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第五十六話 ドワーフの事情


 ●○●



 エルフたちがかつて住んでいた都市、アルヴヘイムが教国によって壊滅させられた事はドワーフたちも知っているようだった。

 なので説明したのは、都市が滅んだ後にエルフたちがヴァラス大樹海に隠れ里を築き、暮らしていた事。

 そして、おおよそ3週間前に隠れ里が教国の騎士と思われる人物と多数の傭兵によって襲撃された事。

 教国にエルフの隠れ里が把握された恐れがある事から、里を移す事に決めた事。


 とりあえず、そこまでの事情を聞いた老人ドワーフの反応が、


「なぁんで儂らのところに来るんじゃい! どこにでも好きな場所に行けば良いじゃろがッ!」


 という、酷く迷惑そうな言葉だった。

 ドワーフたちも教国の人族至上主義については承知しているし、むしろ「一番最初の被害者」でもあるのだが――その事については後述しよう。

 ともかく、そういうわけでドワーフたちにとっても自分達の里の場所を教国に知られる事は避けたいのだ。

 それゆえに俺たちが来た事を迷惑に思うのも理解できる。

 もしかしたら、俺たちの後を追って教国の連中がやって来ないとも限らないからだ。

 しかし――、


『いつまでも教国の連中から逃げ続けて隠れ住んでても、早々事態が改善するとは思えないだろ? むしろ時間が経つ毎に悪くなるだけだと思うが』


 教国の持つ力は、偏った独善的な思想の国家が持つべきではないほど、いまや肥大している。

 それが俺の偽らざる印象だ。

 だからこそ、エルフやドワーフなどの人族以外の「人類」――教国は亜人と呼ぶ――は、何もせずにいれば、いずれ追い詰められてしまうだろう。


「……儂らには関係ないわい」


 老人ドワーフは、教国から「逃げ続けている事」も「隠れ続けている事」も否定しなかった。

 その上で関係ないと発言したものの、その表情は自らの言葉を信じているようには見えない。

 決して関係ないはずがない事を、ドワーフたち自身が痛いほど理解しているからである。


「……で? それとこれと、儂らがエルフどもを受け入れる事と、何の関係があるんじゃ?」


 だからこそ、話を打ち切らずに先を促してきたのだろう。


『教国に対抗するには、残念ながら俺らだけでは無理だ』


「じゃろうな」


 今のエルフの里より、遥かに規模も大きく人口も多かったアルヴヘイムでさえ、教国には屈してしまったのだ。おまけに聞くところによると、先代のハイエルフは数千年も代替わりを経ていない――つまりはそれだけ強大な力を持っていたという。

 セフィのように人としての肉体を持つ「半神」ではなく、肉体は化身として自由に生み出せる、完全なる神だったと長老たちから聞いている。

 おそらくは、今のセフィの何倍、何十倍もの力を持っていたのだろう。

 それでも新神たちには勝てなかった。

 ならば余計、今の俺たちでは教国に対抗するのは不可能。

 で、あるならば。


『俺たちだけで無理なら、他の奴等とも協力するのが良い――と考えるのは、普通だろ?』


 数は力だ。

 ならば仲間の数を増やすまでである。


 まあ、それは第二案というか、一番の理由ではないのだが。

 目の前のドワーフたちには言わないが、とにかく俺自身や配下の戦力を増やすための時間が欲しい――というのが最優先するところでもある。

 そのために、ドワーフたちの里――というか、ここは都合が良い。

 この場所ならば教国も早々に攻めてくる事はないだろう。しかし、この場所だからこそ俺たちが外で暮らすのは難しい。ここまで移動して来るまでにも数多くの魔物たちに襲撃された事からも、それは分かるだろう。俺が今のように結界を張り続けるのは消費する魔力の量からいって現実的ではないし、大樹海の外縁に里を構えるとしても、セフィによる「忌避結界」の効力は弱まるらしい(森の中心に近いほど、セフィの力は強まる)。

 それに霊峰の魔物――特に属性竜ともなると、そもそもセフィの「忌避結界」自体、効力がないかもしれないという懸念もあるのだ。


 それがドワーフたちの「里」に受け入れてもらえれば、問題は解決する。

 彼らの背後にある洞窟の先には、巨大な魔物は入っていけないだろうし、里自体が「特殊な場所」であるために、外からの魔物を警戒する必要はないという話だった。

 おまけに仲間も増えて、ドワーフの技術で色々戦力も強化できそうだ、という打算ももちろんある。

 しかし――、


「普通なわけあるかい!」


 老人ドワーフには納得していただけなかったようだ。


「そもそも儂らを取り込んだところでどうにかなる戦力差ではあるまい。無駄な抵抗をするより、逃げ隠れしておった方がよっぽど賢い選択じゃ」


 彼の言葉も、確かに正論ではある。

 さらに加えて、


「それにクソエルフどもと一緒に暮らすなど虫酸が走るからの」


 エルフとドワーフの確執を解消するほどの理由にはなり得ないようだった。

 だが、こちらもそれなりにドワーフたちの事情というものを把握しているのだ。


『おいおい、そんなこと言ってる場合か? 見たところ、アンタらもだいぶ困窮しているみたいだが?』


 ドワーフたちの痩せてやつれた姿を見れば分かる。

 狼人族たちとの取引がなくなったところで、元々食料のやり取りはほとんどしていなかったという話だ。人口も爆発的に増えたという事もなく、長命種らしく微増しただけという話もヴォルフから聞いている。つまりドワーフたちが痩せた原因は別にあるのだ。


