第12話 料理と酒と・・・
「ふぅ・・・やっと着いたな・・・」
俺達は馬車に揺られる事8時間、やっと目的の町へと辿り着いた。
途中で羊の群れに遭遇し、ルーカスの用意してくれていた食事を食べ、2時間ほど遅れてしまったが、日が暮れる前には辿り着けた。
「この町の名前は何て言うんですか?」
「商人の町パスカルだ。商人の集まる町は、帝国内に何ヶ所かあるんだが、我々の村からはパスカルが一番近いな。私は商談等で頻繁に来ているよ」
「帝国内外から色んな物が集まるから、掘り出し物を探すのにうってつけよ!」
ラフィは早く買い物をしたいのか、落ち着きがない。
「まずは宿屋に行って部屋をとろう。その後は夕飯にしようか?」
「そうですね、ラフィ、夕飯を食べた後に店を回ろうか?」
「分かったわ!掘り出し物が私を呼んでる声が聞こえるわ!!」
彼女は本当に理解してるのか疑わしい。
「ではこっちだ。私がよく利用する宿があるんだ」
俺達はクルーゼの後を追って宿屋に向かった。
「これはクルーゼ様、ラフィエル様、ようこそおいで下さいました!」
宿に入ると、恰幅の良い中年の男性が出迎えた。
この男が店主だろう。
ラフィもこの宿を利用した事があるようだ。
「急で申し訳ないが、部屋は空いているかな?」
「申し訳ございません、本日ご用意出来ますのはツインとダブルの部屋が一部屋ずつになりますが、宜しいでしょうか?クルーゼ様にはいつもご贔屓にしていただいておりますので、お値引きさせていただきますが・・・」
店主は申し訳無さそうに言ってきた。
「急に来たのは我々だ・・・空いているならばその部屋で良い。部屋割りはどうするか・・・」
「父様がダブルの部屋で良いのではないですか?ダブルならベッドも広くてゆっくり休めますし、流石に父様を差し置いて私が広々と寛ぐのは気が引けます。アキラも良いかしら?」
「確かに、お世話になってるクルーゼさんに窮屈な思いをさせるのは申し訳ないからね。君がそれで良いなら構わないけど・・・」
「何よ・・・何か問題あるのかしら?」
「君といるといつ殴られるか心配で・・・」
ボカッ!!
「貴方が余計な事を言わなければ殴らなくてすむんだけど?いい加減その口縫い付けるわよ!?」
彼女の目は本気だ。
俺は涙目で項垂れ、クルーゼと店主は苦笑した。
「では部屋も決まった事だし、荷物を置いてどこか食べに行こう」
俺達は店主に頭を下げ、部屋に荷物を置いて飲食店街へと向かった。
「ここにしよう!この店はいつも利用しているんだが、料理も酒も美味いし給仕が美人揃いだ!!」
クルーゼは宿を出てからすぐに、ただのおっさんになった。
相変わらずギャップが酷い。
「料理が美味しいのは嬉しいけど、父様は美人の給仕目当てでしょう?」
「美人の運んで来た料理と酒は格別だ!」
彼は呆れているラフィに力説した。
「食べられるなら何処でも良いです・・・」
「アキラ君は気に入って貰えると思うよ!!」
彼は軽い足取りで店に入って行った。
俺とラフィは慌てて彼の後を追い、店に入って驚いた。
「凄い人だね・・・。それに、料理も美味しそうだ」
「そうね・・・なんて言うか、人で溢れてるわね・・・」
俺達が呆気にとられていると、奥のテーブルでクルーゼが手招きをしている。
人を避けながら歩いていると、1人の給仕と目が合い、微笑みながら手を振ってきた。
若干ツリ目気味のスタイルの良い美人だ。
(うおおおお!猫耳&猫尻尾!?ヤベェ、もふりてぇ!!)
