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第54話 竜人族

  「さて、朝食も済んだし村に戻ろうか?」


  俺は火の始末などをしながら、ゆっくりとしているラフィ達に提案した。

  先日滞在していた村までは、早くても約半日の距離だ。

  せっかく早起きしたのに、いつ迄ものんびりとしていては時間が勿体無い。


  「そうね・・・早く着ければその分ゆっくり出来るし、行きましょう!」


  「了解です!じゃあ荷物をまとめますね!」


  2人はそう言うと、素早く出発の準備に取り掛かった。


  「ララさん、その槍は目立つから隠してた方が良いんじゃない?布を巻くなりした方が良いかもよ?」


  俺はララの持つ槍を見て彼女に言った。

  彼女の持つ槍は、ここに来た時からするとかなり変わった。

  それもそのはず、ララの槍はウンディーネにより魔法の槍へと変化したのだ。

  最初の槍は使い込まれてはいたが、手入れの行き届いた業物だった。

  だが今の槍は三又の刃が蒼く透き通り、持ち手は白く綺麗な装飾が施されている。

  石突にはサファイアの様な宝石が嵌め込まれていて、いかにも高級感溢れる造りになっている。


  「あぁ、確かにそれが良いかもしれないわね・・・普通の槍でも、それだけの装飾が施されていたら屋敷が買える値段になりそうだし、何よりその槍は魔槍だから、魔法が使えない今のご時世では下手すると城が建つわよ?」


  「うわぁ・・・なんか持ちたくなくなって来ましたよ・・・」


  ラフィの言葉を聞いたララは、持っていた槍を地面に置いて距離を取った。


  「いやいや、置いてっちゃダメでしょ!?元々はララさんの槍なんだから大切にしないと!それに、もしその槍を狙われたら、俺やラフィが持ってるよりもララさんの方が良いからさ!」


  俺は引きつった表情のララを説得し、地面に置かれた槍を持ち上げようと屈んだ。

  だが、槍を手に取ろうと掴んだ手がすり抜けた。


  「ちょっ、何これ!?持てないんだけど!!?」


  俺は何度も試したが、槍を掴むことすら出来なかった。


  「私がやってみて良いかしら・・・?」


  槍に悪戦苦闘している俺の隣に居たラフィが、俺を追いやって槍を掴む。


  「やっぱりダメね・・・持ち手が水になってすり抜けるわ・・・。ララさん、持ってみてくれないかしら?」


  ラフィはため息をついてララに頼んだ。


  「わかりました・・・」


  ララが困惑しつつ持ち手を掴むと、槍はそのまま持ち上げられた。


  「えぇっ・・・何で私だけ・・・」


  「たぶん、その槍はララさんを所有者として認めてるんじゃないかな?所有者以外では持ち上げる事も出来ない・・・これ以上の防犯装置は無いね!これなら盗まれる心配は無いから安心だよ!ただ、狙われたら厄介だし、布を被せとこう!良いよねララさん!?」


  「えっ・・・あっはい・・・」


  俺は困惑しているララを勢いで納得させた。

  こんな便利な道具を置いて行かれたらたまったもんじゃ無い。

  ただでさえ先の見えない旅になるのだ。

  槍の力とはいえ、魔法が使えるのは心強い。


  「良いなぁ・・・私も何か欲しかったわ・・・」


  ラフィが羨ましそうにララを見ている。

  ララはそれに気付き、少し照れた様に笑った。


  「この先色んな場所に行くから、もしかしたらラフィだけの武器を貰えるかもよ?」


  「そうですよラフィさん!私もいきなりでビックリしましたけど、もし最初から知ってたら喜んでたかもしれません!」


  俺とララは、羨ましがるラフィを宥めて歩き出す。

  ラフィはまだ納得がいかないのか、ゆっくりと俺達の後をついてくる。


  「ラフィは、もし何か貰えたとしたら何が良いの?」


  「そうね・・・出来れば弓が嬉しいわね!狩りをする時に使ってたし、一番扱い慣れてるもの!ただ、今回の旅には持って来なかったのよね・・・かさ張るし、何より矢に限りがあるからね。まぁ矢は使い回せば良いけど、それもいつ迄も保つ訳じゃないから・・・。でも、やっぱり森の民であるエルフとしては、弓は外せないわね!」


  ラフィは楽しそうに語っている。

  剣を腰に下げている姿も様になっているが、弓を引くラフィを想像すると、あまりにもしっくりし過ぎて笑みが溢れる。


  「弓なら属性は風が良いのかな?確かウインダムの方は風の神様だったよね?もし行ったらお願いしてみたら?」


  「ウインダムかぁ・・・あまり気が進まないわ・・・。私がウインダムに来た事が父様の実家に知れたら、絶対に騒ぎになりそうだしね・・・。お祖父様とお祖母様は、父様が国を出る時にかなり反対してたらしいし、会ったら何を言われるか・・・」


  ラフィは遠い目をしながら呟いた。

  ラフィの父親であるクルーゼは、1人の女性の為、ラフィの母親の為に国を捨てたそうだ。

  ラフィの母親は、彼女を産んですぐに亡くなってしまったが、クルーゼは今でもその人を愛しているのだろう。

  部屋を当時のまま保存していた程だ。

  クルーゼは、今では女遊びに目が無い印象があるが、奥さんの事を話している彼は優しく、嬉しそうに語っていた。


  「まぁ、その時は俺とララさんがついてるから安心してよ!もし何か言って来ても、必ずラフィを守るからさ!」


  「そうですよ!私はいつだって、ラフィさんとアキラさんの味方です!」


  俺達が励ますと、ラフィは小さく微笑んで頷いた。


  「ありがとう・・・頼りにしてるわよ!」


  そう言ったラフィの目には涙が浮かんでいた。

  







