第19話 ルーカスの思い
「んーーーっ!今日はよく眠れたなぁ・・・」
パスカルから村に帰り着いた翌日、俺は自分の部屋で目覚めた。
自分の部屋と言っても、クルーゼから貸し与えられた部屋だ。
この部屋はクルーゼの亡き妻の部屋だが、俺を信用しているとの事で特別に貸して貰った。
「まだ早いけど、リビングに行ってみるか・・・」
俺は着替えを済ませ、部屋を出てリビングに向かった。
「あ、ルーカスさんおはようございます」
リビングに入ると、ルーカスが朝食の準備をしていた。
「アキラ様おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」
「おかげ様でぐっすりでしたよ!ラフィに抱き付かれなかったのもあって、伸び伸びと寝られました!」
「そうでしたか・・・アキラ様はお嬢様と賭けをされてらっしゃるんですよね?」
「はい・・・ほぼ無理矢理ですけど・・・」
俺が答えると、彼は苦笑している。
「旦那様は喜んでらっしゃいましたよ。これで我が家は安泰だな!と笑ってらっしゃいました」
「まだ負けた訳じゃないですよ?」
「存じております・・・。私としましても、お嬢様には早く結婚して頂きたいですが・・・お嬢様は少々お転婆ですので、なかなかお相手に恵まれません。アキラ様はお嬢様とそれを気にせず、普通に接してらっしゃいますし、旦那様が期待なされるのも仕方がないかと思います」
彼は手際良く朝食の準備をしながら語った。
「ルーカスさんはどうなんですか?俺は人間ですけど、もしそうなったらどう思います?」
「確かに私は人間を憎んでいます・・・。ですが・・・先日旦那様に諭され、アキラ様の人柄を知り、全ての人間が悪では無いと思い知りました・・・。村の者達も、アキラ様を受け入れております。ですので、私はもしアキラ様がお嬢様とご結婚なされるなら、変わらずお仕えするつもりです」
彼は俺の目を見て、迷いなく答えた。
「えっと・・・期待に応えられるかは分かりませんけど、頑張ります・・・」
「あまり無理はなさらない様にされてください・・・アキラ様は向こうの世界に帰るという目標もありますし、自分を蔑ろにしてはいけません。結婚生活と言うのは、互いが尊重しあってこそ成り立ちます。アキラ様がお嬢様の為にとこの世界に残っても、幸せになる事は出来ないでしょう・・・。アキラ様がこの世界に残る事を納得の上で結婚をされると言うなら、私は喜んで祝福させていただきます」
彼が語り終えると共に朝食の準備が終わった。
話しをしていても手が止まらない。
流石は出来る男だ。
「失礼な質問をしますげど・・・ルーカスさんはハーフの子供とかに偏見は無いんですか?」
俺が遠慮がちに聞くと、彼は少し思案してた。
「それが愛し合って産まれた命であるなら、祝福されるべきと考えます。産まれてくる命に善悪はありません・・・それが純血だろうと、混血だろうと、やはり子供というのは素晴らしいものですから・・・。ですから、もしアキラ様とお嬢様の間に子供が産まれたなら、私も嬉しく思います」
そう言った彼は優しい表情をしていた。
彼は子供が好きなのだろう。
「ルーカスさん、ありがとうございます。しっかりと考えて答えを出します!」
彼は笑顔で頷いた。
「アキラ君、ルーカスおはよう!アキラ君はやけに早いな・・・もしかして、やはりあの部屋は居心地が悪いかな?」
「おはようございます旦那様」
ルーカスはリビングに現れたクルーゼに深々とお辞儀した。
「別に居心地が悪い訳では無いですよ。ただ、昨夜早く寝すぎたので、早く目が覚めただけですよ!昨夜はラフィに抱き枕にされなかったので、ぐっすり眠れましたしね!」
「うーむ・・・ルーカス、彼に何とか言ってやってくれ!何としてもラフィを嫁に貰って欲しいんだ!でないと、娘が婚期を逃してしまう・・・」
「それは出来かねます。結婚は無理矢理するものではありませんから」
クルーゼはルーカスに泣きついたが、ルーカスは軽く流した。
(やった!ルーカスさんは話のわかる人だ!出来る男は違うね!!)
俺は心の中で歓喜した。
俺の中でルーカスの株が急上昇だ。
彼とのフラグが立った気がする。
「むぅ・・・相変わらずルーカスは堅苦しいな・・・」
「旦那様が奔放すぎるだけではないでしょうか?旦那様を見て育たれたので、お嬢様はあのようになられたのではないでしょうか?」
自分の主人に向かってずけずけと物を言う男だ・・・。
「これは手厳しい!返す言葉も無いな!!」
そう言ったクルーゼは笑っていた。
互いに信頼しあっているからだろう。
「ラフィはまだ起きて来ませんね・・・」
「ここに来る前に様子を見て来たが、まだ夢の中だったよ。今日は抱き枕が無くて残念そうな顔で寝ていたよ・・・」
クルーゼはニヤケ顔で言って来た。
「彼女に抱き付かれると、なかなか放してくれないんですよ・・・。悶々として俺が眠れませんからね・・・」
「アキラ君・・・我慢は身体に毒だよ?諦めたら良いと思うよ!?」
「嫌です」
俺がキッパリと断ると、クルーゼは残念そうに項垂れ、ルーカスは苦笑していた。




