第七十九話 エルフ園、ユグ茶
●○●
俺の本体たる大樹が生えている旧エルフの里の広場。
その周辺には今も幾つかの建物が建ち並んでいて、今では収穫した作物の貯蔵庫や酒造蔵、あるいは砂糖や香辛料などを加工するための場所となっていた。
そこを視察するために訪れた俺、セフィ、メープルの三人は、広場に数人のエルフたちが集まり、何やら地面から拾い集めている光景を目撃する。
その集団には長老もいた。
「ちょーろーだ!」
「おお、姫様に精霊様、どうされましたかな?」
長老がこちらに気づいて歩み寄って来る。
『いや、酒蔵とか砂糖作る作業とかで、何か問題でも起きてないか気になってな』
「ふむ、特に問題があるとは聞いておりませんのう」
長老が髭をしごきながら答える。
『そうか……なら良いんだけど』
そんな長老から視線を逸らし、俺は広場にいるエルフたちを眺める。
『いつものやつ?』
「ええ、今日もいただいておりますぞ」
エルフたちが拾い集めているのは、俺の本体が落とした葉っぱだった。
俺自身に何か病気とかがあるわけではないし、落葉する季節なども特にないのだが、強風が吹いたりすればそりゃあ葉っぱは落ちるし、何もなくても落ちたりする。
それで枝が貧相になったりする事もない。
何しろ葉っぱくらいすぐに再生する事ができるし、数える気にはならないくらいには葉っぱの枚数は多いのだ。
まあ、たぶん人間でいう抜け毛みたいなものである。
なので俺としては、地面に落ちた葉っぱを気にする理由もなかった。
しかし、俺がマナトレントに進化した後くらいから、エルフたちが地面に落ちた葉っぱを欲しいと言って来たのだ。
断る理由もないので了承し、今ではこのように落ちた俺の葉っぱは全てエルフたちによって回収されている。
なんのためか?
使い道は色々あるらしい。
マナトレントだった頃は特別な使用法としては魔力回復薬の材料くらいだったのだが、エレメンタルフォレストに進化してからは軽傷治癒、病気治癒、解毒、疲労回復、能力上昇薬など、様々な薬に加工できるほどに、多種多様な薬効を持つようになったらしいのだ。
そんなわけで、エルフたちは貴重な素材の一つとして俺の葉っぱを集めているわけだ。
しかし、それだけが理由――というか、使い道の全てではない。
そもそもエルフたちには生命魔法の使い手はたくさんいるから回復薬の類いはあまり使われないし、能力上昇薬にしてもミストルティンを使用するか、自前で魔法をかければ良い。
そんなわけで非常用として極一部が薬に加工される他は、別の用途で使用されていたのが本当のところである。
ところで話は変わるが、お茶というのは何もお茶の木の葉だけが全てではない。
お茶には色々と種類があり、使われる植物も多様である。
たとえば柿の葉や桑の葉、松の葉などもお茶として使えるし、広義ではハーブやミント、柑橘類の皮などもお茶に使われるだろう。あるいはタンポポの根やススキの葉っぱなどもお茶として飲料可能な材料になる。
まあ、何が言いたいかというと、自然界には意外とそういった植物は豊富であるのだ。
それはどうやら、俺の葉っぱも例外ではなかったらしく、エルフたちは俺の葉っぱを煮出したお茶を、割と常飲している。
『いつも思うんだけど……美味いの?』
果実は食われるために作るみたいなところがあるが、葉っぱはそうではない。
別に美味しくなるように作ってるわけでもないからなぁ。
「ホッホッ、もちろんですじゃ」
しかし、長老の態度からすると美味いのはお世辞というわけでもなさそうだ。
「飲めば疲労が回復し、健康を増進する作用や解毒作用もありますからのぅ」
『そのまま飲んでも効果あるのか?』
「薬にするよりは落ちますが、毎日飲んでおけば病気知らずですぞ? そもそも精霊茶でも特上品質になりますからな。不味いわけがないですのぅ」
『精霊茶?』
なんだそれ?
