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第21話 村の為

  「さてと・・・そろそろ昼食の準備に行こうか?今日からラフィも手伝うんだよね?」


  「本当に大丈夫かしら・・・皆んなに嫌な顔されたら、流石の私も傷付くわよ・・・?」


  俺は文字の読み書きの勉強を一区切りし、ラフィと共に外に出た。

  今日から彼女も村の人達の手伝いをする予定だ。

  パスカルに行く前、彼女は村の人達との間に距離を感じていると言っていた。

  今日からはそれを克服するため、少しずつ手伝いをしていく。


  「いつもの無駄に自信ありげな君らしくないよ?この際思い切って頑張りなよ!そのために俺も一緒に行くんだからさ!」


  「無駄にってのが癪に触るわね・・・。はぁ・・・実際今のままじゃダメなのは解ってるんだけど、いざとなるとね・・・ちょっ!押さないでよ!自分で行くわよ!!」


  俺はなかなか歩き出さない彼女の背中を押して無理矢理進ませた。

  まだ昼食まで2時間近くあるが、このままでは準備が終わりそうだったからだ。


  「君はエルフだから良いけどさ・・・このままだと、君が村の人達と気兼ねなく接する事が出来る頃には、俺は歳取って墓の下かもしれないよ・・・?」


  「うっ・・・それはなんか嫌ね・・・。わかったわ・・・私も覚悟を決めるわ!」


  彼女は意を決して村の広場へと向かった。





  「こんにちはー!今日も手伝いに来ましたー!」


  「あらアキラさん、こんにちは!今日もラフィお嬢様とご一緒ですか?仲がよろしくて羨ましいですわ!」


  俺が広場に着いて挨拶をすると、セシルが気付いて挨拶を返してくれた。


  「今日はラフィも手伝いたいって言ってたんだけど、良いですかね?」


  「えっ・・・ラフィお嬢様もですか?」


  セシルは俺の言葉を聴き、少し困ったように他の者達を見た。

  皆、普段はラフィと自然に会話をしている所を見ると、彼女に手伝いをして貰う事に対して遠慮しているように思える。


  「彼女も意外と料理出来るみたいですし、彼女も皆んなと一緒に村の為に何かしたいらしいんですよ・・・」


  「・・・意外とって何よ」


  俺がセシルに説明していると、後ろでラフィが憮然として呟いた。

  セシルはそれが聞こえたのか、苦笑している。


  「ラフィお嬢様のお手を煩わせるかと思っていたのですが・・・もしお嬢様がよろしければ、お手伝いいただければ嬉しいです・・・」


  セシルは少し遠慮がちに言った。


  「だってさ!どうするラフィ?」


  「そんなの手伝うに決まってるじゃない!!・・・アキラ、ありがとう」


  彼女は笑顔で言うと、最後に一言だけ小さく呟いた。


  「どういたしまして!セシルさん、俺達は今日は何を作りましょうか?」


  「そうですね・・・またお肉をお願いしても良ろしいですか?アキラさんが先日作られた料理が大変好評でしたからね!」


  彼女は笑顔で答えた。

  確かにこの前の料理は好評だった。

  即座に無くなってしまい、また作ってくれとせがまれた。


  「気に入って貰えて嬉しいですよ!ところで、今日のお肉は何ですか?」


  「今日は鶏肉ですよ!型の良いのが居ましたので、脂も乗って美味しいと思いますよ!」


  彼女は下処理の済んでいる、大きく丸々と肥えた鶏を指差している。

  3羽はあるので、量も結構ありそうだ。


  「わかりました!じゃあ、早速作りますね!!」


  俺は下処理の済んだ鶏を受け取り、作業用に借りたまな板の上で切り分ける。


  「そうだ!切り分けはラフィにお願い出来るかな?大きさはこの位でお願いね!俺は今のうちに漬けダレを作るから、終わったら教えてね!」