俺がその給仕に見惚れていると、思いっきり足を踏まれた。
「アキラ、何処を見てるのかしら・・・?」
ラフィが睨んでいる。
「ごめん・・・」
俺が謝ると、彼女はため息を吐いて歩き出した。
クルーゼは俺達を見て爆笑している。
「本当に君達を見てると飽きないよ・・・」
彼はまだ可笑しそうにしている。
俺は肩を竦めて椅子に座った。
「料理と酒は適当に頼んでおいたよ!まぁ、人は多いが、それはこの店の料理が美味いって言う証拠でもある!今日は疲れたし、たらふく食べて飲んで疲れを取ろう!!」
クルーゼがそう言っていると、さっきの猫人族の給仕が木製のジョッキを3つ持って来た。
「クルーゼさん、いつも来てくれてありがとね!そっちの女の子は前話してた娘さん?もう1人はこの辺じゃ見かけない顔立ちね?」
「久しぶりだねララさん!娘のラフィエルと客人のアキラ君だ!彼は遠い異国の産まれでね、旅の話しを聞いて仲良くなったんだ!!」
クルーゼはララと言う給仕に簡単に説明した。
俺が異世界人である事は伏せてくれた。
まぁ、遠いし向こうの話もしたから、全部が嘘ではない。
「はじめまして、私はララ!見ての通り猫人族よ!クルーゼさんにはいつも贔屓にして貰って助かってます!騒がしいかもしれないけど、料理の味は保証するから楽しんで行ってね!!」
ララはそう言うとウィンクをして、手を振りながら厨房に戻った。
揺れる尻尾が可愛いらしい。
「どうだい?この店は美人揃いだろう?特に彼女は、この店の看板娘だよ。料理と酒だけじゃなく、彼女目当ての客も多いよ!」
クルーゼは俺に明るく言ってきたが、返答に困った。
ラフィが凄い形相で俺を睨んでいたからだ。
(うわーん!怖いよー!)
俺は泣きそうになった。
「お待ちどうさま!おまかせでって言われたか、オススメを用意したわよ!ゆっくりして行ってね!!」
俺が蛇に睨まれた蛙の様になっていると、ララが大皿にのった肉料理を持って来た。
餡かけの様なとろみのあるソースの匂いが胸いっぱいに広がる。
「ごくっ・・・これは美味しそうね・・・」
「ラフィ、ヨダレ・・・」
俺は、料理に気を取られ、緩んだ彼女の口元から垂れるヨダレをナプキンで拭いてやった。
「さぁ、食べようか!料理はまだまだ来る!さっさとこの皿を片付けよう!!」
クルーゼは、俺達のやり取りを見て微笑み、料理を小皿に取り分けた。
「ですね!では、いただきます!!」
俺とラフィも肉料理に舌鼓をうった。
「いやぁ、本当に美味しかったですよ!ねっ、ラフィ!?」
「えぇ、味も量も申し分無いわね!父様の言ってた通り、お酒も美味しいわ!」
絶賛する俺達を見て、クルーゼは笑顔で頷いた。
「そう言えば、クルーゼさんの友人の方ってどんな方なんですか?」
「人間の男なんだが、元は情報屋だよ。ノリは軽いが、信用出来る男だよ」
バシャッ!
俺がクルーゼと話していると、頭上から液体をかけられた。
酒の匂いがする。
俺が後ろを振り返ると、スキンヘッドのガラの悪い男が立っていた。
その後ろにも、女を侍らせた男が1人いる。
「おっとすまねぇ、ワザとじゃ無えんだ!」
そう言った男の顔はニヤケている。
「何がワザとじゃ無いよ!!あんたの顔、明らかにワザとやりましたって顔じゃない!?」
ラフィは男に食ってかかる。
クルーゼも鬼の形相で睨みつけているが、男は動じない。
先程まで騒がしかった店内は静まりかえり、緊張感に包まれている。
「ワザとだって証拠はあんのか?証拠も無えのに疑うなんて・・・俺、気付いちまったなぁ・・・」
男はいけしゃあしゃあと答えた。
「ふざけんじゃないわよ!!」
さらにラフィが食ってかかった。
「ラフィ、クルーゼさん・・・俺は気にしてませんから・・・」
「お前が気にするとかしないの問題じゃ無えんだよ!ビビってるだけの腰抜けが!!おい、嬢ちゃん!俺を疑った詫びとして、こっちに来い!!」
男がラフィの腕を掴み引っ張った。
最初から彼女が狙いだったらしい。
クルーゼが椅子から立ち上がる。
バキッ!!
彼女は男の手を払いのけ、右拳で殴った。
「このアマ・・・調子に乗ってんじゃ無え!!」
バシッ!!
男が怒鳴り、彼女にビンタをした。
彼女が倒れるのが、やけにゆっくりに見えた・・・。
「おい・・・今何したか解ってんのか・・・?」
その光景を見た俺は、完全にキレてしまった。




