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第36話 馬車

  「あとどの位かな?」


  俺は馬車の中で、隣に座っているラフィに問い掛けた。

  村を出てから結構経つが、まだパスカルの街は見えてこない。

  すでに陽は真上を通り過ぎ、あと少しもすれば空は茜色に染まり始めるだろう。


  「羊の群れに囲まれちゃったからね・・・まだもう少し掛かるかもしれないわ・・・」


  彼女は苦笑しながら答えた。

  羊の群れに足止めをくらい、大幅に遅れてしまったのが痛かった。

  それさえ無ければ今頃はパスカルに着いていたかもしれない。


  「まぁ夜に着いたら、宿を取ってから夕飯を食べに行こうよ」


  「そうね!ララさんのお店で良いかしら?」


  「あそこの料理は美味しいからね!それに、もし時間があるならララさんとレスターさんにも挨拶したいしね・・・」


  俺は少し迷っていた。

  ララに旅の目的を伝えようかどうで迷っていたのだ。

  彼女はミクラスの王族だ。

  旅の理由を説明し、ララの協力を得られたとすれば、ミクラスにコネが出来る。

  彼女を利用するみたいで気は重いが、この世界の危機に対して、今のこちらのメンバーは2人だけだ。

  たった2人では何も出来ないに等しい。

  それこそ奴の言っていた無駄な努力になってしまう。

  ミクラスを味方につける事が出来たなら、その他の国との交渉などにも、ある程度の立場を確立出来る。


  「ララさんに説明するかで迷ってるの?」


  ラフィが俺の顔を見て聞いてきた。

  表情に出ていたらしい。


  「うん・・・彼女なら協力してくれそうな気はするんだけど、利用しちゃうみたいで気が進まないんだよね・・・」


  「まぁ、あの人ならその場のノリで返事しそうだしね・・・」


  ラフィはララの事を思い出して苦笑している。

  ララは、明るく人当たりも良く美人だ。

  猫人族特有の耳と尻尾が可愛らしさを醸し出している。

  だが、ララはその場のノリで行動してしまう節がある。

  酒が入るとなおさらだ。


  「まぁ、お酒が入って無かったら大丈夫なんじゃないかな!たぶん・・・きっと・・・大丈夫だったら良いなぁ・・・」


  俺は自信なさげに言った。

  ラフィもため息を吐いている。


  「まぁ、信頼出来る人なのは確かだし、話しても良いんじゃないかしら?それに、彼女の事だら、もう会えなくなるかも知れないって言ったら理由を聞いてくるわよ?」


  「ですよねー・・・彼女って見た目からして猫っぽいから、理由を話すまで帰してくれなさそうな気がするよ・・・。やっぱり話しておこう・・・」


  「それが良いかもね!酔った勢いとは言え、いっときは私の同志だったんだし、仲間外れは気が引けるもの!」


  ラフィは笑顔で頷いた。






  「んーっ!!やっと着いたな・・・座りっぱなしで腰が痛いよ・・・」


  俺達は日が暮れてからパスカルの街に着いた。

  俺は馬車を降り、伸びをしながら腰を叩いた。


  「アキラ・・・貴方じじ臭いわよ・・・」


  それを見たラフィが呆れている。


  「仕方ないじゃないか・・・座席は硬いし馬車は揺れるしで、腰にくるんだよ・・・」


  「情けないわね・・・そんな事でこの先どうするのよ・・・。まぁ良いわ、早く宿に行って部屋を取りましょう?」


  「そうだね、早く荷物を置いて夕飯を食べよう!流石にお腹がすいたよ・・・」


  俺達は荷物を抱えて宿に向かう。

  先日泊まった、クルーゼの行きつけの宿だ。


  「ごめんください、今日は部屋空いてますか?」


  「これはラフィエル様とアキラ様、ようこそいらっしゃいました!今日はクルーゼ様はご一緒ではないのですね?今空いておりますのは、シングルが2部屋と、ダブルが1部屋でございますが、いかがなさいますか?」

  

  俺達が宿に入って店主に聞くと、彼は愛想良く笑って迎えてくれた。


  「シングル2部屋で良いよね?」


  「何言ってるのよ・・・ダブル以外無いでしょ?だって、これから先の事を考えたら、無駄遣いは出来ないじゃない?」


  ラフィは真面目な表情をしている。

  俺はてっきり俺を抱き枕にしたいだけなのかと思ってしまい、彼女に申し訳なくなった。

  クルーゼの用意してくれたお金はかなり多い。

  だが、いつ何があるかは分からない。

  節約するに越した事はないだろう。


  「確かにそうだね・・・俺は気が進まないけど、仕方ないよね・・・」


  「別に良いじゃない、恥ずかしがるような仲でも無いでしょ?」


  「それは君だけだよ・・・。すみません、ダブルの部屋でお願いします。いつ迄泊まるかはまだ分からないんですけど大丈夫ですか?」


  俺はラフィに呆れながら店主に聞いた。


  「えぇ、大丈夫ですよ!では、部屋の鍵を持って参りますので、少々お待ちください」


  店主は笑顔で頷き、鍵を取りに行った。


  「お待たせいたしました。では、ごゆっくりお寛ぎ下さい」


  俺達は店主に見送られ、部屋へと向かった。


  「やっと落ち着けるね・・・。さて、夕飯を食べに行こうか?」


  「えぇ、私もお腹が空いたわ・・・」


  部屋に荷物を置き、俺達は夕飯を食べに夜の街へと繰り出した。

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