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第60話 世界を変える理由

  「よう、3度目まして・・・いるんだろ?」


  俺は夢の中で何者かに語りかけた。

  俺はアギーラと風呂に入った後すぐに眠りについたが、夢の中で違和感を感じたのだ。

  それは、俺をこの世界に転移させたあいつが現れる時特有の不思議な感覚だ。

  自分が寝ている事は解っているが、意識がはっきりとしている。


  「おい、無視すんなよ・・・」


  『・・・何で気付いたんだい?』


  俺の問い掛けに、奴が渋々と答える。

  

  「何でって、流石に3度目だと気付くって・・・」


  『まぁ良いや。それより、何だか調子良いみたいじゃないか?』


  気を取り直したのか、奴は嘲笑うような口調になる。


  「さぁね・・・どうせ見てたんなら別に聞かなくても良くない?わざわざ答えるのが面倒なんだけど・・・」


  『相変わらずつれないなぁ・・・』


  姿は見えないが、少し残念そうにしている。


  「あぁ、そうだ・・・見てたなら知ってると思うけど、俺の前の転移者が風呂を広めた事はナイスだったよ・・・まぁ、ありがとな!」


  『おっ、なかなか殊勝な態度じゃないか!もっと感謝してくれても良いんだよ?』


  表情は見えなくても嬉しそうな姿が想像出来るのは、俺の夢の中だからだろうか?


  「あのさ、俺の前の転移者って日本人?」


  『・・・君の有利になりそうな情報は与えられないなぁ』


  「有利も何も、これから調べれば名前だって出て来るだろ?転移者について記された書物もあるんだし、名前を見ればバレるくらいの情報なら別に隠さなくても良いだろ?」


  『まぁ別に隠してるつもりは無いけど、君って意外と勘が良いからなぁ・・・うっかり重要な情報を喋ったら困るしなぁ・・・』


  「日本人かどうか知ったところで何が変わんだよ・・・」


  『仕方ないな・・・そうだよ。君と同じ日本人だよ・・・』


  渋るのを諦めたのか、ややぶっきらぼうに答える。


  「その人は江戸時代の人なのか?」


  『まぁそうだね。だいたい1800年位かな?何で江戸時代だと思ったんだい?』


  俺の問い掛けに興味を持ったのか、声音が良い。

  なんとも忙しい奴だ。


  「俺が見た限り、この世界には重力を利用した上下水道があるだろ?日本は江戸時代には同じ物があった。上水道は同じ時代のヨーロッパに蒸気式揚水用ポンプの物があったけど、この世界では再現出来ない。この世界では蒸気機関もまだだからね。まぁ、江戸時代以降の人なら作れそうだけどね・・・。あと、日本人だと思ったのは湯船に浸かる習慣だ・・・現代でも湯船に浸かる習慣が根強いのは日本人くらいだろ?だからもしかしたらと思ってさ・・・」


  『お見事!抜けてる部分もあるけど、概ねその通りだよ!いやぁ、やっぱり君は勘が良いね・・・どうだい?今からでもこっち側に来ないか?決して悪い様にはしないかさ・・・』


  パチパチと拍手の音が聞こえ、奴は嬉しそうな口調で俺を誘う。


  「残念だけどそれは無理だな。だって、俺はお前が嫌いだからな!」


  『あはは、知ってた!まぁ嫌われている分には別に構わないよ・・・でも、出来れば大人しくしててくれない?こっちにも都合ってのがあるんだけど・・・』


  俺の返答が予想通りだったらしく、残念がる様子も無い。


  「こっちの世界の人達の都合も考えてないお前が言うなって話だな・・・。まぁお前が何をしようと俺は全力で止めるだけだよ・・・俺は今のこの世界が好きだからな!」


  『相容れないなぁ・・・』


  「当然だ!それより、もう一つ聞いて良いか?」


  『相容れない上に厚かましい・・・。今の話の流れで、こっちが答えると思ってる?』


  「別に答えたく無けりゃ聞き流して良いぞ?俺が聞きたいのは、俺の前の転移者は1800年代の人だったよな?向こうの世界では俺の住んでた時代から200年程前だ・・・でも、こっちでは前の転移者が来てから500年程経っている。それって時間に齟齬が生じてるんじゃないか?俺の個人的見解だが、こっちと向こうでは時間の流れは同じ位だ・・・なのに、300年の違いがあるのはどういう事だ?お前は時間軸を無視して召喚出来るのか?それとも、俺が考えている以上にこっちの時間の流れが速いのか?」


  奴は心底呆れた様にしていたが、俺は気にせず話を続けた。

  すると奴は押し黙った。

  返答に迷っているのだろうか?


