第32話 無邪気な質問
「アキラお兄ちゃん!ラフィお姉ちゃん!何処に居るの!?出て来てよ・・・!」
外から、鬼役の子供の声が聞こえてくる。
若干泣きそうになっている。
「流石に可哀想だし出ようか?」
「ふふっ、そうね・・・ちょっと残念だけどね!」
俺達は隠れていた箱から出て、中に入っていた布などを綺麗にたたみ直し、倉庫から出た。
「あっ!アキラお兄ちゃん達居た!!」
1人の子供が俺に気付いて叫んだ。
「お兄ちゃん達倉庫に居たの?さっき探したのに・・・」
鬼役をしていたクルツの子供は目に涙を浮かべて聞いてきた。
「最初からずっと居たよ?まだまだ未熟だな!」
俺がそう言うと、頬を膨らませて睨んでくる。
涙目なのがさらに可愛いく見える。
「お兄ちゃん達は、倉庫の何処に隠れてたの?」
もう1人の鬼役をしていた妹が首を傾げて聞いてきた。
これまた可愛いかった。
俺がその子の頭を撫でると、嬉しそうにはにかんだ。
「箱の中だよ!一度中身を出して、自分の上に載せてたんだよ!」
「お兄ちゃんのイジワル!卑怯だよ!」
クルツの息子が俺に怒鳴った。
俺は彼の前にしゃがみ、頭を撫でてやる。
「ごめんな!まぁ、これが大人だ!!君達も成長したらこうなるよ!!」
「大人に不信感持ったらどうするのよ・・・。皆んなが皆んな貴方みたいに狡賢くはないわよ・・・」
ラフィが苦笑しながら俺に言った。
「君も同じ事考えてたじゃないか!俺が隠れてる箱に入って来たのは誰だよ!?」
「あ・・・あれはたまたまよ!」
彼女は慌てて取り繕う。
俺と子供達の視線が彼女に刺さる。
彼女はもじもじとしている。
「お兄ちゃん達ずっと一緒だったの?何してたの?」
クルツの娘が無垢な目で俺とラフィを見て聞いて来た。
「うっ・・・それは・・・」
「何もしてないわよ!?ねぇアキラ!?」
「そう!何も無かったよ!!」
俺達は慌てて否定したが、子供達は訝しげな目を向けてくる。
「2人きりだったんでしょ?夜のお父さん達みたいに裸で抱き合ってたんじゃないの!?」
俺とラフィはクルツの息子の言葉に衝撃を受けた。
「あの人達ガッツリ見られてんじゃねーか!?」
俺はクルツとセシルの情事を想像してしまった。
美男美女の組んず解れつは興奮するものがあるが、それが知り合いの情事となると、なんか萎えてしまう。
「大丈夫、そんな事はしてないわよ!まだそう言う事をするには早いわ!!ね、アキラ!?」
「そう!そうですよ!俺とラフィはまだそんな深い関係じゃないからね!そう言うのは、結婚してからですよ!!ね、ラフィさん!?」
俺とラフィは、しどろもどろになりながら子供達に弁明する。
子供達はなおも訝しげな目を向けてくる。
「結婚したらしても良いの?お父さんが、アキラお兄ちゃんとラフィお姉ちゃんは結婚するって言ってたよ?お兄ちゃん達もするの?」
クルツの娘は無邪気な顔で質問してくる。
(あのオヤジ!子供に何言ってんだ!?俺の事情知ってんだろ!?それにこの子、わかってて聞いてないか!?)
俺は心の中でクルツを恨んだ・・・。
「ふふっ、そうなれたら嬉しいわね・・・。でも、まだわからないわ・・・」
ラフィが少し寂しそうに微笑んで答えた。
俺は、彼女の表情をみて心苦しく思いながらも、掛ける言葉が見つからない。
「ラフィお姉ちゃんは、アキラお兄ちゃんの事好きなの?」
「えぇ、大好きよ!だから、諦めてはいないわよ!」
彼女は、クルツの娘に笑顔で答え、抱き上げる。
彼女は子供が好きで料理も出来る。
しかも美人だ。
普段のガサツさが無ければ引く手数多だろう。
そんな人が俺を好きになってくれた。
俺は嬉しくも複雑な気持ちで彼女を見ていた。
「アキラお兄ちゃん、もう一回隠れんぼしよ!!」
考え事をしていると、子供達がせがんで来たので、俺は笑顔で頷いた。
ラフィを見ると、彼女も優しい顔で微笑んだ。
「じゃあ、次は俺が鬼だ!見つけるコツを授けてしんぜよう!!」
俺はクルツの息子に胸を張って宣言した。
「よろしくお願いします先生!」
彼は笑顔で頭を下げる。
「うむ、良きに計らえ!」
俺はそれを見て偉そうに頷いた。
「じゃあ、皆んな急いで隠れましょ!アキラに見つからないようにね!」
ラフィはそう言うと、子供達を連れて逃げ出した。
俺達は、他の子供達とラフィが隠れるのを待って、一緒に捜し回った。
子供達はその後も楽しそうに遊んでいた。
こんな毎日が続くなら、この世界も悪くない・・・。
だが、この世界を変えようとしている奴がいる。
そいつを野放しにしていては、この子供達の笑顔を守れない。
(奴をどうにかしないとな・・・。でも、奴を倒してしまったら、俺は向こうの世界に帰れるのか?)
俺は一抹の不安を覚えながらも、楽しそうに笑う子供達と一緒に遊び倒した。
「あー疲れた・・・隠れんぼも意外としんどい・・・」
空が茜色に染まる頃、俺とラフィは子供達と別れた。
「貴方、なにやっても疲れるわね・・・」
項垂れている俺を見て、ラフィが呆れて言ってくる。
「君を探すのが一番しんどかったよ・・・」
「貴方と私は考えが似てるからね・・・どこに隠れるかかなり悩んだわよ・・・」
彼女はそう言って項垂れる。
「でも、楽しかったね・・・」
「えぇ・・・やっぱり子供は可愛いわね・・・。あの子達のためにも、何としてもこの世界を変えようとしてる奴を見つけ出しましょう・・・そうじゃないと、安心して貴方の子供を産めないもの!」
俺は、彼女の発言に驚いた。
「ぶっ・・・!?何でそうなるのさ!?」
「あら、私は本気よ?クルツさんの子供達も言ってたじゃない?今は我慢してるけど、この件に目処がついたら本気を出すわよ!」
彼女は胸を張っている。
「はぁ・・・お手柔らかにお願いします・・・」
俺は項垂れて力なく答えた。