 彼らが食料を仕入れていた相手は――ヴァナヘイムという名の多種族国家であるらしい。

 元々大量の食料を仕入れていたわけではないそうだが、それでもアルヴヘイムが滅んでから、取引の回数も量も減少傾向にあったという話だ。


 というのも、ヴァナヘイムは地理的に教国の西側にあり、しかも国境を接している。

 そこまで分かれば、後は簡単に推測できるだろう。


 行き過ぎた人族至上主義を掲げる教国が、ヴァナヘイムという国に対して不干渉を貫くわけがないのだ。

 もしも教国がヴァナヘイムへ侵略戦争を仕掛けているとしたら、ドワーフたちとの交易に支障があってもおかしくない。


 そもそも、ドワーフたちは昨日今日でここに住み始めていたわけでもない。

 少なくとも20年以上前には、彼らはここに住んでいたらしい。


 かつて教国は、ドワーフたちの技術を手に入れるため、彼らを奴隷として捕まえようとした。

 それに当然反発したドワーフたちは教国の軍勢によって滅ぼされたが、大部分は逃げ出し、霊峰フリズスの麓にて隠れ里を築いたらしい。

 ドワーフたちも教国によって虐げられた者たちなのだ。


 まあ、要するに。


 アルヴヘイムが滅び教国のヴァナヘイムへの侵攻が激化した結果、ドワーフたちとの交易が滞り食料不足に陥っている――というのが彼らの現状であるようだ。

 ならば――、


『今、アンタらが食った料理だが』


「あん?」


『大部分は俺がスキルで育てた作物なんだ。肉もワイバーン以外は家畜で、飼料に俺が作った木の実とか使ってるし、ワイバーンだって狩ろうと思えば群でも狩れる』


「なんじゃと?」


 ドワーフたちは驚いたように卓上の料理を見つめた。


『それから、作物を収穫するのに時間はかからない。いつもすぐに収穫できるってわけじゃないが、2、3日もあれば結構な量を用意する事ができる』


『光合成』と『エナジードレイン』で回収したエネルギーを『種子生成』や『地下茎生成』で食料にするのには、それほど苦労はない。

 ドワーフたちが何人いるのか、正確なところは知らないが、彼らを養うのに十分な食料は作り出せると思う。

 もしも俺だけでは無理ならば、新たに種子から配下を生み出し、手分けして作れば確実だろう。

 もちろん量が増えれば時間もかかるが、それでも食料不足で痩せ細るような事にはならないはずだ。それだけは確かである。


『まあ、つまり、俺たちを受け入れてくれるなら、十分な食料を提供できるって事だ。それならアンタらにもだいぶ利があると思うんだが?』


「ぬ、ぬぅ……!」


 老人ドワーフは苦々しく顔をしかめる。

 しかし変に意固地になっているのか、それとも頑固なだけか、簡単には頷かない。

 それも予想はしていたし、そもそも俺はまだ最大の手札を切っていないのである。


『……料理、美味かったろ?』


「……まあまあじゃな」


 と聞いてみれば、不承不承といった感じで老人ドワーフは首肯した。


『自慢じゃないが、俺の作った果物や野菜は美味いと評判なんだぜ?』


「……ふんっ」


「ねえユグ、セフィしょくごのでざーとにモモたべたい」


『――え? あ、うん。ちょ、ちょっと待ってくれ。今大事な話してるから、後でな?』


「……はやめにしてね?」


 自由か。

 シリアスな雰囲気がぶち壊しである。

 突然割り込んできたセフィをいなしつつ、老人ドワーフとの会話を再開する。


『ごほんっ……で、だが』


「……」


『俺は野菜だけじゃなく、穀物も作れる。そんな俺の果物や穀物で、酒を作ったらどうなると思う?』


「なん……じゃと……!?」


 どうやら理解できたようだな。

 老人ドワーフのみならず、周囲で話を聞いていたドワーフたちが戦慄の眼差しを向けてきた。

 俺がスキルで生み出した最高の素材で、エルフという最高の作り手が酒を作る。


『さあ、想像してみるが良い……その酒の味を』


「くっ……! 舐めるな! 今更エルフの酒なんぞで儂らを懐柔できると思ったら大間違いじゃぞ!!」


『くっくっくっ! 何時までその強情な口振りが続くのか見物だな。……メープル』


 俺は既に勝利を確信していた。

 思えばドワーフとの交渉など、俺にとってはあまりにも相性が良い事だったのだ。

 ここに来るまで2週間、なにも用意したのは料理ばかりではない。むしろ酒をこそ、エルフたちの助けを借りて念入りに準備してきたのだ。

 なので思わず余裕の笑みを漏らしつつ、セフィの傍で甲斐甲斐しくソースなどで汚れた口許を拭っていたメープルに声をかける。


「はい、精霊様」


『すまんが、里からあの酒を持ってきてくれ』


「かしこまりました」


『それから』


 と、言葉を付け足す。


『セフィ用に作り置きしてた桃があるから、それも持ってきてくれ』


 ふっ。

 勝利は目前だぜ。




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― 新着の感想 ―
[一言] ドワーフは普通に引き籠りを発症してる気が。
[一言] ドワーフと和解するには酒、古事記にもそう書いてある。
[一言] 前置きが長いですね。
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