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第二十六話 エルフ発見

本日三話目です。次から主人公視点に戻ります。


 ●○●



 カイ・ビッカースの『魔力感知』の範囲は広い。

 ゆえにエルフらしき者どもの反応は既に捉えている。だが、そこに辿り着くまでに魔物らしき強力な魔力の反応が密集している地帯があった。


 ここまでの道中に出会った魔物、中でも強力なレッドオーガでさえも傭兵たちは仕留めている。

 まあ、相手が3体程度であれば、数を頼みに倒せないこともないからだ。

 しかし、このまま進めばそれよりも遥かに強力な魔物と出会すだろう。おそらく数の有利程度では覆すことのできない強さだ。


(だけどまあ、俺ならやれるか)


 傭兵たちで処理できる魔物は、すべて任せて来た。

 だが、ここから先はそういうわけにもいかないだろう。


(エルフにぶつけるための手駒だ。ここまで来て数を減らすのも業腹だしね)


 なので仕方なく、自らが先頭に立つ事にする。


「ここから先は俺が先頭を歩く。後からついて来て」


「はぁ、わかりやした」


 狼人族との戦闘以来、カイに対してすっかり怯えた様子の団長が素直に頷く。

 それを横目にさっさと前へ出た。

 背の高い樹木が生い茂る森の中を、感覚を尖らせながら歩く。

 密集する魔力と魔力の間隔からして、避けて通ることは難しいだろう。それにどうやら、向こうもこちらに気づいた個体がいるらしい。

 連鎖して気づかれる前に、早々に仕留める必要があった。

 だが、木々の奥から現れた巨体を見て、カイは傭兵たちが何人か死ぬことを覚悟した。


「タイラントベアーか……仕方ないな」


 剣帯に提げた鞘から、剣を抜き放つ。

 鈍い光を反射する剣身には、緻密な文字が無数に刻まれていた。

 それはルーンと呼ばれる魔術文字。


 ――葬炎剣イグニス・レクイエム


 葬炎騎士の証でもある、特別な魔剣だ。

 握った柄から剣身へと魔力を流せば、刻まれたルーンが僅かに輝き出す。

 剣身の周囲の空気が揺らめき、辺りへ熱をばら蒔いた。

 直後、剣身が炎を纏う。

 それは紫色をした、ドロリと粘性の高い炎だ。


 ――葬炎


 ルーンによって発現する魔術の炎は、熱で切断力を高めるだけではない。

 葬炎剣で斬られた傷は癒える事なく、そして熱は傷口から全身へ伝播していく。炎に触れ続ければ骨も残さず焼却されるだろう。

 さらにこの炎は、込めた魔力で操る事もできる。


「――グルアァアアアアアッッ!!」


 カイの殺意を感じ取ってか、タイラントベアーが雄叫びを上げる。

 同時、その右前足を傍らの大木へ恐るべき速さで叩きつけた。


「やるねぇッ!」


 笑いながら地面と口づけするかの如く、身を低くして疾走する。

 すでに「闘気」は全身を巡り、肉体を強化していた。内側から破裂せんばかりの力を制御して獣の如く駆ける。

 その頭上を無数の木片が凄まじい速さで通過した。

 無慈悲な凶器となったそれの餌食となったのか、背後で傭兵たちの悲鳴があがる。

 それを無視してタイラントベアーへ肉薄し、


「ははッ!」


 対の手で繰り出された振り下ろしの一撃を、僅かに横へ跳躍して回避。

 大蛇のごとき根っこごと、地面が爆散するほどの強烈な一撃。

 土塊が全身を打つが問題はない。そのまま前進。タイラントベアーの喉元へ向かって剣を振り抜いた。


 悲鳴はあがらない。

 血はほとんど流れなかった。


 斬撃の一瞬、剣を覆う葬炎を魔力の操作でタイラントベアーへ流し込んだ。

 直後、巨大過ぎる大熊の全身が発火した。


 地響きを立てて倒れ伏すタイラントベアーから距離を取り、背後を振り返る。

 被害を受けた傭兵たちは、未だに狼狽えていた。


「死にたくなきゃ、さっさと前へ走れ!」


 動きの遅い傭兵どもに、僅かに苛立ちを覚えながら一喝する。


「へ、へいっ!」


 慌てて走り出した傭兵たちから視線を戻し、カイは燃え上がるタイラントベアーの横を通過する。

 もう魔物の密集地帯を抜けるまで、傭兵たちを気にする余裕はないし、そのつもりもない。

 次々に襲いかかって来る魔物たちを惜しみ無く葬炎を使い、一撃で倒しながら、ただ最短距離で走る。


 ハイエルフの結界の内側に、知恵ある魔物は入って来ない。

 そのことを知っていたからだ。


 そして直に、結界の内側へ入った事をカイは悟った。



 ●○●



 背後で追って来ていた魔物たちが悔しげに唸りながら引き返して行く。

 傭兵たちも幾分数が減ったが、30人近くは残っているだろう。

 カイとしては上々の結果だ。


(さて、エルフどもの居場所は、もう確定したわけだが……)


