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第106話 案ずるより産むが易し


支援者(システム)……今、補助核(サポートデバイス)を俺に『創造』しろって言った?)

〈肯定。そう言いました〉


 冗談きっついな……。


 補助核(サポートデバイス)と言うと、訳の分からん文字列だとか数式のようなものを組み合わせて『創造』するような代物だ。

 思考回路が人間の頃と変わらない俺からすると、正しく無理ゲー。パソコンに触れたことが無い人に、高度なプログラムを組ませるような無茶振りなのだ。 


〈今回は私はサポートに徹します。問題ありません〉

(今回は……ね)


 てっきり支援者(システム)が『創造』してくれるものだと思っていた。

 よくよく考えてみたら、支援者(システム)も俺の『創造』を使って作り出してるわけだし、俺も頑張ればできる……のか?


 うーん……案ずるより産むが易し、かな。


(分かった、やってみる。で、どうする? やっぱりダンジョンに戻ったほうが良いのか?)


 一応、領主からは街を離れないように頼まれている。

 律儀に約束を守りたいところではあるが、こっそり帰ってもバレたりしないだろ。

 とはいえ、それが後ろめたくないと言えば嘘になりそうでもあるが……。


〈それも問題ありません。ダンジョンに意識を戻すことで、補助核(サポートデバイス)の『創造』は可能です〉

(なるほど)


 定時連絡の時のように、視点を変更すれば良いだけか。

 じゃあ、早速……といきたいところだけど。


 俺は再びコテツに目を向ける。


 爆睡中だな。ちょっとやそっとでは起きないだろう。

 俺が補助核(サポートデバイス)を『創造』し終わるまでに起きないかと言うと、答えは――


〈ノーです〉


 ですよね。そんな気はしてた。

 だから俺は書き置きを残すことにする。ちょうど、紙と筆記用具はあるからな。


 『長いこと寝るから起こさないでくれよ』と……。


 簡単だけど、これで十分だろ。

 あとは俺がベットで横になれば準備は完成だ。

 目を閉じて意識をダンジョンへ……。


 ……


 うん、視界は俺のダンジョンだ。


 なんてことはない、ダンジョンの方は至って平和なもの。

 領主の屋敷で起きた騒動の影響など微塵も感じさせないほど、日常の風景が広がっている。


 俺の救助に駆けつけてくれたメンバーは……いた。

 ノアとビークがダンジョン区画で話し込んでいるようだ。


「……そうッスか。ノアは新しい力を身に付けたんスね」

「うん、これから練習していこうと思うから、ビークにも協力して欲しいんだ」

「良いッスよ。自分も色んなスキル、見てみたいッスからね」


 スキルの話をしてたのか。

 どうやらノアが新しいスキルを身に付けたみたいだけど。


(どんなスキルを身に付けたんだ?)

「マスター!?」

(悪い、驚かせたな。用事があって、少しの間ダンジョンに意識を戻すことにしたんだ。で、どんなスキルだ?)


 『鑑定』してしまえば済む話でもあるんだけどな。

 そんな無粋なことをするよりも、ノアから直接聞いてみたいと思ったのだ。

 ノアだって嬉しそうに話してくれてるし、こういうのも良いだろう。


「――っていうスキルです!」

(攻防一体のスキルか……。工夫すれば、他にも色々できそうだな)

「はい! それでビークに練習に付き合ってくれるように、お願いしていたところです!」


 ノアの話によると、領主の屋敷での戦闘中に『魔力放出』と『魔力障壁』が一つになって、『魔力操作』に変化したらしい。

 その戦闘では『魔力障壁』をそのまま撃ち出しただけに留まったようだが、ノアの体感だと他にも形を変えることもできそうだと言う。


 ノアは俺の『生成』で戦うところを見ていたしな。

 何かしらのインスピレーションを受けていたのかもしれない。


 しかしキバといいノアといい、俺の知らないところで成長しているようで誇らしいものがある。

 ビークはあんまり変わってないみたいだけど、別に悪いことじゃない。人には人のペースってものがあるからな。


「何スか?」

(ん? いや、何でもない)


 俺の視線でも感じたのか? まあ、良いや。


(それじゃあ俺は補助核(サポートデバイス)の『創造』に移る。いつ終わるか分からんが、何日も掛かるもんでもないだろ。終わるまでは何も反応できないと思うから、そのつもりでいてくれな)

「はい! 分かりました!」

「了解ッス」

(ああそうだ。ノア、すまないけどベルさんのところに行って、何か新しい服を用意してもらってくれないか?)

