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第57話 アギーラの武器

  「さてと、大分時間も押しちゃったしそろそろ行こうか!」


  俺達はアギーラと出会い、彼と話をした事で、早めに出発した分の時間を使い切ってしまった。


  「急ぎだったのではないか?すまなかったな・・・」


  アギーラは申し訳なさそうに謝る。


  「いえ、大丈夫ですよ!今日は村に戻るだけでしたし、特に急ぎの用事があった訳ではありませんから。俺は思いの外楽しかったので、気にしてませんよ!」


  アギーラは、俺の言葉を聞いて安堵した様に笑い頷いた。


  「ならば、荷物だけでも俺が持とう。そうすれば、少しだけでも早く進めるだろうからな」


  「流石に申し訳ないですよ・・・別に急いでる訳では無いですし、夜までに着ければ問題無いですから・・・それに、アギーラさんの荷物もありますよね?」


  俺は断ったが、彼は俺達3人分の荷物を軽々と右肩に担いだ。


  「気にするな・・・俺の荷物などたいした量は無いからな。食料も現地調達だったし、身軽なものだ」


  彼は自分の荷物を左の肩に掛ける。

  その荷物は彼の言った通り、かなり量が少なかった。


  「ララだったか・・・さっきから気になっていたんだが、その槍は一体何だ?かなりの力を感じるが・・・」


  アギーラは荷物を担ぎつつ、布で包まれたララの槍を見る。


  「えっと・・・これは元々私の槍だったんですけど、リヴァイアサン様とウンディーネ様の加護を受けて、魔槍?になったっぽいです・・・」


  ララの言葉を聞いたアギーラが目を見開く。


  「俺も長い事生きて来たが、神々や魔族、魔獣の加護を直接受けた武具など、伝承を聞いただけで実際に見たのは初めてだぞ・・・あの方々も本腰を入れたと言う事か・・・」


  アギーラは、ララの持つ槍をまじまじと見つめながら独りごちる。


  「持ってみますか?」


  「いや、遠慮しておこう・・・話では、そう言った類の武具は所有者以外では触る事も出来ないと聞く。昔、イフリートの加護を受けた武器を所有者以外が手にした時、一瞬で骨も残さず燃え尽きたらしいからな・・・。リヴァイアサン様の加護であれば水属性だからその様な事にはならないだろうが、万が一もある・・・。それに、戦士の武具を軽々しく他人が触れる事は感心せん・・・」


  俺とラフィはその話を聞いてゾッとした。

  ララも真っ青になっている。

  まさかそんな話があったとは思いもしなかった。

  触ってしまった後だから今更ではあるが、流石に肝が冷える。


  「どうした?3人して固まっているが・・・」


  「いえ、何でもありません・・・」


  俺は項垂れながら辛うじて答えた。


  「そうか、調子が悪いなら無理はするなよ?」


  アギーラは心配そうに言うと、村の方へと歩き出した。


  「そう言えば、アギーラさんは武器は持ってないの?見た所丸腰だけど・・・」


  歩きつつラフィがアギーラに問い掛ける。

  確かに彼の荷物に武器らしい物は見当たらない。


  「竜人族は武器は使わないのだ。己のが身こそが武器であり防具だ・・・などと言って皆はカッコつけているが、実際はそうではない・・・」


  「えっ・・・じゃあ何でなの?」


  俺達は、3人して顔を見合わせた。

  どんな理由があるのか非常に気になる。


  「簡単な事だ。俺達竜人族の力に武具が耐えられないんだ・・・なまじ力がある所為で、すぐに壊れてしまう。ならば最初から何も持たなければ、壊れて焦る事もないからな。それに、竜人族は頑強だから武器を使わずとも戦える」


  アギーラは肩を竦めている。


  「でも、流石に素手で武器相手に戦うのは危険じゃないですか?」


  「流石に完全に丸腰で戦う訳ではない。武器と言うほどではないが、こいつがある」


  アギーラは自分の荷物を担いだまま、懐から革紐の様な物を取り出した。

  ララとラフィの頭上に疑問符が浮かんでいるのが見えた気がする。


  「それってセスタスですか?」


  「ほう、知っているのか・・・」


  アギーラは意外そうな表情になる。

  ラフィとララの顔はあからさまに驚いている。

  アギーラはまだ良いが、失礼な女性陣だ。


  「俺のいた世界でも、はるか昔に拳闘士が使用してたと言われてますからね・・・ただ、実際に見るのは初めてですよ。でも、セスタスで大丈夫なんですか?流石に革紐で剣や槍を相手にするのは危険ですよね?」


  「普通の革ならば危険だが、これは特別製でな・・・これは竜種の革を鞣して造り出した物なんだ。竜種の革は刃を通さず、それでいて軽く柔軟性がある。だからこいつを腕に巻き付ければ、武器にも防具にもなる」


  そう言うと、アギーラは自分の荷物から手を離し、左拳を握った。

  彼の腕が鞭のようにしなり空を切ると、目の前に一陣の風が巻き起こる。

  そして、荷物が落ちる前に華麗にキャッチをし、担ぎ直した。

  軽いジャブのつもりだったのだろうが、こんなものを喰らえば一瞬で挽肉になりそうだ。

  ラフィとララは感嘆の声を上げて拍手をしているが、俺は乾いた笑いしか出てこなかった。


  「俺の先祖の何人かは何かしら武器を使っていたらしいが、その武器はララが持っている様な魔槍や魔剣、魔斧の類だったらしい。まぁ、リヴァイアサン様のような高位の存在の加護を受けた物では無かったらしいがな・・・それでも普通の武器と比べれば遥かに頑強な造りだから、竜人族の力にも耐えられたのだろう。今となっては望むべくもない事だ・・・」


  アギーラは苦笑し、改めて歩き出す。

  俺は呆気に取られながらも彼の後を追って村へと向かった。

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