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第59話 モビーディック

  俺達は夕飯を済ませ、宿に戻った。

  ラフィは俺達が引いてしまう程の量を平らげ、満腹感から眠気が来たのかもの凄く眠そうにしていたので、酒を早々に切り上げてララがおぶって部屋に戻って行った。


  「アギーラさん、そのベッド狭くないですか?」


  俺とアギーラは部屋に戻って、取り敢えずベッドの寝心地を確かめる。

  1人で寝るのはなんだか久しぶりだ。

  丁度いい広さで寛げる。

  だが、俺はアギーラの方を見て目を疑った。

  アギーラは足のくるぶし辺りまでベッドからはみ出していたのだ。


  「大丈夫だ・・・今までに比べたら天国みたいなものだ。これはこれで開放感があって良いものだ」


  そう言ったアギーラの表情は満足気だ。


  「それなら良いですけど・・・。アギーラさんはお風呂どうします?先に入りますか?」


  「いや、お前から入ってくれ。世話になるのに先に入る訳にはいかないからな」


  アギーラは申し訳なさそうに遠慮した。


  「別に気にしなくて良いですよ・・・今持ってるお金はラフィのお父さんに借りた物ですからね。まぁ、返す為に稼がないといけないんですけど・・・」


  「それでも今はお前達の物だろう?なら、俺までそれに世話になるのは気が引ける・・・お前が何か商売をして稼ぐなら、その時は俺も雇ってくれ。自分の食い扶持は自分で稼ぐ」


  アギーラはベッドに座り直し、腕を組んで言った。

  それだけは譲らないと言っているようだ。


  「了解です!その時は馬車馬の様に働いて貰います!」


  「お手柔らかにな・・・」


  俺が冗談めかして言うと、アギーラは苦笑していた。


  「そうだ!良かったら一緒にお風呂に入りますか?男同士裸の付き合いでもどうです?」


  「ふむ、それも良いだろう。お前とは色々と話をしてみたいからな・・・風呂に入って温まると眠気が来てしまって話どころじゃ無くなってしまうからな・・・」


  俺達は笑い合って頷き、風呂場に向かった。

  そして、俺は驚愕した。

  アギーラのムスコを見て言葉を失ったのだ。

  彼のムスコは凶器そのものだった。

  俺もムスコの大きさなら、日本人の平均よりは若干大きい自信がある。

  だが、彼の物は規格外と言っても良いだろう。

  20cmを軽く超えているんじゃなかろうか?