 周囲で乱れた呼吸を整える傭兵たちから視線を逸らし、前方を見る。

 妙に間隔が広い木々の間、その向こう側に巨大な茨の壁があるのが見えた。

 そのさらに向こう側には、ここまでに見た大木の比ではないほど巨大な大樹と、その枝の上に築かれた建築物が見える。


 木の上に家を建てて暮らす奇妙な連中など、世界広しと言えどエルフだけだろう。

 間違いなく、エルフの里であった。


 個人的にはエルフの里を蹂躙したいところだが、ハイエルフがいるとあっては、さすがに自分一人では無理だろう。

 ならば、エルフの里の場所を報告するため、生きて聖都まで帰還しなければならない。

 だが、今のエルフどもの脅威がどれほどか量るためにも、一度襲う必要があった。

 そしてその役目は、傭兵たちのものだ。


「えーと、団長の君」


「な、なんでしょう?」


 名前の知らない団長に声をかけ、カイはエルフの里を指差した。


「どうやらあれがエルフの隠れ(・・)里のようだ。これで任務はだいたい達成だが、せっかくここまで来たんだ。すぐに帰るのも勿体ないからねぇ?」


 無論、傭兵たちにあの里にハイエルフがいるかもしれない事など、教えてはいなかった。

 彼らにはただ、少数のエルフが暮らす隠れ里の可能性が高いと告げていた。


「エルフの数匹くらい、持ち帰っても罰は当たらないだろう。苦労してここまで来たんだし、それくらいの余禄があっても良い。なぁに、危なくなったら俺の魔術で時間を作る。その隙に逃げれば良いさ」


 エルフは外見が非常に整っている事で知られる種族だ。

 しかも長命で、若い時期が長い。

 それゆえに奴隷としての価値は非常に高く、エルフを求める者は幾らでもいた。

 当然、売れば凄まじい大金に化けるのは考えるまでもないだろう。


 ごくり、と団長の喉が鳴る。


「ほ、本当に、よろしいので?」


「ああ、もちろんさ。俺はこれでも君たちの貢献には感謝しているんだぜ?」


「じゃ、じゃあ……」


 団長の顔に隠しようもない喜びが広がる。

 おまけに好色そうな笑みも浮かべ始めた。

 敬虔なイコー教徒でもあるカイには信じられない事だが、エルフ相手に性欲を発散するつもりらしい。

 だが、特段咎めるつもりもなかった。好きにすれば良い。


 ともかく団長は団員たちの方へ振り返ると、ここまでの疲労や恐怖を忘れたような意気揚々とした声音で告げたのだ。


「野郎ども! 稼ぎ時だ! エルフの女をかっさらうぞッ!!」


「「「おおッ!!」」」


(女限定かよ)


 内心で突っ込みを入れつつも、穏やかな笑みを浮かべて見守る。

 傭兵たちはエルフたちの反撃など欠片も考慮していなさそうな満面の笑顔で、前方へ見える茨の壁――エルフの里へ向かって駆け出した。

 その後をゆっくりと歩いて追っていき、傭兵たちが半ばまで差し掛かった頃、突如として異音が鳴り響いた。


「あん? な、なんだぁ?」


 辺り一帯から響き渡るそれに、さすがに傭兵たちも立ち止まる。


 ミシミシと。


 まるで木造の家が軋むような、そんな音。

 それが四方八方から聞こえる。

 次の瞬間、



「――は!?」



 虚を衝かれた――と言っても良い。

 カイの傍らに聳える樹木。

 その枝が、突如として襲いかかって来たのである。


 大上段から振り下ろされる拳のような一撃を、体に刻み込まれた経験が反射的に回避させた。

 しかし、後方へ跳び退いたカイの視界に、信じがたい光景が映し出される。


 周囲に生えていた無数の樹木。

 それらが歪な人型をとって動き出していた。

 すでに何人もの傭兵たちが、振り下ろされた拳(?)の下敷きになっている。果たして生きているかどうかは不明だ。

 そしてまだ無事な者も、カイを含めて全員が奇怪な木の化け物に囲まれていた。


「う、うわぁああああっ!!」


「なんだよ!? こいつらはッ!!?」


「ふざけんなっ! 離せ! 離せよぉおおおっ!!」


 恐慌に駆られた傭兵たちが騒ぎ出す。

 カイだけは冷静に周囲を観察していたが、その内心は穏やかではなかった。


(なんだこいつらは。トレント? いや、ウッドゴーレムか? どちらにしろ、なぜ俺が気づけなかった? ありえない)


 普通の樹木でも大樹であれば魔力を宿す事は珍しくない。だが、トレントやウッドゴーレムともなれば、『魔力感知』でそうと見破る事はできたはずだ。

 事実、動き出したウッドゴーレムどもに意識を集中させてみれば、内在する魔力を感じ取れた。

 だが、その魔力には違和感がない。


 何と違和感がないのか?


 それは、周囲の環境と、だ。

 エルフどもの魔力に気を取られて気づかなかったが、今いる場所は妙に魔素濃度が高かった。

 普通ではありえない程に。

 意図してのものかどうかは分からないが、その高い魔素濃度に、ウッドゴーレムたちの魔力は隠蔽されていたのだった。

 加えて、エルフの魔力に気を向けすぎていたのも悪かった。

 いくら魔力を感じ取れるとはいえ、注意を向けていない存在まで把握する事など出来ないのだから。


 己の失態に苛立ちを感じる。

 だが後悔している時間はなさそうだ。

 カイたちが囲まれたのを確認したように、エルフの里を覆う茨の壁の向こう側から、ぞろぞろと大勢の者たちが外へ出てきたのである。


 それは多数のエルフと、それを上回る数の狼人族であった。

 なぜか皆を率いるように先頭を歩くのはエルフの幼女。

 幼女はウッドゴーレムに四方八方を囲まれたカイたちへ近づくと、これまたなぜか握っている木剣をびしりっとこちらへ向けて、きりりっとした顔で告げたのだ。



「わるものどもめ! しんみょーにせい!」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 三話一挙公開 面白かったです
[良い点] 彼らは大樹の礎となるのか… 自然界は弱肉強食だし仕方ないね!
[一言] 殲滅したいところですねえ。場所も戦力も、手の内一切の情報を遮断しなければ。 あとついでにマジックバッグの回収も。
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