世にはそんなお茶が出回っているのだろうか、と思って聞いてみれば、
「精霊様はご存知ないですかな? 霊樹など、精霊様が宿った霊木の葉は豊富な薬効のあるお茶として、人の間では高値で取引されておるのですよ」
『……マジで?』
さらに聞くところによると、精霊茶の味はほんのりと甘味があり、極上の味なのだとか。
おまけに薬の素材としても一級品で、物によっては素材に追加するだけで一段上の品質になるらしい。本来はずいぶんと貴重なものだそうだ。
「アルヴヘイムの精霊樹様がご健在だった頃は、我々エルフが他国に輸出する一番の目玉商品でしたからのぅ」
『ほう……じゃあ、俺の葉っぱもプロンに売ってみるか?』
高値で売れるというのなら、一度持って行くのも悪くないだろう。
落ちた葉っぱを再生するのなんて、食料や果物を作るのよりもずっと簡単なことだ。数を用意するのは容易だろう。
「なるほど、でしたら儂らの方でお茶に加工しておきましょう」
『ああ、頼むよ。あと一応、薬になるならお茶にしてないやつも売ってみるから、それも用意しといてもらって良いか?』
「ふむ、それもそうですな。分かりました、用意しておきましょう」
畑の見回りで思いがけず商品が増えてしまったな。
薬の材料になるならば、ビヴロストに対する援助として安く売っても良いかもしれない。
『畑の見回りはこれで良いか。どこも問題はなかったみたいだな』
「みんななかよくしてて、えらいとおもいます!」
セフィも腕を組んで満足げに頷いている。
今やエルフ、狼人族、ドワーフの三種族が一緒に暮らしているのだから、種族間の軋轢みたいなあれやこれやがもっとあるかと思ったが、意外にもそういったこともなく共同生活は上手く回っているようだ。善きかな善きかな。
『……』
『んで、ガングよ、どうしたんだよ?』
そこで俺は、俺の本体の管理を任せている分霊ガングレリに声をかける。俺やセフィがやって来ても無口でいるなんて、そんな物静かな性格ではないはずなのだが、なぜか奴は一言も喋らないのだ。
「ガング、おちこんでる?」
『え? 落ち込んでんの、こいつ?』
樹木の感情を読み取るという、何気に高等な技能を発揮したセフィが心配そうに言った。
ちなみに俺には植物の感情なんて分からない。いやだって、表情もないのにどうしろと言うんだ。
『……聞いて、くれるか?』
しかし、セフィの洞察は当たりであったらしい。
ガングが構って欲しそうな、なんともウザい声を出した。
「どしたの?」
『実はさっきな、俺に御供え物があったんだが……』
「ふむふむ」
里の食料供給を一手に担う俺であるが、その肥料としてだけじゃなく、感謝の気持ちとして何かしらを供えてくれる者は多い。
最初はエルフだけの風習みたいな感じだったが、すぐに狼人族も狩りで得た獲物を供えてくれるようになった。今ではドワーフたちも供え物を持って来てくれる。まあ、ドワーフたちの場合は酒がもっと欲しくて、俺から管理者たるエルフたちを説得して欲しいなどの即物的な理由があるが。
そんなわけで御供え物があること自体は珍しくないのだ。
『それが……食い終わったトウモロコシの芯だったんだ』
『……』
それ、さっきセフィが食ったやつだわ。
あのエルフの女性、ほんとに俺の本体まで持って来たのか。
『俺、嫌われてるのかな……』
食い終わったトウモロコシの芯。
控えめに言ってただの生ゴミである。そんな物を自身の根本に置かれたら、そう思うのも無理はなかった。
「そんなことないよ! たぶん、ガングにもたべてほしかったんだとおもう!」
『そ、そっか? ……そう、だよな?』
セフィが必死に励ますように言っているが、もしかして自分が食べたトウモロコシのことだと気づいていないっぽいな。
それから食べて欲しかったにしても、普通は実が付いた物を持って来るだろ。いや、あえて何も言わないけどね。
「げんきだして! そーだ! セフィがおーえんしてあげるし!」
『お、おう、ありがとな』
「うん! うおおー、げんきになれー!」
セフィが俺の本体に手を当てて、本日二度目の「応援」をしてくれる。
ありがてぇありがてぇ。
●○●
数日後。
そんな一幕がありつつも、プロンに売る食料品や閃光マリモ、ブランド(になるかもしれない)精霊茶や薬用の葉っぱ、ドワーフたちの打った武器など諸々の用意を終えた俺たちは、再びビヴロストに向かうことになった。
増産したマジックバッグも用意したし、商品はすべてその中に入れてある。
準備は万端だ。
ちなみにビヴロストに向かうメンバーは、俺、セフィ、ゴルド老、メープル、ウォルナット、ローレルだ。どうやらビヴロストの中ならば危険もほとんどないようだし、護衛役はウォルとローレルの二人だけで十分だろう。いざとなったらメープルも戦えるらしいし、問題はない。
「んじゃあ、準備は良いかの?」
「だいじょぶ! ばっちし!」
隠れ里のある洞窟内、その最奥にある転移陣の前でゴルド老が最終確認をする。
それにセフィが元気良く答えた。
何やらセフィはお出掛けが楽しみらしく、テンションはマックスだ。
「良し、じゃあ行くぞい」
「しゅっぱーつ!」
転移陣に乗った俺たちはビブロストに転移した。
【お知らせ】
この度、皆様のご声援のお陰で拙作「雑草転生 ~エルフの里で大切に育てられてます~」が書籍化する運びとなりました。
レーベルは「アーススターノベル」様で、ホームページで既にご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、6月16日発刊予定です。イラストは「にじまあるく」様で、ドヤ顔かわいいセフィなど、色々と素敵なイラストを描いていただいております!
続報などあれば活動報告の方でお知らせする予定です。
……というわけで、だいぶサボっておりました更新の方も、明日から本気出す所存です!
よろしくお願いいたしますm(_ _)m