  これ程の凶器だと、女性は裂けそうだ・・・。

  俺のをイルカとするなら、彼のはクジラだ。

  モビーディックと名付けよう・・・。


  「あまりジロジロ見るな・・・いくら普段露出の多い俺でも羞恥心はある・・・」


  「いや・・・立派な物をお持ちで・・・」


  辛うじて返答した俺は、声が上ずっていた。


  「お前・・・ラフィやララを抱かないと言うことは、さてはそっちの気でもあるのか・・・?」


  そう言った彼は不安そうな表情を浮かべている。


  「それはありません!健全な男子ですよ!そう言った人達を差別するつもりはありませんが、俺はいたって健全な男子です!!」


  流石の俺も全力で否定した。

  疑われたら今後気まずいからだ。


  「そうか、それなら良い・・・。お前がそっちの気なら、逃げ出そうかと思ったぞ・・・。俺もそう言った事を否定するつもりは無いが、流石に俺自身は御免被りたい・・・」


  アギーラは安堵の溜息をつく。

  なんとか信じてもらえた様だ。

  俺は恋愛に性別は関係無いと思っている。

  世間一般では色々と言われているが、人が人を好きになるのに理由は無いと思っている。

  たまたま好きになってしまったのが同性だった・・・それだけの理由で差別するのは間違いだと思う。

  実際、俺の親戚にそっちの気の人がいるが、普段のその人は至って普通の男だ。

  俺より3歳年上で、優しく、仕事も出来て見た目も整っている。

  だが、ただ同性が好きと言うだけで他の親戚からイロモノ扱いされている。

  その人は仕方がない事だと諦めているが、俺はそうは思わなかった。

  普通のその人は俺達と何も変わらない。

  むしろ誰からも好かれて然るべき男性だ。

  だからこそ、俺はその人とは親戚であり、友人として付き合っていた。

  俺がその事を伝えると、その人には泣くほど感謝されたのを今でも思い出す。


  「信じてもらえて良かったですよ・・・じゃあ入りましょうか?時間とらせてすみません・・・」


  「別に構わない・・・結構遅くなってしまったし早めに済ますか」


  俺はふと昔の事を思い出したが、結構時間が経ってしまっている事に気付き、アギーラと共に風呂場に入った。


  「ふぅ・・・やっぱり湯船は落ち着きますね!まぁ、男2人だとかなり狭いですが・・・」


  俺達は身体を洗い終え、2人で湯船に浸かる。

  流石に男2人で入いると、湯船の中のお湯が一気に溢れてしまった。


  「いつもは水浴びで済ませていたから、温かい湯船は久しぶりだ・・・」


  アギーラはとても気持ち良さそうにしている。


  「アギーラさん、一つ聞いても良いですか?」


  「なんだ?俺の知っている事ならなんでも答えるぞ?」


  「いや、俺も今まで当たり前の様に入ってましたけど、この世界って湯船があるんですね・・・」


  俺はこの世界に来てからも当たり前の様に風呂に入っていたが、今更ながらに気になった。

  向こうの世界でも、日常的に湯船に浸かる習慣があるのは日本くらいのものだ。

  他の国では湯船には浸からず、シャワーで済ませる事が多いと聞いた事がある。

  この世界は、向こうの世界では中世や近世に近い。

  向こうの世界の中世と言えば、ほとんど身体を洗わない。

  洗うにしても、水浴びやタライに溜めた水かお湯で身体を流すか、濡らした布で拭うくらいだ。

  中世ヨーロッパでは、あまりの不衛生が祟り、ペストが蔓延した事もある。


  「そうだな、昔は・・・と言っても今から500年程前はタライに水を溜めて身体を流すか、水浴び程度だった。だが、お前の前の転移者が風呂を広め、今に至ると言われている。転移者が現れる度に何かしら生活が豊かになっていったとは思うが、昼にお前達から話を聞いた後では複雑な気分だ・・・」

  

  アギーラは苦笑しながら答えてくれた。

  彼の話からすると、俺の前の転移者は風呂に浸かる習慣を知っていた。

  しかも、重力を利用した上下水道が整っている。

  日本では、江戸時代の町には重力式の上下水道が完備されていた。

  もしかすると、俺の前の転移者は日本人である可能性が高い。

  その当時のヨーロッパでは、すでにポンプを使った圧力導、配水路があったが、こちらの世界にはそんな物は無い。

  前の転移者が、重力式の上下水道を知っているとすれば江戸時代以降になる。

  だとすれば、こちらの世界の年月とは差が生じている。

  その前の転移者達はどの国から来たのだろう?

  俺と同じ世界か、はたまた違う世界か・・・そう言った事も調べる必要がありそうだ。


  「まぁ、まだ旅が始まったばかりで黒幕の真意はわかりませんが、風呂を広めてくれた事は感謝したいですね・・・俺の居た国では、日常的に湯船に浸かる習慣がありましたから、こっちでも入れて嬉しいですよ!」


  「そうだな、俺も良い習慣だと思う。昔は病が蔓延する事が多々あったが、風呂に入る様になってからはかなり減った。それは喜ばしい事なのかもしれないな」


  俺達はしばらくゆっくりと湯船に浸かり、1日の疲れを癒した。

  

  「アキラ、俺も一つ聞いても良いか?」


  アギーラが思い出したかの様に話し掛けてきた。


  「どうしました?」


  「お前はそっちの気は無いと言ったな?ならば、何故あの2人を抱かない?機会はあったんだろう?あの2人・・・特にラフィはお前の事を憎からず思っている。あの娘はお前に対する態度はかなりキツイが、お前を好きな事は一目瞭然だ」


