友達とは?
私はあれから家に帰って堀川先生が言っていたことについて考えていた。
「自分のしたいこと・・・・・・」
具体的にそんなことを考えたことはなかった。
考えてみれば私は、自分自身の意思で行動したことがなかった。いつも必ず理由を見つけて、周りの顔色を窺いながら行動していた。
自分の意志で他人に迷惑を掛けてでも何かをしたとは考えてもなかった。
そもそも、今の私にそんなようなことはあるのだろうか。
帰宅中も考えてみたが、具体的にしたいことが思いつかなった。
思いついたとしても、次のテストで1位を奪還して、鮎莉たちの頑張りに応えて、恩返しをすること、
両親に認められることだけだった。
私自身にしたいことはないのだ。
別に無理してすることもないが、どうにも堀川先生の言葉が私の中で引っ掛かる。
堀川先生が言っていることが真に理解すれば今の問題を解決できるような気がする。
だが、いくら考えてもいい方法が思い浮かばない。
気がつけばいい時間になっていた。
時間も時間だ。明日に向けて、そろそろ寝ないといけない。
明日のために準備をする。
一体どうすればいいのか分からないままだが、まだ時間があるのだ。ゆっくり考えればいいと考えていた。
そんな時一つのニュースが目に入る。
400年ぶりの皆既月食!今夜1時がピーク!
夜更かしをしてみよう!
「そんな日だったんだ」
この記事を見て、今日が皆既月食の日だと初めて知る。
ここ最近は勉強に忙しくてこのようなニュースはあまり見ていなかった。
時間帯のこともあって、大々的に扱われていないことも原因の一つだろう。
400年ぶりの皆既月食なのだから見てみたい気持ちもあるが、明日は普通に学校がある。
1時まで待っていたら明日に響く。
現在時間は11時だ。後2時間待つには長すぎる。
折角の機会かもしれないが、見逃す他ないだろう。
それでも少し見たい気持ちが少しだけあったので、今はどれぐらいなのかなと思い、外を見る。
夜空は綺麗な満月が真っ暗な中周囲を明るくするほど存在感を放っていて非常に美しい光景になっていた。
たまにはこう言った夜空を見てみるもの良いかもしれない。
そんな事を思った瞬間だった。少し前の出来事を思い出す。
それは初めて隅風と一緒に帰った日の事だ。
あの日の夜空は今と違うが、星々が輝いていて、非常にに幻想的なものだった。
そんな中、隅風と最近あったことなどを話し合いながら帰った。
あの時のことは私の中でよく記憶に残っている。
ほんの一瞬の出来事かもしれなかったが、わたしは未来のことを忘れて、今を楽しめていたように感じたのだ。
幻想的な風景の中、今までに体験したことがない自身の成長、それを分かち合う友達がいた。
新しい経験が多くて、ワクワクしていたのを覚えている。
まあの時のわたしは、まるである種の夢を見ていたような気分だった。
だから、最後に思ったのだ。
また、このような時間を過ごしたいなと、わたしは今でもそう思っている。
次にできるとしたら、テストが終わってからだろうか。
そうして、外の夜空をもう一度みる。
あの日よりもより幻想的な夜空、こんな時にあの時のように話せるのであれば、いいなと思う。
しかし、そんな機会はない。
私は今は家にいるのだ。
友達と出会う機会もないなく、さらにいえば私が家から出ることもないのだ。
私が考えたことが実現することはない。
そのことに少しだけ残念に思う。
「機会がないなら作ればいい」
その時、隅風が私の言葉を聞いた時に言った事を思い出す。
機会がないなら作る。今まで様々な窮地を乗り越えてきたであろう隅風らしい言葉だ。
そのな言葉が、突如に私の中で思い浮かぶ。
先ほど考えた通り、待っているだけでは決してその機会は訪れることはない。
しかしながら、私から今ここで友達を誘えばどうだろうか。
もし、その相手が起きていて、誘いに乗ってくれならどうなるだろうか。
私が見たいと考えた光景が見れることができる。
その考えに私の頭は急激に動き出す。
確かに友達を誘えば、考えていたことが実現する可能性は高い。
しかしながら、それは正しいことなのだろうか。
第一にこんな夜遅くにこんな提案をして迷惑ではないだろか。
いや、間違いなく迷惑である。
普通に迷惑なのは当たり前だとして、今はテスト期間中であり、明日も普通に学校があるのだ。
デメリットは多く思いつくが、メリットは一つもない。
相手にとって迷惑なだけの行為であり、それをすれば相手からの信用も失う可能性がある。
それに仮にその提案に乗ってくれたとしても、時間が時間だ。
普通に危険だし、警察官などに補導される可能性もある。
合理的に考えればするべきことではない。
「自分のやりたい事をしてみればいい」
そのように結論を出そうとしたとき、今日言われた堀川先生の言葉を思い出す。
今、私が考えていることが私がしたいことではないだろうか。
この幻想的な夜空の下で誰かと喋り楽しみたい。
客観的に考えれば、危険も多く、得ることもない事だ。
そんなことが、わたしはしたいと考えている。
だが、本当にしていいのだろうか。
これは私だけではない、誘った友達にも迷惑がかかる。
私の我儘のせいで迷惑をかけるのだ。
「桜木には迷惑を掛けてもいい友達はいるんだろ?」
そこでまたもや堀川先生の言葉を思い出す。
迷惑を掛けていい友達、鮎莉や大友くん、隅風のことを言っているのだろう。
彼女らなら、きっとこのお願いをしてもいいのだろうか。
だが、鮎莉たちには散々迷惑を既にかけているのだ。その上でこんな個人的なことでさらに迷惑をかけるのはどうだろうか。
流石にそこまでは出来ない。
やっぱり、やるべきではない。例え、自分が今、したいことでも、周りに迷惑がかかるならするべきではないのだ。
それに、ここで諦めたとしても私に何のデメリットもないのだ。
問題もない、そう自分に言い聞かせて明日の準備に取り掛かろうとした。
「弱さを一人で抱えて震えている君を助けたいと思うと同時に僕が困っている時に助けてほしいと思ってもいい関係だからね」
「なんですかそれ、とてもわがままではないですか」
「それが許されるからね。友達ていいでしょ?」
初めて4人で遊びに行った時に隅風が私に言ってくれた言葉を思い出す。
「わがままが許されるのが友達・・・・・・」
その言葉が、私に最後の決断をさせる。
私はに明日の準備をするのをやめて、すぐさま携帯を手に取る。
これは賭けだ。
客観的に全くメリットも何もない、ただの自己満足。
初めてする、私がしたいからという理由だけでする。身勝手な行為なのだ。
そうしては私は人生で初めて、何のメリットも合理性もない自分のしたいことをするのであった。




