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第25話 報告

  「さてと・・・ラフィ、村の皆んなにも伝えに行こうか?」


  「お昼の時間じゃダメかしら?」


  「まぁ、そっちの方が楽だけどさ・・・やっぱりお世話になったんだし、1人ずつ報告した方が良いんじゃないかって思うんだ・・・」


  「それもそうね・・・じゃあ行きましょう!」


  俺は朝食を食べた後、ラフィと一緒に村の皆んなに旅に出る事を伝えるため、外に出た。


  「クルツさんは今日は狩に行ってるんだったよね・・・」


  「そうね・・・今日は男の人はほとんど出払ってるわね・・・。居るのは村の見張りをしてる人達と、女の人ね!」


  「じゃあ、先にセシルさん達の所に行こうか?」


  「セシルさんなら、今は他の女の人達と一緒に畑に居ると思うわ」


  「了解、じゃあ畑に行ってみるか!」


  俺達はまずセシルに報告するため、村の奥にある畑へと向かった。






  「えっと、セシルさんは・・・あっ、居た!セシルさーん!!」


  俺達は村の中を抜け、畑でセシルを探した。

  彼女は畑の奥の方でトマトを収穫している。

  彼女はいつも長い髪を後ろで束ねてポニーテールにしているため、すぐに見つける事が出来た。

  白いうなじがとても色っぽい美人さんだ。


  「アキラさんとラフィお嬢様、朝からこちらに来られるのは珍しいですね?何か御用ですか?」


  彼女は作業を止めて俺達のところまで駆け寄ってきた。

  彼女の後を子供が2人ついてきている。

  彼女はクルツの妻で、2人の子持ちだ。

  彼女の見た目は30代手前だが、実年齢は100歳を超えている。

  子供が出来辛い体質だったらしく、数年前やっと双子の兄妹を授かったらしい。


  「その・・・少し話がありまして・・・」


  俺が言い澱むと、彼女は不思議そうに首を傾げる。

  その仕草は、彼女の美しさも相まって、男心をくすぐる。


  「はぁ・・・私が伝えましょうか・・・?」


  ラフィが溜息を吐いて後ろから俺を小突く。

  セシルはそれを見て苦笑している。


  「いや・・・自分で言うよ・・・。セシルさん・・・俺、旅に出る事にしました・・・。向こうの世界に帰る方法を探しに行こうと思います・・・」


  俺がそう言うと、セシルは驚いた表情をしている。

  俺達に気付き、話を聞きに来ていた他の女性陣も驚いていた。


  「そうですか・・・それは、仕方のない事ですわ・・・。アキラさんには向こうにご家族もいらっしゃいますし、いつ迄もこちらに居てはご家族が心配されますから・・・。でも、寂しくなりますわね・・・」


  彼女は見るからに落胆している。

  何気に、クルーゼやルーカス以外では、この村で一番仲良くしてくれていた。


  「ラフィも一緒に旅に出る事になりました・・・。セシルさん達には、色々とお世話になったのに、恩返しも出来なくて申し訳無いです・・・」

  

  「そんな事気になさらないでください!私達もお料理を教えていただいたり、子供達の面倒を見ていただいたので、アキラさんには感謝してるんです・・・」


  謝る俺に、彼女は慌てて言ってきた。


  「お兄ちゃん達、どっか行っちゃうの?」


  セシルの2人の子供達が不安そうに聞いてきた。


  「俺とラフィは、10日後に旅に出るんだ・・・急に決めちゃってゴメンな・・・」


  俺は子供達の目線に合わせてしゃがみ、涙ぐむ彼等の頭を優しく撫でた。

  ラフィも泣きそうな子供達を見て、困った様な表情を浮かべている。

  

  「すぐに帰って来てくれる・・・?」


  「それはどうだろう・・・ちょっと分からないな・・・。でも、もしかするとまた帰って来るかもしれないから、それまでお母さん達の言う事を聞いて良い子にしときなさい!俺達が旅に出るまでまだ時間はあるから、それまで一杯遊ぼうな!!」


  俺が笑顔で言うと、彼等は明るい顔で頷いてくれた。


  「では、旅に出るまでこの子達と遊んでいただけますか?この子達はアキラさんと遊んでいただいた日は、とても嬉しそうにしていますので・・・」


  「えぇ、俺も子供は好きですし、この村の子供達は皆んな元気のある良い子達ですから、俺も遊び甲斐がありますよ!」


  遠慮がちに聞いてきたセシルに笑顔で了承すると、彼女は嬉しそうな表情で頭を下げた。






  「アキラお兄ちゃん!ラフィお姉ちゃん!追いかけっこしよ!!」


  俺とラフィがセシル達に報告を済ませ、子供達と一緒に村の広場に行くと、セシルの子供達が提案してきた。

  今一緒に居る子供達は全部で15人。

  この人数との追いかけっこは骨が折れそうだ・・・。

  だが、旅に出るまで一杯遊ぼうと言った手前、断る訳にはいかない。


  「よし、やるか!ラフィも良いよな?」


  「当然じゃない!私も、今の内にこの子達と飽きるまで遊んでおかないとね!」


  彼女は力強く頷いた。

  彼女はよく子供達の面倒を見ている。

  子供が好きなのもあるが、何より大人達と違って、彼女に遠慮をしないでくれるのが嬉しいらしい。


  「じゃあ、鬼はどうする?俺がやろうか?」


  「ダメよ!鬼は私がやるわ!!」


  彼女は拳を握って力強く言った。


  「何としても全員を捕まえてやるわ!アキラも覚悟しなさい!!」


  彼女は凄い気迫だ・・・。

  子供達も若干引いている。


  「じゃあ、任せるよ・・・1分経ったら追いかけ始めてね・・・。よし!皆んな逃げるぞ!!ラフィに捕まったら、足腰立たなくなるまで卑猥な事をされるぞ!!」



        ドゴッ!!