  「ふぅ・・・やっと半分って所かな?」


  俺達は、陽が真上に差し掛かったのを確認し、昼食を摂るため休憩をする事にした。


  「半分よりは進んでますね!かなり順調ですから、夕方には村に着くかもしれません!」


  「なら、今日はゆっくりと休む時間がありそうね!やっぱり寝るならベッドの上が良いもの!」


  ラフィ達は燻製を齧りながら嬉しそうに語っている。

  2回の食事で、燻製の量がかなり減ってしまった。

  それもこれもララが燻製をねだるからだ。

  昼食を摂ると決めた時にも、彼女はヨダレを垂らして燻製をねだった。

  俺に食いつかんばかりの勢いで迫り、柔らかい双丘を惜しげもなく俺の腕に押し付け、油断した俺のバッグから燻製を抜き取ったのだ。


  「ララさん、燻製はもう殆ど残ってないからね!次の野宿の時に何か捕まえないと、自家製の燻製はお預けです!」


  「わかってますよ・・・無理矢理奪って悪かったです・・・」


  ララは耳を垂れさせて謝る。

  その姿が可愛くて、危うく許しそうになってしまった。


  「その位にしてあげましょ?この燻製は美味しいし、ララさんの気持ちもわかるもの・・・」


  ラフィが項垂れているララを見てため息をつきながら言って来た。


  「まぁ、美味しそうに食べて貰えたし、それは嬉しかったからもう怒ってないよ・・・ただ、そんなに気に入ったなら、もう少し味わって欲しかっただけだよ・・・」


  「面目無いです・・・アキラさん、また作ってくださいね?楽しみにしてますから!」


  項垂れているララを見て、俺は苦笑して頷いた。


  「あのさ・・・何か聞こえない?」


  ラフィが周囲を見渡しながら警戒して呟く。

  俺とララも声を潜め、周囲の音を確認する。

  確かにラフィの言った通り、かすかに音が聞こえる。


  「あっちの方ね・・・」


  ラフィは立ち上がり、ゆっくりと音が聞こえてくる茂みに近づく。


  「ラフィさん、私が・・・」


  ララが心配そうに声を掛けたが、ラフィは手を上げてそれを制止し、腰に下げている小剣を抜いた。


  「何この人・・・。何か、男の人が寝てるわ・・・」


  ラフィはそう言って剣を収める。


  「誰か居たの?」


  俺とララはゆっくりとラフィに近づく。

  そして、茂みの中を見て唖然としてしまった。

  茂みの中に、上半身裸の男性が寝ているのだ。

  寝転んではいるが、見るからに身長が高く筋肉質で逞しい。

  身体のいたる所に大きな傷があり、戦いによる傷である事が予想出来る。


  「ラフィさん、アキラさん・・・すぐにその男から離れてください・・・」


  俺の背後から、ララが緊張した声で言ってくる。

  彼女を見ると、顔が青ざめ、若干震えているのがわかる。

  俺とラフィは茂みから離れ、ララの背後に下がった。


  「どうしたのララさん・・・あの人知ってるの?」


  俺が恐る恐る尋ねると、ララはゆっくりと頷く。


  「私は一度しか見た事ありませんが・・・あの男は竜人族です・・・彼等竜人族は、積極的に争いをする事は無いと言われてますが、人とは理が違います・・・何を切っ掛けに怒るかわかりません。もし彼等の怒りをかったら、あっと言う間にひき肉にされますよ・・・彼が起きる前に、早くここを離れましょう・・・」


  ララは視線を茂みに向けながら、ゆっくり、後ずさる。

  俺とラフィも彼女に倣いゆっくりとその場を離れる。


  「ん?誰か居るのか・・・?」


  俺達が茂みから離れようとしていると、寝ていた男が目を覚まし、立ち上がった。

  俺は立ち上がった男を見て動けなくなった。

  2人も同じ様に動きが止まった。

  立ち上がった男は、身長が2mをゆうに超え、先程は気が付かなかったが、肩や腕に鱗が生えている。


  「えっと・・・起こしちゃってすみません・・・」


  俺は男を刺激しない様に謝る。

  男はしばらく俺を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


  「いや、構わん・・・。それより、何か良い匂いがするな・・・」


  男の腹が鳴る音が聞こえる。


  「えっと・・・いま昼食中だったんですが、起こしちゃったお詫びに食べます?」


  俺が恐る恐る男に言うと、ラフィとララが俺を睨んできた。

  だが、俺はそれを敢えて無視した。

  昼食を与える事で機嫌を取れるなら安いものだと思ったからだ。

  男は怒っている様子はない。

  ならば、せめて昼食を与えて見逃して貰う口実にしようと思う。


  「ふむ、ならお言葉に甘えよう・・・ちょうど腹も空いていたからな。感謝する」


  「じゃあ、あちらにどうぞ・・・」


  男は頷き、茂みから出てくる。


  (ちょっと、どう言うつもり!?なんで昼食に誘うのよ!!)


  (そうですよ!関わったら危険です!!)


  2人は小声で俺を責め立てる。


  (いや、あの人は怒っている感じじゃないし、もしあのまま逃げてたら、逆に機嫌を損ねると思ってさ・・・昼食を与えたら、見逃して貰う口実にもなりそうだったから・・・)


  俺が冷や汗まじりに説明すると、2人は憮然としながらも納得してくれた。

  

  

  


  

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