席替え
月曜日、僕達は学校へと登校する。少し前は、たまたま時間があったときに、桜木達などと一緒に登校することもあったが、噂の件などもあり、必ず別になるようにしている。
まあ、そういった習慣があったわけではないので特にこれといった変化ではない。
「学校行くのだるいな」
一緒に登校している住吉は、眠たそうに言った。まあ、月曜日の朝は色々とキツイところがあるからな。
「だけど、今日の一限目は退屈にはならないんじゃない?」
「うん?何かあったか?」
「席替えをやるといっていたじゃん」
「あーーー、そういえば担任がそんなこと言っていたな」
学校生活の席替えとは、学校生活においては重要なイベントである。友達同士と席が近ければ、授業中おしゃべりなども出来て楽しい、今まで関わったことのない人と席が近くなり、新たな出会いがあるかも知れない。
無論、影の薄い僕や色んな意味で捻くれている住吉にとってはそういったことは一切ないのだが、席の位置については関心を持つ。
先生の目の前だとサボりにくいわ、目をつけられて当てられるわで、授業への影響はかなりある。
前回の席替えで運悪く、一番前を引き当てた僕達は、今回に席替えに賭ける気持ちはいつもよりも大きかった。
「今回こそは、一番前から抜け出してやる」
「運が良かったらだけどな」
「大丈夫だ、俺はお前よりも運がいい」
「さりげなくディスるのやめてくれないかな?」
そんなたわいの無い雑談をしながら、僕達は教室へと着くのであった。
「それじゃあ、席替えをするぞー」
朝のショートタイムの時間、髪の毛がボサボサでいかにもやる気がなさそうな30代ぐらいの男性こと、僕達の担任である堀川慎吾こと堀川先生が言った。
「やり方はいつも通りで、くじを引いて、あとはランダムに出した数字を書いていくから、引いた数字の場所に移動しろよー」
そうして、一人づつ、くじ引きを引きに行く。僕達はちょうど中盤ぐらいで引ける。
まあ、数字に意味はないのでちょっとした運試しぐらいの気分だ。
そうして僕の番がくる。
「堀川先生、眠そうですね?昨日何かありましたか?」
「手間のかかるやつがちょっと前に頼んできたことをやるの忘れてな、昨日徹夜で仕上げたんだ」
「自業自得じゃないですか」
堀川先生とはちょっとした雑談をするぐらいには仲がいい。そんな雑談をしながら僕はくじを引く。引いた数字は15番だった。
「席替えで殆どの前にいる前にいるお前は何番を引いたんだ?」
「一回だけ後ろになったことはあります」
「授業参観や授業見学とか、やたら後ろに人が集まることが多かった時だけな」
そう、僕は一番前の席になることが多い。だからかも知れないが、先生達とは基本的に親しい。堀川先生と親しいのも同じ経緯だ。
「今回は15番でしたよ、後ろになることを祈ってます」
「俺もそうなるのを願っておくよ」
そう言って、僕は席に向かい、座る。
その後も淡々とくじは引かれていき。その後は堀川先生が機械で出したランダムな数字を端から順に出していく。
「いやー、本当にお前って運が悪いんだな!」
「ふん、もう慣れたことさ!」
「強がっているのはバレバレなんだぞー!」
住吉は爆笑しながら言った。公正なるくじの結果、住吉は無事窓側の一番後ろの席を引き当て、僕はその隣の列の一番前の席を引き当てた。
「いや、ここまで来ると何か持ってるよ!」
「そんな運はいらないんだが」
一番後ろを引いて機嫌がいいのだろう、それに彼の周囲には比較的に喋れるやつが揃っている。
「いやー、その運の悪さはある意味すごいよ!お前の後ろはグループで固まってるし、隣の中央列もグループで固まってる。唯一の救いは、隣が桜木の次に勉強ができる麦野というとこか?」
「喋れたらな?」
住吉とは対照的に僕の周囲は別グループが囲んでおり、完全に孤立している。
住吉が言う、唯一の救いである麦野は、参考書と睨めっこしながら勉強をしている。そこからは話し掛けるなと言わんばかりの雰囲気が漂っている。
「孤独な授業頑張れ」
「いつものことだ」
「そろそろ授業だからなー!俺が担当だから少々遅くなっても見逃してやるから、早く机とかを移動させろー」
堀川先生の声を聞いて、僕達は自分の席へと机を移動させた。
「まあ、 麦野はリスみたいな小動物ぽい感じがあって可愛い部類だし、眼鏡がその魅力をより引き出しているし、目の保養にはなるだろ」
「そう言った考えでいたら、住吉は僕を友達としてないだろ」
「はは、間違いない。お前は誠実だからな。お前のいいところであり悪いところだな。人生楽しくなさそうだ」
「はあー」
住吉の最大限の皮肉と共に自分の席へと向かった。
そうして堀川先生の授業が始まった。堀川先生の担当は国語であり、様々な視点を持って参考になる知識など面白い授業をしてくれるので、生徒からの評判は高い。
僕自身も堀川先生の授業は参考になるので好きな部類だ。
ふと、隣の麦野を見ると、彼女は先生の授業をガン無視で参考書を見て、勉強をしている。
麦野は基本的に頭がいいと思われているため、滅多に当てられない。だがらこそ、授業を無視して別のことをしていてもいいのであろうと、考えているのだろう。
それにテストではしっかり結果も出しているので、成績面で見るのであればも先生の迷惑にはなっていない。
しかし、それは個人だけの面であり、先生から見ると面倒な生徒で違いない。成績は優秀で手間はかからないのはいいのだが、授業中一人だけ別のことをしているのは、不満不平も出てくるのでその対策もしないといけなく、うまく調和を取る必要が出てくる。
それにもし結果が悪ければ、それは教師の責任なる。ある意味でギリギリである。
それでも何か言うほどのものでもないことは間違いない。そういうことで、授業に戻ると、堀川先生が麦野の方を見ていた。
そして、僕は察する。これは不味いなと。
「麦野、次のところを読んでくれ」
案の定、堀川先生は麦野を当てた。堀川先生の授業スタイルは、ああいった他所ごとをしている場合は授業もしっかり聞いているなら許すタイプであり、今のように確認の為に当てることはしばしばある。
そして当てられた麦野はというと、今まで一切授業を聞いていなかった為、どこを読めばいいのか分からなくなっている。
このままだと麦野はクラス全員の前で恥をかくかもしれない。
「P57ページ8行目」
小声で読むべき場所を教える。麦野は一瞬こちらを見た後、何事もなかったように言われた場所を読み始める。
事前に状況を把握していた為、素早いカバーができた。結果的に周りからはいつも通りに答えたと見えただろう。
その後の麦野は、反省したのか授業をしっかりと聞いていた。
そうして、席替え最初の授業は終わった。
「さっきはありがとう。助かった」
「どういたしまして」
休憩時間、麦野は僕に対してお礼を言ってきた。それに対して無難に答える。
そして僕は麦野さんと話すいいキッカケになると思い、何か話題を振ろうとするのだが、麦野さんはすでに参考書を開いて勉強をしていた。
これは孤独の授業から抜け出すのは無理かも知れないなと、思いながらその後の時間を過ごした。
そして、授業が終わり帰りの時間となるのだが、結局あの後も話すきっかけになるようなことは起きず、麦野は常に勉強をしていた。
その姿からは桜木と似たものを感じるが、その本質はきっと違う。
そのなことを考えながら、僕は人生相談部へと向かう。