  「馬鹿な事を吹き込んでんじゃないわよ!!しばき倒すわよ!?」


  「ナイスボディ・・・このやり取り久しぶりだね・・・」


  彼女が、口より先に手が出る事を忘れていた俺は、無防備な状態で彼女のボディブロウを受け、その場に蹲った。

  子供達はすでに逃げ始めている。


  (薄情な奴らだ・・・俺が鬼になったらおぼえとけよ・・・!)


  俺は心の中で叫び、子供達の後を追ってラフィから逃げた。






  「ラフィお姉ちゃん!アキラお兄ちゃん!また明日ねー!!」


  子供達は俺とラフィにお礼を言って家に帰って行く。


  「疲れた・・・マジでしんどい・・・」


  俺は精魂尽き果てて広場の中央で倒れ込んだ。

  子供達との追いかけっこは昼食の後も続行され、今では陽が傾き空は茜色に染まっている。


  「何よだらし無いわね!口ほどにも無いわ!!」

  

  ラフィは何食わぬ顔で立っている。

  彼女は、汗で衣服が肌に張り付き、身体のラインが浮き出ていて妙に色っぽい。


  「子供達は当然として、何で君まで元気なのさ・・・一番走り回ってたよね・・・?」


  「森育ちをなめんじゃ無いわよ!この位どうって事無いわ!貴方が体力なさ過ぎるだけよ!!」


  彼女は胸を張って威張っている。


  「体力には自信あったんだけどな・・・もう無理・・・動けない!明日は筋肉痛だ!!」


  俺は寝転んだまま起き上がれなかった。


  「仕方ないわね・・・肩貸してあげるから家に帰るわよ・・・」


  彼女は俺に手を差し伸べ、汗で頬に張り付いた髪をかきあげた。

  茜色の光に照らされた彼女はとても綺麗で見惚れてしまった。


  「ちょっと・・・ボーッとしてないで早くしなさいよ・・・」


  「あ・・・ゴメン・・・」


  俺は差し伸べられた彼女の手を握った。


  「よいしょ・・・キャッ!?」


  彼女は俺を立たせようとしたが、全く力の入っていない俺の重さに耐えかね、俺の方に倒れ込んだ。


  「もう・・・しっかりしなさいよ・・・。汗に土が付いて気持ち悪いじゃない・・・」


  彼女は俺を押し倒す型で倒れ込み、身体に付いた土を払いながら上半身を起こした。


  「ゴメン・・・まさかここ迄疲れるとは思ってなくてさ・・・」


  「おやおや、これはお熱いですなぁ・・・」


  俺がラフィに謝っていると、隣から聞き慣れた声が聞こえた。

  俺とラフィが声の方を振り返ると、ニヤケ顔のクルツがしゃがんで俺達を見ていた。

  狩に出ていた男達全員が俺達を見ている。


  「まさかここまで進展してたとは・・・これでクルーゼ様も安心だ!」


  「ちょっ・・・違うわよ!これは事故よ!」


  「そうですよ!俺を起こそうとしてバランスを崩しただけです!!」


  俺達は慌てて弁明した。


  「なんだ、そうだったんですか・・・」


  彼は残念そうに呟いた。


  「そうだ・・・皆さんにお話しがあるんです・・・」


  俺は彼等に改まって言った。


  「どうしました?」


  皆んなが俺に注目する。


  「俺、ラフィと一緒に旅に出る事にしました。10日後に発つ予定です・・・。向こうに帰る方法を探しに行ってきます・・・」


  俺の言葉を聞き、彼等は動揺している。


  「そうですか・・・他の皆んなには?」


  「他の方達には伝えました・・・。クルツさん達は狩に出られてたので、最後になってしまいました・・・お世話になったのに、急な話で申し訳ありません・・・」


  俺は彼等に頭を下げて謝った。


  「気にしないでください!寂しくなりますが、アキラさんにもご家族が居ます・・・。アキラさんのご家族は、私達以上に寂しい思いをされているはずです・・・。やっぱり、家族は一緒に居るのが一番ですからね・・・」


  クルツは感慨深そうに言った。


  「まだ発つまでは時間がありますから、もう少しだけお世話になります・・・。取り敢えず、それまでは子供達と毎日遊ぶ事になりました!旅の前に力尽きそうですけどね・・・」


  俺がそう言うと、彼等は苦笑していた。


  「わかりました!子供達の相手はお願いします!!村を出る前日には、また飲みましょう!!」


  クルツは笑顔で言うと、俺の肩を軽く叩いて家に帰って行った。

  他の人達も、それぞれ挨拶をして家に帰った。


  「アキラ、私達も帰りましょ・・・」


  「うん・・・」


  俺は、彼女の言葉に小さく返事をし、クルーゼの待つ家へと戻る。


  (この村に滞在するのもあと10日か・・・この世界に来てからまだ日は浅いけど、本当に優しい人達に巡り会えたな・・・ラフィの事もあるし、向こうに帰るのが辛くなっちゃうな・・・)


  俺は内心迷いながら彼女の後ろ姿を眺め、家の扉の前でもう一度村を振り返り、家の中に入った・・・。

  

  

  


  

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