助言
桜木葵視点
授業が終わり、クラスメイト達は帰る準備をし始める。
「葵ちゃん、今日も残って勉強するの?」
鮎莉がこちらに駆け寄ってきて、聞いてくる。
現在はテスト期間なのでみんな早めに帰っている。
勉強会はテスト期間までということで今はしていない。
勉強会は無事やり遂げることが出来た。
進捗も少し余裕を持って当初の範囲を終わらせることが出来ており、最後の数日は振り返りなど復習の時間にすることも出来てよかった。
「うん、そうする予定だよ。鮎莉も分からないところがあったら教えるよ?」
勉強会も終わったので、部室に行く必要もないのだが、あそこで勉強していると落ち着くので、終わった後でも時間ギリギリまでは部室で勉強している。
「私のことは心配なくていいよ。葵ちゃんの勉強会のお陰で絶好調だから!」
鮎莉は胸を張って答える。
鮎莉も勉強会で多くのことを質問してくれたりと、積極的に取り組んでくれた。
最後の模擬テストでは90点前半の点数を出すことが出来ており、大幅な成長を遂げている。
「それは良かった。お互いに頑張ろうね」
「うん」
そうして、鮎莉は荷物を持って別の友達の所へと向かった。
私も自分の荷物を持って部室へと向かう。
その道中、ここ数週間のことを振り返る。
この数週間で学ぶことが多くあった。
教えるという立場にいることで、問題を解くだけの考えから、全体を見て、考えられるようになった。
私は確実に成長をしているとはっきりと感じる。
その筈なのに、私は今もなお不安を拭えないでいる。
私の中にある不安とは国語の点数があまり伸びていないことだ。
前後の文脈から読み取り解く問題は無事にできるのだが、そうではなく、物語り全体から話を読み取り、解く問題は苦戦をしている。
特に、合理的ではないことに関しての問題は解けない。
例えば、隣にパスをすれば一点確実に取れるところで、彼はパスをするのではなく、自分でシュートをした。
結果、シュートは止められ、それが原因で試合が負けた。それなに彼は後悔のない表情をしていた。それはなぜか。
なぜ、後悔がないのかその理由が私には分からない。
何度も何度も同じような問題を解いているのだが、問題ごとに答えは必ず異なってくる。
パターンを見つけることが出来なく、いつも私は苦戦している。
どうすればいいのか分からず、ただ悶々とする日々を私は過ごしていた。
そして、私は部室にたどり着く。
少し前までは、鮎莉たちと賑やかに学んでいたのだが、今はなんとも言えない静寂がこの空間を包んでいる。
私は勉強会で使っていた、作業スペースにある椅子に座って、勉強道具を広げて勉強を始める。
「もうそろそろ時間だぞー!」
部室に入ってきた堀川先生の声で、もうそろそろ終わりの時間だと気がつく。
「堀川先生、ありがとうございます。」
堀川先生に声をかけられていなかったら、時間がきていることに気がつかなく、色々と問題になるところだったのでお礼を言う。
「お礼を言う必要はないよ。ここの管理担当だから、ただ仕事をしているだけだからね」
堀川先生はそう言うが、本来私がこの教室を使わなければそのような仕事もなかったでの、堀川先生にはかなりの迷惑をかけている。
「まさか、迷惑を掛けているとか考えてないだろうな?」
私の考えが表情に出ていたのだろうか、私が考えていることを言い当てられ私は少し驚く。
「何度でもこれは教師なら当然の仕事だ。気にすることはない」
「しかし、そうはいっても先生の仕事を増やしているのは事実です。」
「隅風と違って、そういった気配りができているだけ、いい方だ。」
「それってどう言うことですか?」
堀川先生から隅風のことが突然出てきたのでつい反射で聞き返してしまう。
「今回は色々と忙しいからいないが、前まではテスト期間だと言うのにギリギリまでここで勉強していたからな。」
「隅風も勉強をしていたんですか?」
「ああ、ここの方が集中できると言ってな。」
「そうなんですね」
隅風も私と同じような理由で勉強をしていたことを知る。
そのことに親近感が湧くのと同時に、今回、隅風がここで勉強していないのは、私の手伝いが原因なので申し訳なく感じる。
「隅風に申し訳ないと思わなくてもいいぞー。あいつはやりたい事、もしくはやるべき事をしているだけだ。気にするほど無駄だ。」
またもや考えが表情に出ていたのか、堀川先生はそう言ってくれる。
「桜木が考えている以上に人は自分のやりたいようにやっているんだ」
「自分のやりたいようにですか」
「そうだ、俺も隅風もただやりたいと、やるべきだと思っているから、動いているんだ。それが非合理なものだとしてもな」
「その感覚が私にはよくわかりません」
私は今まで必要なことしかしてこなかった。
無駄なことをしている余裕はなかった。
今だって私は必要だと思ったから、やっているだけなのだ。
「そうか?桜木も同じようなことをしていると思うぞ」
堀川先生の言葉にわたしは驚く。
「これは俺の感覚的なものだから、信用しなくていいからな」
堀川先生はそう言うが、わたしはその言葉に何か引っ掛かる。
これを知ることが出来たなら、何かが変わるような気がする。
だけど、それを知るためにはどうすればいいのか分からない。
「どうやら余計なことを言ったらしいな」
「いえいえ、そんなことは」
悩んでいる私を見て堀川先生は申し訳なさそうな表情をする。
「それならいいが」
そう言って堀川先生は窓の戸締りなどが出来ているかなどの確認をする。
私は勉強道具を片付ける。
「残りのことはしておくから、桜木は帰っていいぞ」
「堀川先生、ありがとうございます」
私は堀川先生にお礼を言って部室から出ようとした時だった。
「最後に先生からの助言だ。もし、先ほど言ったことが気になるなら、自分がやってみたいことをしてみるといい。桜木には迷惑を掛けてもいい友達はいるんだろ?」
先生の言葉は今まで停滞していた考えに新たな変化の兆しを与える。
それが気になって、その場で考えようとしたが堀川先生はもう帰る時間だぞと言ったため、私は取り敢えず学校を後にした。