「服ですね、分かりました!」


 今まで着ていた服はボロボロになり過ぎた。

 『創造』で作り直しても良いんだけど、せっかくだし新しい服も催促してみよう。

 前に頼んでいたオウルベアの服の進捗状況も気になっていたところだったしな。


(じゃあ今度こそ、補助核(サポートデバイス)の『創造』に入ろうか)

〈了解。意識を(コア)に集中してください〉


 俺は支援者(システム)に言われたとおり、(コア)ルームに鎮座している俺の(コア)に意識を集中する。

 するとすぐに視界に変化が起きた。これはいつものアレだな……。


 ……


 真っ白な空間。

 ダンジョンに意識を戻していたので、体の感覚に変化は無い。

 存在しない足で立ってるような奇妙な感覚。それも、もう慣れた。


〈それでは補助核(サポートデバイス)の『創造』に必要な情報の抽出を行います〉


 支援者(システム)の言葉の直後、空間に変化が起きる。


(これが情報か……)


 文字みたいなものが視界内を漂っている。

 何の法則性もない文字の羅列。文字といっても象形文字のようなものだったり、アルファベットのようなものだったりと様々だ。当然、見たところで意味はさっぱりだ。


〈今回は無関係な情報を抜いています。ここにある情報を組み合わせて補助核(サポートデバイス)を形作ってください〉

(形作ってくださいって言われても……)


 量がえげつない。

 視界内は文字だらけで、何かモジャモジャしている。

 しかも、文字が動き回ってるせいでよけいに意味が分からない。


 クラゲのようにゆったりと遊泳してるものもあれば、網から逃げる魚のように忙しなく動き回っているものもある。

 マジで何をどうしたら良いか分からん状態だ。


(先生、すみません……お手本をお願いします)

〈了解〉


 ……おっ? 視界の端にあった文字の色が変わって動き出した。

 今度は別の場所の文字も同じように変化して動いている。


〈この二つを組み合わせます〉


 ほうほう、見た目はただ単純にくっ付いただけだな。

 文字が単語になったてことか?


〈これを繰り返してください〉

(は?)


 待て待て、今のが見本? 今ので何が分かるって言うんだ。

 今の文字の関係性も分からんし、どうやって操作したのかも分からん。

 適当な文字同士をくっ付けて大丈夫なのか?


〈操作はいつもどおりイメージです。文字の組み合わせはその都度試してください〉

(……了解)


 イメージね。イメージですよね!


 どの文字を、なんて言える状態でもない。視界は文字で埋め尽くされているのだ。

 適当に正面を泳いでる文字を……捕まえた! 


 活きの良い記号っぽい文字の色が変わって動きも止まった。

 で、次は……。


〈適応する文字を探してください〉

(それは何となく分かるけど、どれが適応するのかが分からん。ヒントちょうだい)

〈ありません。それは自身で探し出すのです〉


 ……。


 それからの俺は、見本の無いジグソーパズルを解くがごとく、絶望との戦いを延々と繰り広げられることとなった。


 最初こそ適当に文字を拾ってはくっ付けようとして弾かれ続けた俺だったが、途中であることに気付く。


 ――全く同じ文字がいくつか存在する。


 多分としか言いようがないが、文字のパターン自体は絶望するほどではないかもしれない。

 じゃあ、組み合わせはどうか……。


 まずは支援者(システム)が見本で見せてくれた文字を探してくっ付ける。……できた。

 見つけられる分は全部組み合わせて……次だ。


 その小さな光明から、徐々に俺の『創造』が進められていく。

 気が付けば、夢中になってトライ&エラーを繰り返していた。


 文字が単語へ、単語が文へ……。


 偶然、文となったものの形が変わって……何これ? 輪っか?

 じゃあ、他のも輪っかになるのか……?

 輪っか同士は……なるほど、用途が分からなかったこの文字で繋ぐのか。


 見えてきた。

 文字だからって平面じゃないんだな。これは立体……いや球体だ。

 文字同士がくっ付いて、最終的には球体を形作っているようだ。


 ある程度、目処が立って分かったのだが、どことなく魔法陣のようにも見える。

 球体魔法陣ってやつかな?


 よし! 終わりが見えて、やる気が出てきた! 集中して一気に仕上げてしまおう!


 ……


 正確な時間は分からないが、体感にして結構な時間は経っていただろう。


(――できた!)


 視界を埋め尽くしていた文字は、一つの球体を形作っている。

 自画自賛になるかもしれないが、息を飲むほどに美しい球体魔法陣だ。


 これを俺が作ったのか……すっげえ感動してしまう。


〈最後に、この補助核(サポートデバイス)へ効果を書き込みます。さあ、どうぞ〉

(どうぞって言われても……)


 まあ、ここまで来たら、いつもどおりイメージで何とかなるだろ。

 取りあえず、性能向上っぽいものを頭に浮かべてみよう……。


〈成功しました。補助核(サポートデバイス)の完成です〉

(最後はあっさり完成……って、うおお!)


 球体魔法陣が回転しながら光を放っている。

 見てのとおり起動したってことだろう。


 今度の補助核(サポートデバイス)は淡い紫の光か……。

 これはこれできれいなものだ。


〈マスター、お疲れ様でした。三日間、よく集中されていましたね〉

(ああ、ありがとうな。三日かぁ……三日!?)


 そんなに時間経ってんの!?



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