第十四話 進化
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ゴー君の性能試験をした日から一週間が過ぎた。
この間、俺はプラントゴーレムを新たに2体生み出していた。
もちろん、『種子生成』で生み出したウォーキングウィードを素体にした、ゴー君と同じく特殊なゴーレムだ。
しかし、全てがゴー君と同じというわけにもいかなかった。
長老が所持していたエルダートレントの木剣は一振りしかなく、「クリエイト・プラントゴーレム」の魔法で素体と一体化させる武装は別の物にせざるを得なかったのだ。
1体は里を囲う茨の壁から、少量の茨を拝借して合成させてみた。
実戦にて性能を試してみたところ、茨を鞭のように振るうばかりか、自由自在に操るゴーレムが誕生した。ゴブリンや人間などの皮膚の薄い生物相手ならば、捕らえただけで肌をズタズタに引き裂く凶悪な攻撃になるだろう。
もう1体には少し困った。
植物製かつ良さげな物が他になかったのだ。
別に茨や適当な木剣でも良かったとは思うのだが、セフィや長老がそれではつまらないと煩かったので、渋々何かないかと頭を捻った。
そこで取り出したのが、武器ではないが俺が作った猛毒林檎だ。
ゴブリンや角ウサギ程度ならば一瞬で絶命させる程度には毒性の強い毒物である。
この毒を自由に生成できたなら、攻撃手段になり得るのではないか。
とはいえ、この毒物をどうやってプラントゴーレムに生成させるかが問題だった。
元はウォーキングウィードで『種子生成』のスキルを持っているのは確認済みである。なので不可能ではないと思うのだが、プラントゴーレムには猛毒林檎を作るための知識がない。
知能は意外と高いので、現物片手に教え込めば何とかなるかと思ったが、これは非常に難航した。
林檎らしき見た目の果実は生成できるようになったし、毒性も弱いながら付与できるようになった。だが、それだけだ。
そこで発想の転換。
一から作るのは難しい。しかし複製ならばどうか、と。
誘惑効果付きの猛毒林檎を生成した俺の枝。
これをそのまま切り取り、「クリエイト・プラントゴーレム」の魔法でプラントゴーレムの腹腔――ゴー君が俺のじゃがいもを収納している場所と同じ――の中に接ぎ木するように融合接着させ、一体化させた。
その上で、この猛毒林檎と同じ果実を生成せよと命じてみたわけである。
結果としてこれは成功した。
自身の一部であるからか、俺が生成した猛毒林檎と全く同じ物を、難なく生成できるようになったのである。
まあ、ここから毒物だけを付与したり、誘惑効果だけを付与したり、あるいは毒物だけを好きな場所に生成したりできるようになるかは――プラントゴーレムの研鑽次第だろう。
ともかく。
こうして完成したゴーレム2体に、俺は「ゴー君2号」「ゴー君3号」と名前をつけた。
そして初代――ゴー君1号と合わせて3体でパーティーを組ませ、里の周辺を巡回するよう命じて送り出したのである。
それから、さらに三日が経った。
里のすぐそばを巡回しているだけあって、ゴー君たちが魔物とエンカウントする頻度は少ないようだった。それでも皆無というわけではないし、ゴブリンなどの雑魚がほとんどとはいえ、何体か魔物も倒している。
すると、どうなるか?
当然、ゴー君たちが得た経験値的なものの一部が、俺にも流れ込んで来るわけである。
すると、どうなるか?
当然、レベルが上がる。
すると、どうなるか?
当然、レベルが20になってカンストした。
すると、どうなるか?
これ以上のレベル的成長はない可能性もあったし、覚悟してもいた。
しかし幸運というべきか、俺の成長が頭打ちになったわけではないようである。
というのも――、
『セフィ! セフィ~ッ!!』
俺は俺の出せる念話の最大音量(といって良いのか?)、ともかく果てまで届けとばかりに思念を大にして発した。
ちなみに今は昼時。
昼食を食べ終えたセフィは、ベッドの上でスヤスヤとお昼寝中だった。
あまりに気持ち良さそうに寝ているので起こすのは忍びないのだが、黙っていても結果は同じだ。結局は起こす事になってしまうだろう。それも強制的に。
『う~ん……、なにー……?』
眠そうに目を擦りながらセフィがベッドから起き上がる。
そんなセフィを急かすように、俺は言った。
『すまんが今すぐ俺を広場まで連れて行ってくれ!』
『なんでー?』
その疑問はまったく妥当なものだったが、残念ながら説明している時間も惜しかった。
内側から活力が湧き出すような感覚はレベルアップ時特有の感覚だったが、それを何十倍にも強めた感覚が今、俺を襲っていた。
ともすれば、内側から爆発してしまいそうな、あるいは人間が排泄を限界まで我慢している時ってこんな感じ? というような……。
いや、後者の喩えは少々品に欠けているか。
それはともかく。
『この家を護るためだッ!』
俺はそう言った。
全てを説明する余裕がないから、結果だけを端的に伝えたつもりだ。
するとセフィは「キリリッ」というより「きりりっ」とした幼女的真剣な顔を浮かべ――、
『セフィのおうちを……? うん! わかった!』
事情は飲み込めないまでも、俺の真剣な思いが伝わったのだろう。
セフィは一つ頷くと、ずぼっと俺を乱暴に鉢植えから抜き取り、急いで家を出た。
そして――、
『な、なんとか間に合ったか……』
まだセフィの遊び友達でもある里の子供たちがやって来ていない時間帯。
里の広場のいつもの場所にて根を地面に下ろした俺は、内心で安堵のため息を吐いた。それから眼前に表示された「文言」を見つめる。
『レベルが上限に達しました。
進化条件を満たしています。進化しますか?
はい/いいえ』
いつもならばステータスが表示される画面に、そんな問いが表示されていたのだ。
進化するかどうか、こちらの意思を確認している割には、体の内側から襲ってくる感覚からすると、そう長い時間保留にする事もできなさそうだ。
かといって「いいえ」を選んで二度と進化できなくなったりしても困る。
どうなるか分からない現状、「いいえ」を選ぶことはできない。
だが、ここならば安全に進化できるだろう。明確な言葉ではなく、感覚、あるいは本能的にその事が理解できた。
ちなみに、現在の俺のステータスはこうなっている。
【固有名称】『ユグ』
【種族】ウォーキングウィード
【レベル】20/20
【生命力】60/60
【魔力】40/40
【スキル】『光合成』『魔力感知』『エナジードレイン』『地下茎生成』『種子生成』
【属性】地
【称号】『考える草』『賢者』『ハイエルフの友』
【神性値】8
さて。
ここからどうなる事か。
【神性値】というのが未だに不明だが、エルフの里で暮らすようになってから、少しずつだが増えていた。けれど数値的には、まだまだ低い値だ。
わざわざステータスに表示しているのだ。何の意味もない数値であるとは思えないが……。
ともかく。
俺は表示された問いに、視線と意識を向けて「はい」を選択した。




