第33話 夢の中
「さて、そろそろ寝ようかな・・・」
俺はラフィとクルーゼと一緒に夕飯を食べ、部屋に戻ってきた。
昨日に引き続き、今日も子供達と遊んでいたせいでかなり疲れている。
爆睡出来そうな気はするが、正直不安もある。
「またあいつが話し掛けてきそうなんだよな・・・大丈夫かな・・・」
昨夜クルーゼと話をした後、寝ている時に、この世界を変えようとしている奴・・・そして、俺を転移させた張本人と思われる何者かの声が聞こえたのだ。
正直、あの声を聞いた時は生きた心地がしなかった。
明らかに人ならざる存在だと思った。
コン コン コン
俺が不安になり頭を抱えていると、部屋の扉をノックされた。
「ん?ラフィかい?」
「・・・よくわかったわね」
俺が扉の向こうの人物に問いかけると、予想通りにラフィが入ってきた。
「たまたまだよ・・・君は来てくれそうな気がしてたんだ・・・」
「読まれてたのね・・・まぁ良いわ!貴方が1人は心細いと思って来てあげたわよ!感謝しなさい!?」
「抱き枕が欲しかっただけじゃないの?」
胸を張っていた彼女は、俺の言葉を聞いて不機嫌になった。
「じゃあ別に良いわよ!1人であいつに怯えながら泣くといいわ!!」
「ごめんごめん、来てくれて嬉しいよ!実はかなり不安だったんだ・・・だから、一緒に寝てくれるかな?」
俺が謝ると、部屋から出ようとしていた彼女は立ち止まり、勝ち誇った目で俺を見てきた。
「最初から素直になりなさいよね!?仕方がないから一緒に寝てあげるわ!!」
偉そうに言いつつも、彼女の表情は嬉しそうだった。
「では、よろしくお願いします・・・」
「何畏ってんのよ・・・」
「いや、実際かなり不安なんだよね・・・またあんな風になったら、君にも申し訳ないしさ・・・」
「その時は支えてあげるわよ・・・あの時みたいに取り乱したりはしないわ・・・。絶対にね・・・!」
彼女は決意の表情で言った。
「ありがとう・・・。おやすみラフィ・・・」
俺は心底頼もしく感じ、彼女の温もりを感じて安堵したからかすぐに眠ってしまった。
『あんな思いをしたのに寝るなんて・・・君、なかなかメンタル強いね・・・。君に対する評価を改めないといけないかな・・・?』
俺が寝ていると、また奴の声が聞こえた。
だが、今のところ昨日の様な恐怖心と頭痛は襲ってこない。
『誰だよお前・・・』
俺は頭の中で声の主に話し掛ける。
『へぇ・・・話し掛けてくるんだ・・・。恐怖で震えるかと思ってたんだけどなぁ・・・』
奴は馬鹿にした様に言っている。
相変わらず性別のわからない不安定な声だ。
『昨日はいきなりだったからな・・・来るかもって思ってたら我慢出来るよ』
『ははは!良いね君!面白いよ!!今迄呼んだ人間の中でも一番面白いよ君!?』
可笑しそうに笑っている。
『あっそ・・・せっかくの睡眠時間を削ってやってるんだから、用があるならさっさとしてくれない?昨日も寝不足だから、とにかく寝たいんだけど?』
『あぁ、ごめん・・・。じゃあ本題だけど・・・君、俺を止めるとか言ってたよね?』
『それがどうした?』
『無駄な努力はしない方が良いんじゃないかな?君には何の力も無いよ・・・。君の前の転移者達は、俺の恩恵を受け、ある程度の力を持ってこの世界にやって来たけど、君には何の力も無いんだ・・・何故か君には拒否されたんだよね・・・。生意気だよね君・・・』
奴は感情の篭っていない声で言った。
俺は恐怖心に襲われるが、なんとか耐えた。
『あっそ・・・お前みたいなイカれた奴の力なんか貰わなくて清々するわ!人を勝手に呼び出して生意気だ?それはこっちの台詞だ馬鹿野郎!その上世界を変えるとかキ◯ガイかお前!?自分に都合の良いように世界の理変えてんじゃ無えよ!思い通りにならない事があるから面白いんじゃねーか!!」
俺は奴に怒鳴った。
自分以外の全てを見下した様な態度が許せなかったからだ。
『君、なかなか言うねぇ・・・。思い通りにならないから面白いだったかな?君は今思い通りにならずにこの世界にいるだろう?それも面白いのかな・・・?」
奴は皮肉っぽく言う。
小馬鹿にした様なムカつく態度だ。
『馬鹿かお前?原因はお前だろうが!?意図的に飛ばされて面白い訳無えだろ上が!!ちっとは頭使えよ!!』
『ははは!ごめんごめん!からかっただけだよ!!まぁ、そんなに怒るなよ・・・ハゲるよ?』
俺が怒鳴ると、奴は爆笑した。
『笑い事じゃ無えよ馬鹿!・・・まぁ、なんだ・・・飛ばされた事自体はそんなに怒って無えよ・・・。こっちで良い人達とも出会えたし、色んな経験が出来た・・・それは感謝してる。飛ばされなければ彼等に出会えなかったからな・・・。だが、そんな彼等の世界を、お前は変えようとしている・・・壊そうとしている!それが許せねえ!!覚悟しとけよこの野郎!?俺は絶対に諦めねぇ!必ずお前を見つけ出して土下座させてやる!!』
『はぁ・・・一応忠告はしたからね?無駄になったからって俺を恨まないでくれよ?まぁ、頑張りたまえ!俺は高みの見物をさせてもらうよ・・・じゃあ、清々楽しませてくれよ?』
奴はそう言うと、俺の頭の中からそのまま消えるように居なくなった。
俺はベッドの上で起き上がる。
「あの野郎・・・ふざけやがって!マジで捜し出してぶん殴る・・・!」
「ん・・・アキラ・・・どうかした?」
隣で寝ていたラフィが目を覚ます。
「あぁ・・・なんでも無いよ!夢を見ただけだから、心配しなくて良いよ・・・おやすみラフィ」
俺が髪を撫でると、彼女はくすぐったそうにしながら、再度眠りについた。
「俺ももう一眠りするか・・・なんか怒り疲れた・・・」
俺はラフィに布団をかぶせ、もう一度眠りについた。




