第30話 四元素の守護者
「ラフィ、午前中のうちに調べたい事があるんだけど手伝ってくれない?」
俺は朝食を食べた後、リビングから出ようとしていたラフィを呼び止めた。
「別に構わないけど、何について調べたいの?」
「旅に出たら、遺跡や祠を廻るだろ?ダリウスさんから貰った地図に場所は書いてあるんだけど、何処に誰が祀られているかがわからないんだよね・・・。実際行ってみて、彼等に会えたとしても、友好的かどうかわからないだろ?もし相手が転移者に対して怒りを持っていたら、会った途端に殺されそうだしね・・・だから、前もって調べたいんだよ」
彼女は眉をひそめて微妙な表情になった。
問答無用で殺される姿を想像したのだろう。
「あぁ・・・それは勘弁して欲しいわね・・・。わかったわ!取り敢えず書庫に行きましょ!私もあまり詳しくないし、もし行き詰まったら父様かルーカスに聞きましょう!」
「クルーゼさん達は忙しいだろうし、極力頼りたくはないけどね・・・まぁ、2人で頑張ろう!」
クルーゼとルーカスは、朝食の後から忙しなく旅の準備をしてくれている。
普通の旅ならまだ良いが、今回は事態が事態だけにしっかりと準備が必要だ。
彼等に手伝いを願い出たが、残り少ない村での生活を楽しみ、勉強に集中して欲しいと言われて断られた。
本当に彼等には頭が上がらない。
「じゃあ行きましょう!」
俺が、旅支度に奔走しているクルーゼ達の事を考えていると、ラフィが笑顔で言った。
俺は彼女に頷いて、筆記用具を準備し、書庫へと向かった。
「アキラはこっちの本ね!私はこっち!!」
俺達は書庫に入って書棚を調べ、目的の本を何冊か見つけた。
ラフィは手にした2冊のうち、1冊を俺に手渡した。
「あのさ・・・俺に渡した方、君のより倍近く分厚く見えるんだけど・・・」
俺は自分の持っている本と、彼女の持っている本を見比べて呆れて呟いた。
「気のせいじゃない?きっと目の錯覚・・・そう、遠近法よ!」
彼女はいけしゃあしゃあと答える。
「そっか、遠近法か!なるほどね!いやぁ、ラフィさんは凄いなぁ、博識だ!・・・って、そんなはず無いよね?君と俺って隣同士だろ!?いくら俺でも騙されないよ!!」
俺はノリツッコミをした。
折角彼女がボケたのだから、ノッテやるのが礼儀だ。
「まぁ良いじゃない・・・私はこれが終わったら別のを調べるわよ!だから、量的には同じでしょ?」
彼女は肩を竦めて笑った。
「それなら良いけどさ・・・そっちは任せるよ。俺がわからない文字があったら教えてね?」
「任せなさい!私はやれば出来る子よ!父様にも言われてたもの!!」
彼女は胸を張っている。
(こっちの世界でも同じ事言われるんだな・・・)
俺は、昔両親に同じ事を言われたのを思い出し、手に持った本を読み始めた。
本を調べ始めてから3時間程が経った。
後1時間もすれば昼食だ。
俺は彼女に渡された本を読み終え、わかった事を彼女と話し合った。
「そっちは何かわかった?こっちは地水火風の精霊、神なんかについて色々書いてあったけど・・・」
「そうね・・・こっちもだいたい同じ様なものだったわ・・・ただ、こっちのは魔神や魔獣についてが多かったわよ!」
彼女も本を読み終えて、俺の問いに答えた。
彼女は3冊目を読み終えたところだ。
かなりペースが早い。
「属性毎に序列があるんだね・・・しかも、年代で筆頭が代わっててわかりにくい事この上ないよ・・・」
俺は肩を落として呟いた。
彼女も同じ事を思ったらしく、苦笑している。
「その時代の信仰や畏怖によって力の優劣が変わるから、仕方ないわよ・・・。一番新しいのでは約500年前・・・彼等が姿を見せなくなった頃のものね。地が魔獣バハムート、水が魔獣リヴァイアサン、火が魔神イフリート、風が風神ゼファーってなってるわね。500年前は魔獣や魔神が多いわ・・・。バハムートとリヴァイアサンは長いこと筆頭に挙げられているわね」
「なんか、向こうの世界でも聞いた名前ばかりで驚いたよ・・・何か繋がりがあるのかな?」
バハムートとはベヒモスのアラビア語での読み方だ。
バハムートはイスラムで魚の姿で描かれる事があるらしいが、それは伝承の中で変化し、リヴァイアサンと混同されているかららしい。
バハムート(ベヒモス)とリヴァイアサンは旧約聖書、イフリートはイスラム教、ゼファーはギリシャ神話に出てくる。
他にも氷の魔獣フェンリルや火のフェニックスなど向こうの世界で聞いた名前がいくつもあった。
神や悪魔以外には、龍族にはついても触れられていた。
アジ=ダカーハ、ヴリトラ、ファフニール、ヴァースキ、ナーガラジャなどなど厨二心をくすぐる名前ばかりだ。
世界は違っても、神や悪魔、龍族などに連なる存在は、名前や属性の統一がされているのだろうか?
もしくは、その様な高位の存在は、時空や次元の壁を超えて存在出来るという可能性もある。
「どうでしょうね・・・まぁ、貴方がこっちに転移して来たんだし、何かしら繋がりはあるんじゃない?」
「確かに何かしらありそうだね・・・。まぁ、今考えても仕方ないか・・・。実際に会えた時にでも聞いてみよう!でも、魔獣や魔神かぁ・・・殺されそうで行きたくないな・・・」
俺は肩を竦めて呟いた。
「父様も言ってたけど、基本彼等は自分以外に無関心よ。機嫌を損ねない限り殺される事は無いだろうし、まず会えるのかすら怪しいわ・・・。まぁ、そんな事よりそろそろお昼にしましょう?昼からは子供達と遊ぶ約束もあるし、いっぱい食べとかなきゃね!」
俺は彼女の言葉に頷き、書庫を後にした。




