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第64話 帝都までの道程

  俺はアギーラと共に部屋から荷物を持ってロビーに戻った。

  ラフィとララはまだ来ていない。

  恐らく、昨夜はそのまま寝てしまって準備が済んでいないのだろう。


  「アキラ様、おはようございます。先程は厨房の片付けまでしていただきありがとうございました。今日発たれるのですか?」


  俺とアギーラがラフィ達を待っていると、店主が現れた。


  「いえいえ、こちらこそ助かりましたよ!短い間でしたが、お世話になりました。良かったらこれ、お昼にでも食べてください!」


  俺はお礼を言いつつ、作っておいたカツサンドとコロッケサンドを差し出した。

  店主は目を丸くして驚いている。


  「そんな・・・食材の代金は頂いておりますから、気を遣わないでください・・・」


  「急に来て色々とお願いもしちゃいましたから、元々何かお礼をしたいと思ってたんですよ・・・。自分達の分はちゃんとありますから、良かったら貰ってください!」


  俺は遠慮する店主に再度サンドイッチの入った包みを差し出した。

  店主は申し訳なさそうに受け取る。


  「こちらこそちゃんとしたお部屋をご用意できず申し訳ありませんでした・・・。もしまたこの町に寄られた際は、是非いらしてください。その時はサービスさせていただきます!」


  店主と俺は笑顔で握手を交わし、会計を済ませた。

  ちょうどラフィ達も来たようだ。


  「では、お世話になりました!また寄らせて貰いますね!」


  俺達は再度店主にお礼を言って宿を出た。

  店主は宿の前まで俺達を見送り、俺達の姿が見えなくなるまで頭を下げていた。

  部屋はそこまで広くはなかったし、造りもパスカルの宿と比べれば数段落ちてはいたが、なかなか寛ぐ事が出来た。

  それは、あの店主が嫌な顔一つせずに、何かと要望を聞いてくれたからだろう。

  人を相手にする商売は、店の設備以上に、そこで働く人こそが重要だ。

  どんなに設備の整っている店でも、働く人次第では良くも悪くもなってしまう。

  客にまた来たいと思わせるような接客を心掛ければ、いかに設備が悪くても固定客を得られる。

  あの宿はまた来たいと思わせるそんな宿だった。


  「アキラ、この後すぐに町を出るの?」


  俺があの宿との別れに感慨にふけっていると、ラフィが俺の隣に来て聞いてきた。


  「いや、ちょっと酒場に行って良いかな?マスターにもお礼を言っておきたいんだ。色々迷惑を掛けちゃっただろ?特に俺が・・・」


  俺がそう言うと、ラフィとララは初めて酒場に行った日の事を思い出し苦笑している。

  アギーラは不思議そうにしているが、何も聞いてこない。


  「まぁ、気にしてなさそうだったから大丈夫だとは思うけど、一応お礼は言っておいた方が良いかもね・・・」


  ラフィも俺の提案に賛同し、俺達は酒場に向かった。

  酒場に着くと、入り口は閉まっていたが、中からは音が聞こえてくる。

  掃除でもしているのだろうか?


  「すみませーん!どなたかいらっしゃいませんか!?」


  俺が外から声を掛けると、ゆっくりと扉が開いてマスターが顔を出す。


  「今は営業時間外だ。来るなら夕方にしてくれ・・・。なんだ、あんたらか・・・どうした、忘れ物か?」


  面倒臭さそうにしていた彼は、俺達を見て訝しげに問い掛けてきた。


  「朝早くからすみません、今日この町を発つので、お礼を言いにきました。それと、この前はすみませんでした・・・」


  俺がそう言うと彼は意外そうな表情をしていたが、すぐに小さく笑った。


  「なんだそんな事か・・・あれはうちの客が悪かったんだ。あんたが気にする事じゃない・・・それにしても、案外律儀なんだな。またこの町に来た時は寄ってくれ・・・と言っても、この町には酒場はここしか無いんだがな」


  「是非寄らせて貰います!それと、良かったらこれ食べてください!昼食用につくったんですが、作り過ぎたのでお裾分けです!」


  俺は、宿の店主に渡した物と同じサンドイッチの入った包みを差し出した。

  彼はそれを受け取って中を見る。


  「何だこれは?見た事の無い食べ物だが・・・パンに具材を挟んでいるのか?」


  「サンドイッチって言うんです。片手で食べられるし、手も汚れないので良いですよ!」


  俺が説明すると、彼は包みからサンドイッチを一つ取って齧る。


  「ふむ、これは豚肉を揚げているのか?衣にソースが染みていてなかなか美味いな・・・」


  彼はカツサンドをあっと言う間に平らげた。


  「もう一つは芋を使った揚げ物を挟んであります。良かったら、この紙に作り方を書いてますので、試してみてください!」


  俺がレシピを書いた紙を手渡すと、彼は声を出して笑った。


  「こりゃあ、なかなか良い置き土産だ・・・ありがたく試させて貰おう!これから何処に向かうんだ?もし帝都に向かうなら気を付けて行きな。最近盗賊が現れるって噂だからな・・・まぁ、あんた等の面子を見る限り、盗賊なんかじゃ手も足も出ないだろうがな」


