第10話 クルーゼの提案
「起きなさい!夕飯よ!!」
俺はラフィの声で目が覚めた。
「あれ・・・もうそんな時間?」
「貴方、気を失ってそのまま寝たのよ・・・」
彼女は呆れた様に言った。
「ごめん・・・それにしても、なかなか良い拳だったよ!」
「自慢の右よ!それより、大丈夫?疲れてるんじゃないの?」
「まぁ、時差ボケみたいな感じだと思うよ?あのさ、さっき時と場所を弁えなさいって言ってたけど、部屋がダメなら何処なら良いのさ?」
「そう言うのは夜にするべきよ・・」
彼女は赤面している。
「真面目か!?まぁ、今後はあんな冗談は控えるよ・・・」
「別に良いわよ?貴方がいきなり真面目になったら気持ち悪いし」
「容赦無いなぁ・・・。真面目になるとかじゃなくて、あまり君と深い仲になるのはいけないと思ったんだよ・・・。もし俺が帰る事になった時、未練が残るからさ・・・」
「貴方の方こそ真面目ね!一度きりの人生なんだから、楽しみなさいよ!」
「一度きりの人生だからこそ、後悔したく無いし、未練を残したく無いんだよ・・・」
俺が項垂れて呟くと、彼女はため息をついた。
「まぁ、なる様にしかならないわよ?取り敢えず、夕飯食べましょ!父様がお腹空かせて待ってるわ!!」
「夕飯は誰が作ったの?」
「私よ!」
「え・・・君、メシマズじゃ無かったの?」
彼女は、俺の言葉に振り返った。
満面の笑みだ・・・。
「メシマズって言葉は解らないけど、褒めてないって事はよく解ったわ!」
俺は再び殴られた。
「あ・・・美味しい・・・」
「そうだろう?ラフィは料理は得意なんだよ・・・他はまぁ、知っての通りだがね。妻が亡くなって、家の事はラフィとルーカスに任せきりにしてしまってね・・・。他は自由にさせてたんだが、いささか奔放に育ち過ぎたよ」
俺は痛む顎をさすりながら食卓に着き、ラフィの料理を食べた。
彼女の料理は予想以上に美味しかった。
普段からは全く想像出来ない。
「こんなに美味しく作れるなら、なんで昼は手伝わなかったんだ?」
「皆んなが遠慮するのよ・・・。気を遣わせるのは悪いし、私は口を挟まない様にしてるのよ」
そう言った彼女は、少しだけ寂しそうに俯いた。
「手伝いたいってちゃんと言えば?君が遠慮するから、彼等も遠慮するんじゃない?別にクルーゼさんに禁止されてる訳じゃないんだろ?」
「私は禁止した覚えはないよ?ラフィ、アキラ君の言う通りだ。彼等は、お前を村の仲間として、家族として接しようとしてくれている。お前が遠慮してしまえば、彼等はそれ以上踏み込めない・・・」
「分かったわよ・・・ちゃんと言ってみるわ」
彼女は少しだけ照れ臭そうに呟いた。
「そう言えば、アキラ君は昼は何をしてたんだい?村には見当たらなかったが・・・まさか、ラフィとナニをしてたのかな!?」
「本当に昼と夜では違いますよね・・・ラフィにこの世界について聞いてたんですよ!」
「そうか、それは残念だ!それで、何か解らない事はないかね?ラフィは大雑把だから、解らない所は私が教えよう」
「じゃあ・・・戦闘国家ミクラスについてなんですが、主な資源は傭兵って言ってましたけど、それだけで国の運営が成り立つんですか?この世界に来てまだ数日ですけど、戦争の話は聞いてないので・・・」
「あぁ・・・傭兵と言うより人手だな。あの国は、人手を貸し出す事で利益を得ているんだよ。非常時には傭兵として、常時には護衛や農作業等の手伝いなどで派遣するんだ。農作業等で得た知識は自分達の国に活かす。なかなか効率の良いやり方だと思うよ。他には無いかな?」
「やはりミクラスですが、その時一番強い人が王になるって言ってましたけど、あまり頻繁に変わると混乱の元ですよね?」
「そこもしっかり考えているようだよ。下克上制みたいな感じなんだが、20年〜30年周期でやるようにしているらしい。その間に若手を育て、他の種族を丸め込んだりして備えるんだ。国の法などは継いでいくようだから、そこまで混乱はしていないようだよ」
クルーゼの説明は解りやすくて助かった。
「あとは、この世界の種族って人間、エルフ、ドワーフ、獣人、海人、竜人、小人、天族だけなんですか?他の種族同士結婚して子供を授かるって事もあるんですか?」
「ハーフの事だね?人間以外の種族は、同族以外とは子供を作れないんだ。人間は竜人と天族以外の種族となら、子供を作れるよ。竜人は少し特殊でね・・・彼等は人と言うより竜に近い種族なんだ。見た目は人に近いしコミュニケーションも取れるが、身体能力などは人のそれとは掛け離れている。天族は居ると言われているだけで、実在するかすら怪しい存在だよ」
「取り敢えず今の所はこのくらいですね。ありがとうございます!」
「いや、構わないよ。また聞きたい事がある時は来なさい」
彼は笑顔で答えた。
「そうだ、アキラ君とラフィは明日から4日程予定はあるかね?」
「別にありませんね・・・何が出来るかも分からないですから、完全にニートですよ・・・」
「私も特に無いです。アキラ、ニートって何よ?」
「向こうの世界で、就学・就労・職業訓練をしていない人の事だよ・・・まさに、今の俺だよ・・・」
彼女は、それを聞いて憐れんだような目で見て来た。
「それで、私達の予定がどうしたんです?」
「それがな・・・昼に手紙を送った友人の1人が、近くの町に来ていると手紙が来てな・・・。行き違いになってしまったんだが、この際だから転移について直接聞きに行こうと思っているんだよ・・・。その人は色々な情報を持っているから、もしかすると転移についての情報もあるかもしれない。どうかな?情報を集めるついでに、この村の外を見る良い機会だと思うよ?」
彼の話しを聞いて、俺とラフィは顔を見合わせた。
「私も町に行きたいし、丁度良いんじゃない?」
「そうだね、見聞を広める良い機会だしね!では、宜しくお願いします!」
俺と彼女は笑顔で答えた。
クルーゼはそれを見て、満足そうに頷いた。




