第46話 道中のお勉強
「うーん・・・狭い!」
俺は宿のベッドの上で目を覚ました。
俺の両側には、2人の美女が気持ち良さそうに眠っている。
俺は美女2人の抱き枕にされ、柔らかな感触に喜んだのも最初の内だけで、今では地獄だ。
今寝ているのはシングルベッドだ。
俺を挟む様に寝ている2人は、自分が落ちない様にと全力で俺にしがみ付いている。
俺の全身の骨が悲鳴をあげている。
「2人とも早く起きてくれないかな・・・このままだと、口から内臓が飛び出そう・・・」
「こんな状況で愚痴をこぼすなんて贅沢ね・・・」
「全くですよ・・・あんまりだと思います・・・」
俺が全身に走る痛みに耐えかねてため息まじりに呟くと、2人が目を開けて俺を睨んだ。
「起きてんのかよ!?早く離してよ!!マジで吐きそうなんだけど!?」
「はぁ・・・仕方ないわね!ララさん、起きましょ!」
「そうですね!今日は祠に行く日ですし、早く準備して出発しましょう!」
彼女達は俺の叫びを聞いて仕方なく起き上がる。
全身の痛みでなかなか起き上がれない俺を尻目に、彼女達は素早く準備を済ませて行く。
「アキラ、早く準備しなさいよ!出るのが遅れるじゃない!?」
「んな事言っても、ラフィ達が抱き枕にしたせいで動けないんだよ!」
俺は彼女達に怒鳴り、痛む身体に鞭を打ちながら渋々とベッドから起きて準備を始めた。
「そう言えば、ララさんは槍を持ってたよね?ラフィは何か武器を持ってるの?」
俺は準備を済ませ、宿を出てから、彼女達の持っている荷物を見て聞いた。
ララの槍は長いのでわかりやすいが、ラフィは何か武器を持っているようにはみえない。
「一応持ってるわよ?護身用のショートソードを1本ね!貴方の分も預かってるわよ!本当は弓の方が良いんだけど、あれは矢の数に限りがあるし、いざという時にすぐ使えないからね・・・」
ラフィはそう言うと、ケースの中から一対の剣を取り出し、俺に片方を渡した。
「おぉ・・・なかなか良い剣ですね!」
俺が受け取った剣を鞘から抜くと、覗き込んできたララが感嘆の声を上げた。
「見ただけでわかるんですか?」
「武器の扱いには慣れてますからね!その剣は年代物ではありますが、手入れも行き届いていてかなり大切にされていた物ですね・・・使い込まれてはいますが、刃こぼれも歪みも無いみたいですし、これは良い剣ですよ!」
ララはそう言うと、胸を張って断言した。
俺は彼女の持っている槍を見て、彼女達は言葉が嘘では無いと思った。
彼女の持っている槍もかなり使い込まれているが、しっかりと手入れをされていた。
パスカルに住みだしてからも、手入れを欠かさなかったのだろう。
「この剣は、父様の実家から持ってきた物らしいわよ?出てくる時に勝手に持ってきたって言ってたわ・・・」
「それダメなやつじゃん!クルーゼさん何してんの!?」
「父様は、ウインダムに住んでいた頃はかなりやんちゃだったってルーカスが言ってたからね・・・落ち着いたのは、母様と結婚して、あの村に住み始めてかららしいわよ?」
俺のツッコミに、ラフィはため息まじりに答えた。
「まぁ、有り難く使わせて貰ったら良いと思いますよ!武器を買えば高くつきますし、その分のお金が浮いたと思えば良いんです!!」
「そうだね、無くさないように気をつけよう・・・。じゃあ、行こうか?」
「えぇ!まずはこの村を出て北東に進むわよ!」
「たしか、ここから半日位進んだ先に目印の岩があるんですよね?」
「そうだね・・・結構形に特徴のある岩みたいだから、見逃す事は無いらしいね。その岩の所からは山を登らないといけないみたいだよ・・・」
俺はララに言いながら、ウンザリしてため息をついた。
「何よ・・・何か不満があるの?」
「いや、半日歩いてからさらに山を登らないといけないって考えるとね・・・まぁ、馬車で腰痛に悩まされるよりはマシだけど・・・」
「本当には貴方は体力無いわね・・・」
「そのうち慣れますよ!」
彼女達は、項垂れる俺を見て苦笑して歩きだした。
「この世界の道ってイメージしてたより歩きやすいよね?」
「そりゃあそうよ!道が悪かったら、どうやって移動するのよ?まぁ、これだけ舗装されたのは、現皇帝陛下が即位してからなんだけどね。父様達も言ってたけど、現皇帝陛下は民の事を考えてくださっているから、こうやって道の整備や郵便物の配達なんかにはかなり気を使ってらっしゃるのよ!わからない事があったら言いなさい?歩きながら教えてあげるわ!」
ラフィは得意げな顔で胸を張っている。
「了解!じゃあ、気を紛らわす為に色々質問させてもらうよ!まずは・・・この国には水に関する遺跡や祠が多いよね?やっぱり地図にもあった、あの大きな湖があるから?」
俺は早速質問を開始する。
この国にある遺跡などは、殆どがリヴァイアサンに関する物か、それに属する精霊の祠だ。
ちゃんとしたリヴァイアサンの神殿は、今では海の底に消え、行く事が出来なくなっている。
神々が消えた後、その神殿に行く為の道が閉ざされたらしい。
「そうよ!リヴァイアサンは海を守護してるんだけど、あの湖は、その眷属のウンディーネが守護していたらしいわ・・・これから向かう祠は、湖にある大きな祭壇とかに行けない人達用に設けられた物らしいわよ」
彼女は歩きながらも丁寧に説明してくれた。
「ララさんの故郷のミクラスは火のイフリートの遺跡とかが多いんだよね?」
次に、ララにミクラスについて質問をした。
地図では、ミクラスは砂漠のど真ん中にあった。
砂漠と言えば暑いと決まっている。
だからイフリートなのだろう。
「そうです!でも、正確にはイフリートでは無くてイフリータですね!ミクラスは砂漠の中にある巨大なオアシスに造られた国です!別名火の国って呼ばれる程暑い国ですよ!なので、必然的に火の神様とかを祀っていたみたいです!」
ララは笑顔で質問に答えた。
「イフリータって事は女性なの?」
イフリータとは、アラビアやイスラムで言うところのイフリートの女性版だ。
「そうです!なんか、伝承では滅茶苦茶美人で、踊りが上手で優しいって言われてました・・・」
「優しいの?なんか、火のイメージとしては怖いって思ったんだけど・・・」
「私も不思議なんですよね・・・」
俺とララは、2人揃って首を傾げた。
「優しいならそれに越した事は無いじゃない!いきなり襲われる危険が減ったなら喜ばしい限りよ!」
ラフィは俺とララを見て笑顔で言った。
俺はそれを見て頷いた。




