難題
竜馬さんの出来事からさらに1週間がたった。
竜馬さんは本当にその日の夜に過去10年分の過去問を送ってきてくれた。
本当に感謝しかない。
これによって塾の方の問題も大幅に向上することができた。
そして、嬉しい変化ももう一つ起きた。
それは麦野が私生活を見直してくれたことだ。
僕の注意をして以降、休憩中に睡眠をするといったことをやめて、初めの時のように、普通に勉強をするようになった。
人によっては注意しただけではすぐに直せないことの方が多いので、麦野が一発で直してきたことに驚きを隠さなかった。
そんなこともあり、学生生活の方の問題も無くなり、順調に進んだと思ったが、現実はそんなに優しくはなかった。
一つの問題が片付いたと思ったら、もう一つの問題が出てくるものだ。
では、その問題とは何かというと。
「桜木の国語の点数が伸び悩んでいます」
「久しぶりに来たかと思えば、そんなことかよ」
くだらんことを聞いと、呆れる堀川先生。
新たに浮上した問題として、桜木の国語の点数が伸び悩んでいるのだ。
「伸び悩んでいるといっても90点近くは取れてるんだろ?それに他の教科では90点後半を安定して取れてるんだ。十分に一位を狙えるだろ」
「堀川先生、分かって言っているのなら性格が悪いですよ?」
点数が伸び悩んでいるといっても、別に低い点数ではない。
昨日したテストでは88点を取れている。
それに堀川先生の言うとおり、テストとは国語だけではなく他の教科もあり、それでは桜木は90点後半を安定して取れている。
普段、そこまで一位などを気にしない人から見れば、十分に狙えるレベルだと思うかも知れないが、現実はそう甘くない。
一位の戦いとは一点を争うもの、平均として90点後半なければ、取れる可能性は低くなる。
それを考えた上で、国語の点数は桜木の足を引っ張っていると言える。
このままいけば、ギリギリの勝負になるのは確実。今回において、一位を奪還はそれなりに価値があるのだ。
今回の目的において、達成すべき事は桜木が自由に出来る時間の維持と次の夏休みに向けた自由への確保だ。
前者の目的なら全体的な成績が上がれば、維持はできるかも知れないが、夏休みに向けた更なる自由を得ようとするならば、相手が納得するようなものを用意しないといけない。
それにおいて、2位は不味いのだ。
例え成績が上がったとしても、同学年に上がいるのであれば、それを超えていかなければいけない。
そうなると、夏休みに更なる自由というと、厳しいものがある。
「どうせお前のことだ。原因は分かっているんだろ?」
「原因が堀川先生の作る問題にあるから、堀川先生に聞きに来ているんですよ?」
桜木の点数が伸びない理由、それは堀川先生のテスト形式にある。
堀川先生はラスト15点分の問題は、堀川先生が独自に選び出した、小説などから問題を作成している。
それだけならまだいい、問題なのはその内容だ。
先生の作る問題とは考える力を問う問題になっている。
これが何を意味するかというと、今までのテストを解くための考え方が一切通用しないものになっているのだ。
テストの点数をよく取ることに特化していた桜木には大ダメージだ。
今でこそ、教えるという視点を手に入れることができたので前よりは酷くはないが、それでも半分ぐらいしか正解できていない。
「言いたい事はわかるが、俺に何をしろと?まさか、問題を変えろとかその問題のヒントを教えろなんて言わないよな?」
「そんなことしても意味がありませんから、考えてもいませんよ」
僕がそういうと、堀川先生はホッとした表情をする。
教師としてある程度の公平性は保つ必要がある。
そのラインすら見極められないような人物に堀川先生は一切の協力はしない人だ。
それにもしそのようなことが出来たとしても、問題の先送りにしかなっていないし、桜木の気持ちを踏み躙る行為になる。
「てか、お前が教えればいいじゃないか?そこのところは毎回満点だろ?」
堀川先生が言うとおり、僕は考える力はあるのでそこのところは問題なく解けている。
正解できると言う点では僕が適任なのも否定はしない。
「それが出来たら良かったのですか、桜木の考え方と僕の考え方には大きく異なっているので、僕のやり方を教えても参考にならないどころか、下手したら混乱を与えてしまいます。」
考え方も人それぞれである。
大体は自分の能力的などで価値観などが左右してくるのだが、僕の価値観はあまりにも歪であるため、僕の考え方を人に教えても、使いこなせない。
「ならどうするつもりなんだ?」
「桜木自身の考え方を身につけてもらう必要があります」
「それはどう言う意味だ」
「桜木の考え方の根本にあるのは知識です。この言葉の言い回しなら、こうなるといった合理的な考え方です。」
桜木の考え方は客観的に正しいのかが根本にある。
その考え方は正しい。
賢くなろうとするならば、主観的な考えではなく、客観的な事実に基づいた考え方をしなければいけない。
「しかしながら、この世の中全てが合理的に動いているわけではありません。特に人が関わるものには」
日頃から全てを合理的に行動している人など殆どいないはずだ。
「桜木はそういった非合理な行動の処理が苦手な傾向があります。だからこそ、桜木に感情を知識ではなく経験として吸収して、より柔軟性がある考え方を持ってほしいです」
「なるほど、なるほど。言いたい事はよく分かった。簡単にいうなら頭が硬いから柔らかくしろという事だな」
「はい!流石、堀川先生!理解が早くて助かります」
概念的なものなので説明が難しかったが堀川先生は正確に理解してくれた。
流石は先生だ。
「お前、全て俺に丸投げしようとしてないか?」
「・・・・・・」
堀川先生の一言に僕の笑顔は一瞬で凍る。
それを見て、堀川先生はやっぱりかといった表情をする。
「いつもは自信を持って、しっかりと根拠があることを言うお前が、今回はやけに自信無さげに、そして説明もふんわりしていたと思ったんだ」
「・・・・・・」
堀川先生の確信をつくような言葉にぼくは完全に止まる。
「なあ、隅風。どうすればいいのか分からないんだろう?」
「はい、そのとおりです」
僕は懺悔するように認める。
桜木が非合理的な行動を処理することが苦手なのが問題なのは分かった。
しかしながら、その解決方法が分からない。
虱潰しにやっていく方法もあるのだが、時間も場所も気持ちも何もかもがない為、不可能。
何をどうすれば、桜木はそういったことを知ることができるのか、散々悩んだのだが一切出てこなかった。
つまり、現状を述べるとするならば、久しぶりの絶望というやつである。
誤字報告ありがとうございます。
誤字の確認関しては、いちいちしていると小説を書くモチベーションを少しずつ削っていくので、書くことを優先してあまりしないのでとても助かります。