  彼はララとアギーラを見て頷く。


  「気を付けて行ってきます!お世話になりました・・・また寄らせて貰いますね!」


  俺達は彼に頭を下げ、酒場を後にした。

  俺が振り返ると、彼は軽く手を振って店の中に入って行く。

  彼は店に入る途中、包みからサンドイッチを取り出して食べていた。

  気に入って貰えたようで良かった。

  

  「さてと、俺の用事は済んだけど、皆んなは何かない?」


  「私達は大丈夫よ。特に何か欲しい物は無かったし、必要な物は帝都で探した方が良いもの」


  「そうですね、帝都の市場の方が種類も豊富ですし、買い物をするならそっちが良いと思います!」


  ラフィとララは即答した。

  アギーラはただ首を横に振るだけだった。


  「じゃあ、どうやって行こうか?この町から帝都までは徒歩で1週間、馬車を使って他の町を経由して4日だったかな?」


  俺は帝都までの移動手段をどうするか皆んなに聞いた。

  昨夜は早々に解散したので、そう言った話は出来なかったのだ。

  徒歩で行けば途中で2ヶ所程村を通って1週間の道のり、馬車なら村を4ヶ所経由して4日程だ。

  徒歩ならお金は節約出来るが、正直体力の無い俺には地獄だ。

  まぁ時間も限られているが、それはお金も一緒だ。

  馬車に乗る場合、4人分の料金は結構な額になる。

  まだかなり余裕はあるが、今からでも節約しておいた方が良い。


  「途中まで馬車で行きましょ!最後の村から徒歩で行けば少しは節約出来るし、それなら5日程で帝都に行けるわよ!最後の村までの料金と、そこから帝都までの料金は同額だから、馬車を使うならそこまでが良いわ!帝都に入る時、徒歩ならそんなにお金は掛からないけど、馬車だと関税やら何やらでボッタクられるのよね・・・」


  ラフィはボヤいている。

  かなり納得いかないようだ。


  「ミクラスは、その辺は結構緩かったですね・・・。他の国の商人には入国の際は税を取りませんでしたが、出国の時には荷物の量に応じて課税してました。正直、売るだけ売って帰る人も沢山居たので、あまり税収は良く無かったですけどね・・・。まぁ、他国の物を多く仕入れて新しい知識を得る事には繋がってましたから、兄がそのままで満足してるなら良いんじゃないでしょうか?」

  

  ララは他人事のように言っているが、彼女は曲がりなりにもミクラスの王族だ。

  適当すぎるにも程があるんじゃなかろうか?

  俺は呆れつつ馬車の乗り場に向かう。

  

  「アキラ・・・昨夜も言ったが、お前が何か商売をする時は言ってくれ。宿と馬車の代金は必ず働いて返す・・・」


  俺が乗り場を覗いていると、今まで殆ど喋らなかったアギーラが話し掛けてきた。

  彼を見ると、なんだかモジモジとしている。

  俺はそれを見て笑いそうになるのを堪える。

  ラフィとララも笑うのを我慢している。

  今まで殆ど喋らなかったのは、その事を気にしていたからだろう。


  「アギーラさん、それは気にしないでって言ったでしょ?これは皆んなのお金なんだから、足りなくなったら皆んなで稼げば良いんです!アギーラさんだけが気にする事じゃないんですよ」


  「アキラの言う通りよ!このメンバーの財布の紐を握ってるアキラが言ってるんだから良いのよ!」


  「私もアキラさんに全財産預けてます!私とラフィさんじゃ無駄遣いして即使いきりそうで心配ですからね!アキラさんが大丈夫と言うなら大丈夫です!」


  ラフィとララは胸を張って断言している。

  俺はそんな2人を見て呆れてしまった。

  信頼してくれるのはありがたいが、本当にそれで良いんだろうか・・・。


  「この恩はいずれ必ず返す・・・」


  アギーラは俺達に頭を下げる。

  ラフィ達は満足そうにしているが、俺はそんな2人に不安を覚えた・・・。


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