駿人の戦い方
住吉視点
「いやー、してやられた感じだね」
「そうだな」
駿人の完璧な不意打ちによって第二セットは駿人が勝った。出来ればここで勝って終わらせたかったが、あそこまで桜木に粘られた時点でこのセットでの勝ちはなかったと考えていい。
「なんだが嬉しそうだね」
「バレたか」
「何がそんなに嬉しいの?」
「駿人が敵となって戦うのは初めてだからな、いつもは味方だから、こういった感覚とても新鮮だ。」
駿人は今回、割とガチで勝ちにきている。数年付き合っているが、こう言ったことは初めてであり、駿人と言う人物の実力を知ることができる機会だった。
駿人は一言で言うなら参謀タイプだ。後ろで情報を集めて、そこから策を巡らせ勝ちに来る。
桜木の件から見ても、その分野での才能は凄いものがある。まあ、駿人自身はそういった能力はあくまで副産物であり、根本的な才能はないと言う。
そう言う訳で、策謀にかけている駿人だが、普段の生活で策謀なんかは使うわけがなく。こう言った勝負事でも極力策を巡らすことはしない。
策謀以外に関しては、特にこれといったこと強みはなく、本人自体も目立つことを嫌うので、クラス内では影が薄い存在になっている。
そんな駿人が今回は策を巡らせている。いつもは味方でその脅威を実感することはなかったのだが、今回は敵としてその脅威を実感することが出来るかもしれないのだ。
ワクワクが止まらないのは仕方ないことだろう。
「それで次はどうするの?」
「どうするも何も、全力でやるしかないだろう?それに相手は駿人だ。何をしてくるか全く分からん。」
「なにそれ。付き合いが長いんだから、少しぐらい分かるんじゃないの?」
「無理だな」
鮎莉の質問に俺は即答する。
「誤解しないようにいっておくが、アイツだから分からないんだよ、あいつは今回みたいにいつも不利な状況にいる。それを切り抜けれる強力な武器もない。それなのにいつも何とか切り抜けてる」
薄情者だと思われたくないので、弁明する。言っていることは極めて事実である。
ここ数年駿人と付き合ってきたが、駿人が不利ではなかったことは一度もない。今回なら4人の中で最弱という立場でいる。
何か呪われているんじゃないかと思うほど、あの手この手で不利な状況に追いやられている。
まあ、俺からしてみれば駿人から出てくる不幸話が面白くて今度はどんな不幸があったのか楽しみにしていたぐらいだが、こういう時に改めて考えるとやはり異常なところはある。
常に盤面は不利であり、逆転するほどの強い武器もない。なのに駿人はなんだかんだそう言った場面を切り抜けている。
寧ろこっちが聞きたい、どうやって切り抜けているんですかと、まあ分かることはある。それは確実にこちらが苦戦するということだ。
「前から思っていたけど、隅風くんも色々苦労してるんだね」
「それがアイツの仕事まである」
「言い過ぎだよー」
そんな感じで話したあと、休憩は終わり。
コートへと向かう。
駿人チームの陣形は、駿人が前で桜木が後ろといったこっちと同じような感じだ。
ただ一つ違いを言うなら、こちらは7対3ぐらいで対応範囲が偏っているのに対して、駿人チームは5対5といった感じになっている。
なんだか普通の陣形で少しがっかりする。もっと意外性があることでもしてくると思ったが、どうやら考えすぎだったらしい。
第3セットなので、あちらがサーブだ。駿人は奥の方に向けて打つ。先程まで桜木の相手をしていたからだろうか。
桜木のサーブは鋭く強かったので、対応する時にも神経を尖らせていたが、駿人のサーブは高く上がり緩やかに落ちてくるといった、桜木のサーブとはかなりの差があるものだった。
そんな甘いサーブを見逃すわけもなく、鮎莉は駿人に向けて鋭いジャンプスマッシュを放つ。とても打ちやすいサーブもあり綺麗決まる。
これをどうにかするのは駿人にはキツイだろう。さてどうするかなと思った瞬間だった。
「油断大敵だよ?」
気がつけば、駿人はスマッシュが飛んでくる軌道上にいて、ネットギリギリでそのスマッシュをドロップで返す。
俺は急いで駆け寄りギリギリでそれを返すが、シャトルの軌道上にはすでに駿人のラケットがあり、ネットを超えた瞬間、俺とは反対方向に打たれ、シャトルは地面へと落ちる。
「まずは一点かな」
何事もなかったように淡々と結果だけを述べる駿人。それに対して、俺は駿人の早過ぎた反応に驚きを隠せない。向かうチームの桜木ですら驚いている。
何故なら、駿人は俺たちがどこに打つか分かっているか、打つ前から動いていた。
「そんな驚くことはないよ。ああ打てば、鮎莉は実力が低い僕では対応できないスマッシュを打ってくる。返しやすいやつだから、失敗することもない。そして、スマッシュが来るとわかれば対応ができる。鮎莉は利き手、つまり右方向の中央に打つ傾向がある。あとは予測した位置にラケットを置いておけばいい。」
最初の一手から、俺たちは嵌められていたらしい。
「確かに僕は桜木に比べれば全然上手くない。僕のサーブは返しやすいかもしれないが、使い方を工夫するば強力な罠へと変わる。要は使い方だよ」
なるほど、これが隅風駿人の強さか。今までは味方だからあまり実感をしていなかったが、敵となったからこそ分かる。こちら側からしてみたらどうでもいいものを、駿人はこちらを嵌る罠へと早変わりさせる。
そのことに強者である俺たちは気がつけない。何故なら、強者である自分達にとって、小さなことが破滅させるほどの罠になるとは考えれないからだ。
それは何もない弱者だからこそ気づけるもの。
隅風駿人という弱者に相応しい戦い方なのだ。
「だが、それを言っても構わないのか?知ってしまえば対応はできる」
トリックを話した駿人に聞く。確かに強者だからこその油断はあるかもしれない。そこを上手く活用すれば勝てるかもしれない。
だが、その油断に気付ければすぐに対応できるのも強者であり、油断がなくなれば弱者に勝ち目はなくなる。
「それを油断大敵と言うんだよ。さっきも言ったろ?要は使い方だ。自分が強者だからといって構えていると足を救われるぜ?」
駿人はさも当然と言わんばかりにいう。そこに一切の慢心はなく、ただただ事実を述べているだけなのだ。
それに俺はある種の恐怖を覚える。
これが駿人の戦い方。弱者という武器を極限まで使いこなす強者なのだ。