  俺はラフィに人差し指と親指で丸を作り、大きさを支持した。


  「了解よ!それで、今日は何にするの?」


  彼女は不思議そうに聞いて来た。


  「この世界には醤油は無いだろうから、ちゃんと出来るか分からないけんだけど、唐揚げを作ろうと思ってるよ!」


  「ショウユ?カラアゲ?聞いた事無いわね・・・美味しいの?」


  「向こうと同じ物は作れないけど、近い物に出来るようには頑張るよ!あと、鶏の骨はスープの出汁にするから捨てないでね!俺は他に必要な物を集めてくるよ!」


  俺はラフィにその場を任せ、小麦粉や漬けダレ用の材料を取りに行った。

  漬けダレは、塩ダレを作って代用する。

  塩、レモン、酒の代わりの白ワイン、ニンニクを混ぜ合わせて作った。


  「ラフィ、お肉は終わった?」


  「えぇ、今終わったわよ!で、それがさっき言ってた漬けダレ?」


  「ありがとう!そう、今からこれに切ったお肉を入れて揉むんだ。量が多いからラフィも頼むよ!」

  

  俺は彼女と手分けして鶏肉を揉んだ。

  正直かなりしんどい作業だった。


  「よし、味も染み込んだだろうし、そろそ油を火にかけようかな!」


  俺は深めの鍋に油を入れて火にかけた後、ボウルに小麦粉を入れて鶏肉を投入した。


  「それ、小麦粉よね?」


  彼女は不思議そうに覗き込んでいる。


  「そうだよ。小麦粉をつけて揚げると、鶏肉の肉汁を閉じ込めてくれるから、美味しくなるんだよ!さて、油も温まったし今から揚げるよ!」


  俺が鍋に鶏肉を入れると、ジュッと音を立てて油が跳ねた。

  

  「危ないわね・・・。でも、何か見てて楽しいわ!」


  「まぁ、揚げるのは俺がやるから、ラフィはスープをお願いするよ」


  「わかったわ!出来上がったら、1個ちょうだいね!」


  「はいはい、楽しみにしててくれよ!」


  俺は彼女に返事をし、鶏肉を揚げ続けた。

  




  「アキラ、スープ出来たわよ?味見してみる?」

  

  「ありがとう・・・うん、ハーブが鶏ガラの臭みを抑えてるし、味もさっぱりして美味しいよ!こっちも今揚げ終わったから、1個食べて見てよ!」


  彼女の作ったスープはとても美味しかった。

  短時間で作ったわりに、鶏の旨味が出ていた。

  俺はスープのお礼に2度揚げしたばかりの唐揚げを差し出した。


  「揚げたてで熱いから気をつけてね!」


  彼女は恐る恐るゆっくりと口に運ぶ。

  俺はそれを見守った。


  「あふっ!・・・んっ!これ凄く美味しいわ!噛むと同時に熱々の肉汁が溢れてきて、口の中に漬けダレの味と匂いが広がって最高ね!!」


  彼女は笑顔になった。

  俺はそれを見て安堵した。


  「塩ダレで作るのは初めてだったし、酒の代わりに白ワインを使ったから心配だったけど、気に入って貰えて嬉しいよ!」


  俺達は笑顔で頷きあい、出来上がったばかりの唐揚げとスープを皆んなのもとへ運んだ。

  唐揚げとスープは皆んなからも大絶賛され、村に滞在する間は毎日昼食の準備を手伝ってくれと頼まれた。

  あと、向こうの世界の料理のレシピを教える事になった。


  「ラフィ、クルーゼさんとルーカスさんにも持って行ってあげよう!」


  「そうね!私が初めて皆んなと一緒に作った料理を、父様にも食べて欲しいしね!」


  彼女は笑顔で答え、唐揚げとスープを2人分取り分けてクルーゼの書斎へと向かった。

  料理を食べた彼らは、とても嬉しそうに食べ、終始笑顔で語っていた。

  俺はラフィとそれを見て安堵すると共に、勇気を出して皆んなの手伝いをした彼女を褒めてやった。

  

  

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