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第四十二話 ドワーフとの確執 ~五千年の歴史~


 ●○●



「奴らが我々を受け入れるとは思えませんな。何しろ我らエルフはドワーフのことが大嫌いですが、ドワーフどもも我らエルフのことが大嫌いですからのぅ」


 と、長老は語る。

 ああ、ドワーフの里か何かが霊峰の麓にあるのなら、そこに住まわせてもらえないかという話である。

 彼らがどうやって霊峰での生活を成り立たせているのかは知らないが、すでにそこに住んでいるのだから、霊峰の魔物たちをどうにかする方法があるのだろう。


 その方法を教えてもらえるか、また教えてもらえたとしても俺たちが真似できるかは分からない。

 だから最善は、ドワーフたちと一緒に暮らす事だと思うのだが……。

 長老の返答は先の通りであった。


「そなの?」


 と不思議そうに首を傾げるセフィは、どうやらエルフとドワーフの確執を知らなかったようだ。


「姫様はまだあ奴らと会った事がないのでしたな。それにまだお若いですし、知らずとも当然ですか……」


 ふむ、と長老は自らの長い髭を撫でながら思案した。

 それから真剣な様子で、一つ頷いて語り始めたのだ。


「良いでしょう。姫様も我らエルフを導く者として、知っておかねばならないでしょうからな。エルフとドワーフの確執の歴史……儂が知る限りのそれを、語るとしましょうか」



 ●○●



「我らエルフとドワーフどもが、なぜ反目し合っているのか……。

 その理由は、今よりおおよそ5000年前の出来事に端を発しております。


 神々の大戦ラグナロクが起こったのが、だいたい300年ほど前。

 それよりも遥か昔、5000年前にはまだ、今では旧き神々と呼ばれ、滅んだ神たちは存在しませんでした。


 存在するのは今では自然神と呼ばれる、各々が自然を司る神々のみだったのですな。

 そう。

 姫様も自然神の1柱ですぞ。

 ハイエルフは我らエルフの中から生まれる自然神で、植物や森という存在を司っているのです。


 では旧き神々は何かと申しますと、各々が自らの力のみで神へと至った戦闘神と呼ばれていたのですが……まあ、これは関係のない事ですな。


 ともかく。


 旧き神々もまだ存在しないくらい昔、我らエルフの住む森の木々を、奴らドワーフどもは大量に伐採していたのです。

 なぜかと申せば、ドワーフどもは鍛冶などの金属を加工する術に長けておりましてな。

 加工した金属製品を他種族に売ることで、生計を立てていたのです。


 しかし、金属を加工するには大量の燃料が必要となります。

 その燃料として、クソドワーフどもは我らの森を、木々を、何の断りもなく伐採していたのですな。


 当然、我らエルフは博愛の精神を持っております。

 ドワーフどもがそうするのも必要あっての事と思い、最初は我慢していたのです……。


 度が過ぎればそれとなく注意するなど、それはそれはもう、優しく接していたのですなぁ……。

 しかし、ドワーフどもは幾ら注意しても行動を改めることはなく、好き勝手に森の木々を減らすばかり。

 そこで少々お灸を据えようと、我らエルフが交易に出していた酒を止めてみたのです。


 ああ、あ奴らは度しがたい酒精中毒でしてな、三度の飯より酒が好きと嘯くような輩で。

 そんな奴らにならば、酒を止めるのが一番良い薬になると考えたのですな。


 こう見えて我らエルフは酒作りが得意なのです。

 そもそも酒は植物から作りますからな、その植物の扱いにおいて、我らエルフの右に出る者はいないという次第で。

 当時、最高の品質と味を誇っていた我らエルフの酒が手に入らなくなったドワーフどもは、しかし自らの蛮行を省みることもなく、不遜にも我らに抗議して来たのです。


 奴らは脳みそまで筋肉で出来ているような輩ですからな。

 反省すれば温情をくれてやった事でしょうが、悲しい事にそうはならなかった。


 そこで!


