第56話 握手
「アキラだったか?どうしたんだ改まって・・・」
真面目な表情の俺を見て、アギーラは首を傾げる。
俺の背後で、ラフィ達が唾を飲む音が聞こえる。
「アギーラさん、俺はあなた方竜人族に起こっている異変の原因を知っています・・・」
「それは本当か?」
俺が話を切り出すと、アギーラは居住まいを正した。
「はい・・・竜人族だけでは無く、人間以外の他の種族にも同じ様な異変が起きています。その異変は、今から約500年前・・・神々や魔族が姿を現さなくなった時期と重なるんです。それは、ある者が意図的にこの世界を変えようとしているのが原因です・・・」
「そのある者とは?」
「わかりません・・・リヴァイアサン様も、何者かは分からないと言っていたそうです・・・そいつは突然異世界から現れ、最初は力が弱かったらしくリヴァイアサン様も特に気にしていなかったらしいのですが、500年前の異変が起きた時には、突如強大な力で他の神々や魔族を封印したらしく、正体を知る事が出来なかったらしいです・・・」
アギーラは俺の言葉を聞いて目を見開く。
「お前達はリヴァイアサン様にお会いしたのか!?」
「直接は会っていません。リヴァイアサン様の使いのウンディーネ様とお会いしました」
「そうか・・・リヴァイアサン様はお隠れになったと聞いていたが、まさかまだ生きていらっしゃったとは・・・すまない、話を続けてくれ」
身を乗り出したアギーラは、落ち着きを取り戻して座り直した。
「そいつが、何故この世界を変えようとしているかはまだわかりません・・・ただ、このままでは人間以外の種族は、この世界から消えてしまうでしょう・・・俺達は、それを食い止めるために旅をしています・・・」
「お前達の旅の理由はわかった・・・。だが、一つ聞きたい・・・お前は何故その事を知ったのだ?」
アギーラは俺を見据えて問い掛けた。
「先日までお世話になっていたエルフの村・・・ラフィの故郷の村で、この世界について話をしていたんですが・・・その時、ある仮説に行き着いたんです。それは、この世界に起きている異変には、異世界人が関わっているという事です。そして、その仮説に行き着いた夜、俺の夢にそいつが現れました・・・。俺はそいつと会い、仮説が正しかった事を知りました・・・」
「異世界人だと!?話には聞いていたが、まさか実在するとは・・・」
「実は、俺もそいつによって召喚された異世界人なんです・・・。そいつは俺の事も利用しようと召喚したらしいんですが、俺は今までの異世界人と違い、そいつに縛られていないみたいです・・・」
俺は覚悟を決めて打ち明けた。
彼ならちゃんと話を聞いてくれるだろうと信じてはいたが、やはり緊張してしまう。
「俺はそいつによって、いきなりこの世界に連れてこられました・・・。この世界に来て、初めて会ったのがラフィです。俺は彼女と、彼女の父親に家族として受け入れてもらい、色んな事を学ばせて貰いました。まだこの世界に来て1ヶ月ちょっとしか経っていませんが、ララさんや、沢山の人達にお世話になりました・・・俺はこの世界が好きです・・・俺に優しくしてくれた彼等の住むこの世界が大好きです!俺は、そんな世界を自分の都合の良いように変えようとしている奴が許せないんです!」
アギーラは俺の言葉を聞いて、目を閉じて押し黙る。
「そいつを倒したら、俺は向こうの世界に帰れなくなるかもしれません・・・俺は向こうの世界に家族や友人を残して来ました。でも、このままそいつを放置したら、この世界が変わってしまうかも知れない・・・」
「お前はこの世界に残るのか?向こうに家族を残して・・・」
アギーラが重い口を開く。
「出来る事なら帰りたいです・・・でも、俺の事は後から考えれば良いんですよ・・・まずは、お世話になってるこの世界の為にやらなきゃいけない事が有りますから・・・」
「お前は強いな・・・自分にとって無関係な世界の為に、自分が犠牲になる事を厭わない・・・。だが、お前だけにこの世界の事を託す訳にはいかない。この世界の事は、この世界の者達がどうにかすべきだ・・・例えお前が来た事でこの世界に異変が起きたとしても、それはお前に非はない・・・。アキラ、俺はお前が気に入った・・・この世界のため、そしてお前のために力を貸そう!お前達が良ければ、俺も同行させて欲しい!」
しばらく思案したアギーラは、ゆっくりと目を開き、俺の目を真っ直ぐに見据えて言った。
その表情は優しい笑みを浮かべていたが、目には決意が表れていた。
「アギーラさんの旅は大丈夫なんですか?お嫁さん探しは大丈夫ですか?」
「お前達と一緒に旅をしていれば色んな場所に行く事になるだろうし、心配するな!お前が自分の事を後回しにしているんだ、俺だけ悠長に嫁探しなど出来るはずが無いだろう?」
アギーラは豪快に笑っている。
俺も彼の笑顔を見て、つられて笑う。
「どうだ、俺の言った通りだったろ!?」
俺は背後にいるラフィ達に勝ち誇った表情で振り返った。
2人は苦笑して頷いている。
「アギーラさん・・・これからよろしくお願いします!」
「まさか竜人族の方と一緒に旅が出来るとは・・・色々勉強させていただきます!」
2人はアギーラに頭を下げる。
アギーラは笑顔で頷き、手を差し出した。
「これからよろしく頼む!」
ラフィ達は恐る恐るアギーラの手を差し出した。
アギーラは彼女達の手を優しく握り、握手をする。
「アギーラさん、色々と迷惑を掛けるかも知れませんが、よろしくお願いしますね!」
俺は改めて手を差し出し、彼と握手を交わした。