  「仮にお前が時間軸を無視出来るとしよう・・・もしそうなら、何で俺を召喚した?俺より未来の人間を召喚したら良かったんじゃないか?俺の前の転移者だってそうだ・・・もっと先の時代の人間を召喚すれば良かった・・・いや、出来なかったのか?それでは意味が無かった?」


  俺は奴が答えないのを確認して話しを続ける。

  まだ決めつけるには早いが、俺の個人的な予想では、奴は自ら進んでではなく、向こうの世界を何者かに追われてこっちに来たのではないだろうか?

  奴がこの世界を変えようとしているのは、向こうの世界に未練があり、この世界を向こうの様に作り変えるつもりではないだろうか?

  それならば過去の人間を召喚する理由も何となくだが理解出来る。

  いきなり進み過ぎた技術を持って来ても、根付く可能性は恐ろしく低いからだ。

  技術とは、発想し、発明と改良を積み重ねた上に成り立っている。

  0から1を作り出すのは本当に難しい。

  だが、元になる物があるならば、それを時代に合った物に作り変えれば良い。

  先に言っていた蒸気機関もそうだ。

  蒸気機関とは、ボイラーで発生した蒸気の持つ熱エネルギーを機械的仕事に変換する熱機関の一部だ。

  俺のいた時代では当たり前の技術・・・いや、やや前時代的とも言える。

  発電に関してならば火力、水力、原子力、太陽光などあるが、車や飛行機、電車など普段の生活で使う物は石油燃料や電気、最近では水素などもある。

  そう言った最先端の技術をいきなり持って来たとしても、再現する事は不可能だ。

  元になる物が無ければ発展のしようもない。

  蒸気機関を作ろうにも、この世界には蒸気を使って何かを動かそうと言う発想すらないのだ。

  だからこそ俺の様にある程度の知識を持っている人間を向こうから召喚し、ゆっくりとこの世界を作り変えているのではないだろうか・・・。


  『君、何処まで気付いてるんだい?』


  今まで押し黙っていた奴は、暗く寒気のする様な口調で小さく呟いた。

  俺は全身が強張るのを感じる。


  「さぁね・・・まだ予想でしかないから何とも言えないな・・・」


  俺は辛うじてそう答えたが、今にも発狂しそうだった。

  初めて奴が話し掛けて来た時以来の感覚だ。


  『まぁ君が何処まで気付いてるかはこの際置いておこう・・・気付いたからと言って何も出来ないだろうしね・・・。ただ、やっと君を召喚した時の違和感がわかったよ・・・』


  奴は暗い声音のまま話し続ける。


  「違和感?それは何だ?」


  『教えてやる義理は無いね・・・。はぁ、本当に嫌になるなぁ・・・便利な世界になるなら良いじゃないか・・・皆んなの暮らしも豊かになってwin-winじゃない?』


  奴は少しだけ疲れたような口調になった。

  威圧感が少なくなり、俺は少しだけ気が楽になる。


  「何がwin-winだよ・・・得するのはお前と人間族だけじゃねぇか!?他の種族はどうすんだよ!!お前の所為で数が減ってんだぞ!?いくら便利な世界になろうが、お前の都合で滅ぼして良い理由にはならねぇよ!この世界に変わって欲しいなら、この世界の住人達の意思や速度に合わせて自然に変わるのを待てば良いじゃねぇか!?わざわざ異世界人を召喚してまでこの世界を変えようとしてるお前からは悪意以外感じられないんだよ!だから俺はお前が嫌いだ・・・。お前は確か高みの見物をするって言ってたよな?余裕ぶっこいてんのも今の内だぞ!別に高みの見物をやめるならそれでも良いが、その時はお前の負けだ!人間相手に吐いたツバ飲むんだからな!!俺は必ずお前に辿り着く!覚悟してろよクソ野郎!!」


  『おぉ怖い・・・心配しなくてもまだ動くつもりは無いから安心しなよ。別に約束したつもりは無いんだけどな・・・そこまで言われたら癪だけど、君次第で今後は対応を考えるよ・・・こっちの都合もあるしね!じゃあまたね、たかが人間のアキラ君・・・』


  俺が啖呵をきると、奴は茶化す様に笑った。

  奴の気配は徐々に薄れ、しばらくすると完全に感じられなくなった。


  「人間ナメんなよクソ野郎・・・たかがかどうか思い知らせてやるよ!」


  俺の意識も薄れ始める。

  恐ろしく目がさめるのだろう。

  俺は意識が無くなる前にもう一度啖呵をきった。

  

  

  

  

  

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