 我らエルフは、周辺の様々な種族、様々な国々に協力を頼んだのです。

 かつて我らエルフは大陸の盟主としての立場にありました。ゆえに、多少のお願いならば号令を発することも不可能ではなかったのですな。


 我らは他の種族たちにお願いしました。

 ドワーフに酒を流さないように、と。

 奴らの目を覚まさせるためにも、どうか協力して欲しい、と。


 まあ、流石に全ての酒を止められるわけもなく、隠れて交易を行っていた者たちは幾らでもいたでしょうが……それでも全体の流通量は激減し、自然、酒の値段も高騰していくわけでして、我らの目的は果たせていたというわけです。


 これできっと彼らも目を覚まし、我らの言葉に耳を傾けてくれるようになる……我々エルフは、そう信じていたのですな……。


 しかし!


 なんとっ!


 あ奴らは愚かにも我らエルフに対して謝罪するどころか、宣戦布告して来たのです!

 森を削るのを止めないばかりか、たかが酒を絶ったくらいで宣戦布告ですぞ!?

 信じられますかな!?


 それから100年以上、エルフとドワーフの戦争は続きました。

 最終的には我らエルフの住む森の木々を伐らない、他種族の酒のみ輸出規制を解除する――という条件で休戦協定を結びましたが……。

 それから5000年、我らエルフとドワーフは終戦宣言を出しておりません。つまり、今もなお戦争中というわけですな。


 ――とまあ、こんな事情もあり、愚かなるドワーフどもを許すわけにはいないのです。

 そして奴らも我らを逆恨みしていますからな。

 一緒に暮らすなどもっての他ですぞ!


 お互い長命種という事もあり、この確執は今でも連綿と続いているのです。

 親から子へ、子から孫へと……」



 ●○●



『……へぇ』


 長老の話を聞き終えて、俺はそう呟いた。


 く、下らねぇ……。


 だから何だよ、っていうね?

 今はそんな事言ってる状況じゃねぇだろ、っていうね?


『セフィ』


「あい」


 とりあえず、里の最高責任者かつ最高権力者の承認さえ得てしまえば、長老の駄々など関係ないのである。


『ドワーフの里に避難するってことで、良いか?』


「いーよ」


 良し。

 これでオーケー。


「ああ!? なりません! なりませんぞぉ!? 姫様も一度奴らに会えば分かります! 奴らがいかに無礼で野蛮な奴らなのか! 生理的に無理! という言葉の意味を、姫様もきっと知る事になるのですじゃ!」


