かる、その写真から狙撃ポイントを設定、狙撃する建物の色と同じ茶褐色のカモフラージュをホビット達に依頼した、リザード達の視覚も考慮して断熱素材を使ってもらう隠れているつもりが丸見えでしたじゃお話にもならないからな

ダーン

「右に5ｃｍ上に2ｃｍズレた、修正」

隣に居るのは観測手のベリー、ホビット族の男だ彼の手にはゴルフ用のレーザー距離計、社長の家の物置から見つけた旧式では有るが1000ｍまで測れる高級品だ、なんとか銃にマウントできないか試してみたが無理だったが、そもそも現代の狙撃は一人ではなく二人、射手と観測手のセットだったと思い出しコンビを組んでもらったのだ

射撃の反動は本来大きい、撃った瞬間に銃は跳ね上がりスコープはターゲットから外れてしまい当たったかどうかの判定は本人には瞬時には行えない、映画の様に撃たれた相手が血を流して倒れるなんてのは射手には見えないのだ

それを確認するのはコンビを組む観測手、ターゲットの確認だけでなく様々な情報を集中している射手に送る役目も有る

データから算出した狙撃ポイントからターゲットまでは250ｍ、急造コンビでギリギリ狙えるかどうか見つかるまでに撃てる時間は３発撃が限界、遮蔽物は無いが逆に直ぐにバレてしまうだろう魔法の様に見た目が派手じゃない分を考慮しても安全マージンを考えればこれ以上は無理だ

祈年祭の段取りも頭に入れおおよその計画は出来上がった、後は精度をとにかく高めるだけ幸い祈年祭まで後二週間、前後する可能性を考慮しても後数日は訓練に費やせる

フェデンにはこの暗殺で起きるどんな状況もコンクルザディアは関知も責任も取らないと伝えてあり了承済み

祈年祭まで残り十日、現時点でこれ以上の準備は出来ないと判断し二人を作戦のためにコンクルザディアから車で出発させる

賽は投げられた

サンダン王国が正常を取り戻すのかそれとも消えて無くなるのか狙撃に成功してもしなくても先行きは解らない、分の悪い賭けだった