  俺はアギーラの言葉を聞いて言葉に詰まる。

  確かに、ありがたい事にラフィは俺を好きだ。

  それは本人からも聞いたし、何度もアプローチを受けている。


  「ラフィの事はちゃんと考えてはいますよ・・・彼女から直接告白されました。とても嬉しかったですよ・・・でも、俺は異世界人なんです・・・向こうの世界に家族や友人を残しています。帰れるかどうかは解りませんが、もしかしたら、急にまた別の場所に転移させられるかもしれない・・・それに、俺と彼女では種族が違う。彼女はエルフで、俺は人間だ・・・決して同じ時間を生きられない・・・。それを考えると、安易に彼女の思いに応えられないんです。彼女の思いに応えて、もし俺がまた転移したら、互いに悔が残ります・・・だから、俺は本当に帰れない事が解るまで、彼女と一緒になる事はありません・・・その事は彼女も理解してくれています。まぁ、無理矢理風呂に付き合わされたり、抱き枕にしてくるので本当に理解してるのか疑わしいですが・・・」


  「お前は真面目だな・・・お前の気持ちはわかる。だが、あの娘の思いも報われて欲しいと思う。お前達は俺を仲間として迎えてくれた・・・俺はお前達に感謝している。お前達3人には幸せになって欲しい。無駄に長生きしている年寄りのささやかな願いだ・・・」


  そう言ったアギーラは、俺の頭をポンポンと軽く叩いた。


  「ありがとうございます・・・期待に応えられる様に頑張ります。ところで、アギーラさんは何歳なんですか?」


  「俺か?俺は今年で582だ」


  「582!?」


  俺はそれを聞いて飛び上がった。

  アギーラは竜人族だ・・・人間よりも長生きしているとは思っていたが、まさかのクルーゼよりも2倍以上の年齢だ。


  「耳元で叫ぶな・・・驚くだろう!」


  「すみません・・・582歳って、人間で言ったら何歳位なんですか?」


  アギーラは耳を押さえている。


  「30代中頃と言ったところだ。竜人族で最も長生きした者は1500歳を超えていたらしいから、俺も戦いで死ななければまだ生きるだろう。まぁ竜種の加護のおかげと言えばあれだが、実際長生きし過ぎても面白くは無いな・・・今迄、見たくない物も沢山見てきたし、何度も辛い思いをしてきた・・・。お前以前にも人間の仲間を持ったことがあるが、皆んな俺を残して死んでいった・・・満足そうに死ぬ奴、悔いを残して死ぬ奴・・・色んな奴が俺と共に旅をし、戦って死んでいったよ・・・。もう2度とあんな思いをしたくないと思っていたが、お前達から誘われた時は本当に嬉しかった。またあの時の様な旅が出来るかもしれない・・・そう思うと嬉しくてたまらなかった」


  そう言ったアギーラは寂しそうに俯く。


  「じゃあ、明日から楽しみましょう!俺達は途中で死なない様に頑張ります、アギーラさんは俺達が死なない様にしっかりと守ってください!あっ、もちろんアギーラさんも死んだらダメですよ!それじゃ長く楽しめないですからね!!まぁ、正直どれだけ時間があるかは分かりませんが、旅の間くらい楽しみましょうよ!!」


  「ふっ・・・それは責任重大だな・・・。なら、お前が商売をする時には給金を弾んでもらわなければな!」


  アギーラは小さく笑って顔を上げる。

  その表情には先程までの寂しさは微塵も感じられない。


  「それはそれ、まずは最低賃金からです!あとはアギーラさんの働きを見て時給を上げていきます!!」


  俺が調子に乗ると、頭を軽く叩かれた。


  「ぐぬぬ・・・雇い主に手を上げるなんて・・・」


  「雇い主なら、使用人の健康や生活に気を配るのは当然だ!そんな事では反乱が起きるぞ?」


  「アギーラさんに歯向かわれたら、死んじゃいますよ・・・」


  「なら諦めろ!」


  アギーラは笑いながら俺の頭を撫でた。

  少し強くて痛かったが、俺もつられて笑ってしまう。

  思った以上に長風呂になってしまったが、なかなか楽しい時間を過ごせて満足した。

  俺達は風呂から上がるとすぐに寝付いた。

  アギーラとはこれからも良い関係を続けられる・・・俺はそう実感し、深い眠りについた。


  


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