 とか何とか長老が叫んでいる。

 俺の知識にも「エルフとドワーフが仲が悪い」という情報はあるけれど、ここまでとは。

 まあ、別に長老が何と言おうが、もはやドワーフの里を目指す事は決定事項である。


『長老』


「――何ですかな? 諦めてくれましたか?」


『一応聞いてみるけど、ドワーフたちの正確な居場所は?』


 ダメ元で聞いてみた。


「知りませんなぁ」


 ダメだった。


『じゃあいいよ。他の人に聞くから』


「儂は断固として反対ですぞ! たとえ貧しても失ってはならぬ誇りというものが――」


 意地になって叫び続ける長老の家を後にする。

 しかし、血管切れないと良いけどな。長老も歳なんだし、あまり血圧が高くなるような状態は健康によろしくないと思うのだが……。

 ちなみに、長老の歳は600歳ほどと聞いている。

 里の中では最高齢だ。


『セフィはドワーフの里がある場所、知ってるか?』


 里の中をセフィに抱えられて移動しつつ聞いてみる。

 里の住民たちは皆、引っ越しの準備に追われて忙しそうに動き回っていた。


「んーん、しらないー」


『だよなぁ』


 ドワーフとも会った事はないらしいし、まあ、当然か。


『じゃあ、適当に聞いてみるか』


 というわけで、物知りそうなローレルが里の広場にいたので、聞いてみる事にした。

 彼は何やら木材やロープなどを運び、住民たちの家を補強する手伝いをしていたようだ。

 いや、引っ越しの際はかなり「揺れる」と伝えておいたので、建物などは壊れないように補強が必要なのである。


『おーい、ローレル!』


「おや、姫様、精霊様。どうしました?」


 俺たちに気づいたローレルは作業の手を一旦止めて、こちらへ近づいてきた。


『いや、ローレルならドワーフの里の場所を知らないかと思ってな』


「ドワーフの里の場所ですか? 知っていますが、まさか……」


 それだけで気づいたらしい。

 懸念はローレルも長老のようにドワーフを毛嫌いしていたら――という事だ。

 もしもエルフたちの大半がドワーフなどと一緒には暮らせない、というならば、流石に引っ越し先の候補としては考え直さざるを得ない。


『うん、まあ、そのまさかなんだけどね。ローレルはどう思う?』


「私は構わないと思いますよ」


 しかし、ローレルはドワーフたちに対する嫌悪感もなさそうであった。

 こちらが拍子抜けするほど、あっさりと頷く。


『いいのか?』


「ええ、意外ですか?」


『まあね。さっき長老と話してたんだが、すげぇ嫌ってたからさ』


「ああ、ドワーフを嫌っているのは老人方に多いのですよ。実は私を始め、比較的若いエルフたちはドワーフと会った事がなく、それほど嫌っているわけではありません」


 どうやらローレルもドワーフと会ったことはないらしい。

 そりゃあ、会った事もない奴をそれほど嫌う事は、なかなかできないよな。


『でも、場所は知ってるんだよな?』


「大まかですが。それにヴォルフ殿などは実際にドワーフの里に行った事もあるはずですし、彼に聞けば迷う事もないかと」


『そうなの?』


「はい、私たちよりも狼人族の方がドワーフとは交流があったはずですからね」


『ふむ……』


 なら、場所については問題なしか。

 しかし……と、ここに来てとある疑問が浮かんできた。


『アルヴヘイムを失った時、最初からドワーフたちと合流しようとは思わなかったのか?』


 という疑問である。

 好き嫌いを抜きにして考えれば、その方がここよりも安全だと思うのだが。教国からの距離的にね。


「ああ、その時はここでも十分離れているし、問題ないと考えていましたから。人族が早々踏破できる距離ではないですしね」


『ふむ、だけど、それだけが理由じゃなさそうだな?』


 苦笑いしながら言うローレルを見ていれば分かる。


「ええ、お察しの通りで。ウチの老人方がドワーフを嫌いなのもあるのですけれど、一応はドワーフたちにも受け入れてもらえないか、聞いてはみたのですよ」


 なるほど。

 一応は、ドワーフたちに話を持っていったわけなのか。


『でも、今いっしょに暮らしていないって事は……』


「まあ、ドワーフたちも私たちエルフを嫌っている者は多いようで、断られました」


『んー、そっかぁー……』


 そりゃそうか。

 互いに嫌い合っていれば、そうなるよな。


「それで、ドワーフの里に向かうのは良いのですけれど、精霊様には受け入れてもらう策はあるのですか?」


『ふむん』


 普通に向かったところで、断られるのが道理。

 だがしかし、長老の話からドワーフというのがどういう存在かは理解できた。俺の「知識」にあったのと、だいたい似たようなもんだろう。

 となれば、どうにかする術はあると思う。

 それも、確実と言っても良いくらいの策である。


 俺はにやりと自信あり気に笑みを浮かべて、言った。


『俺に任せとけ!』


「まかせとけー!」


 どやぁ。




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― 新着の感想 ―
[一言] 果実酒など、酒ですね(確信 (´-ω-)ウム
[一言] ドワーフ「あぁん?!燃やすぞコラァ!」 狂戦士*100「――――――――!!!」 これでドワーフの村占拠ですね分かります
[一言] コークス等で木が要らなくなっていたりして。 魔力が多いとよく燃える訳でもないだろうし。
2020/11/30 18:46 退会済み
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