桜木と鮎莉
休憩も終わり、2ラウンド目が開始した。
住吉がシャトルを打つ。シャトルは後ろの方へと飛んでいく。
第一セットでは、真正面の戦いをメインにするため、後ろに打つことはしていなかったのだが、ここにきて打ち方を変えてくる。
その変化から予測出来ることは、住吉達は桜木の体力を減らすことを主軸にした可能性がある。
第一セットは捨てることが分かっていたので、こう言った誘いに乗らないという選択肢もできたが、第ニセットは絶対に落とせないので対応するしかなくなる。
ならば、ここで桜木を体力切れに追い込み、僕を試合に出させることで、僕たちの作戦自体を狂わせようとしている可能性がある。
第一セットと打って変わって、こちらをうまく翻弄してやろうと頭を使ってきている。住吉はピンチにならない限り、こう言ったことはしないので、きっと鮎莉の提案だ。
桜木は打ち返すために後ろの方へと行く。さて、ここをどう返すか。普通に返せば、相手の策略に嵌る。だからといって後ろからでは出来ることは少なく、逆転の一手を打ちにくい。
「あなたがそうするなら、私は力で押します」
桜木は綺麗な動作でジャンピングスマッシュを放つ。
その様子は多くの人を虜にしてしまいそうなほどのものだが、その反面、打たれたシャトルは物凄く早く、そして鋭く突き刺さり二人のは反応することもできずに地面へと直撃する。
「嘘だろ・・・・・・」
「あははは、」
桜木が選んだのは、先程住吉がおこなっていた、正面からの力押しだった。
ただ、その力は僕たちの予想を超えていた。
放たれたスマッシュは第一セットに放った住吉と同等な威力であった。つまり、技術だけで、体格の不利を跳ね除けたのである。
そのことに2人は驚きの声をあげる。大胆手であり、面白い展開でもある。両チームの戦い方が、第一セットと真逆になったからだ。
「このセットは取らせてもらいます」
桜木から放たれる自信の満ちた答えは、非常に頼もしく、性別が逆なら普通に惚れていたかもしれない。
そのあとの展開はまさに猛攻であった。桜木から放たれる鋭いスマッシュに2人は苦戦を強いられ、こちらはどんどん得点を積み重ねていく。
ただ、やられていくという訳でもなくしっかりと反撃してくる住吉達だが、第一セットで2人の攻撃のいなし方をしっかりと身につけていた、桜木はそれを軽く受け流す。
ここにきて、第一セットの布石が効き始めている。
一切の反撃を許すことなく、攻め続ける桜木。だが、スマッシュだけではすぐに対応され始める。しかし、それも見越していたのか、桜木の放ったシャトルは住吉の直前で急激に角度を変えて、地面へと落ちる。
「カットスマッシュかよ」
それを見た住吉はマジかよといった感じて言う。
「私が打てるのはスマッシュだけではありませんよ」
そう言いながら、次はドロップやカットなどを利用して得点をする。
流れは完全に桜木が掌握していた。桜木の強みである技術力を存分に振るい、2人を翻弄していく。
そして、気がつけば14対4と住吉チームに10点差をつけて勝っていた。桜木は取れると確信した表情をする。
試合の流れ自体も先ほどの結果をなぞるような展開になっている。ただ、一点を除くのであれば。
「くそ、このままだとやばいぞ」
「住吉、ここは私に任せてくれない?」
焦る住吉に鮎莉は問いかける。それに対してしばらく考えた後、住吉は「任せる」といって互いのポジションを交代する。
ただ交代するという訳でもなく、住吉は先ほどの鮎莉の位置より奥に構えた。それは、こちらがしている陣形、桜木に任せる感じと酷似している。
「鮎莉が何をしてくれるのか楽しみです」
「その期待に応えないとね!」
それに対して桜木は心の底から楽しそうにしながら試合を再会する。
桜木は一切の容赦なく鋭く強いスマッシュを浴びせる。それをギリギリながらもしっかりと打ち返す鮎莉。
鮎莉が取った行動は攻めを捨てた、守りだけを考えたラリーだった。
勿論、それだけでは点差は広がるが、先ほどよりも得点のペースは急激に落ちている。それは鮎莉が必死に桜木の攻撃を防いでいるから。
コートの端から端へと動かされているので体力消費はかなりのものだと思うが、それでも桜木の攻撃を防いでいるその姿は、先程とは違う一点をよく表していた。
その違いとは、先程の僕たちは第一セットを捨てるつもりでやっていたが、鮎莉達は第二セット取るつもりでやっているということ。
その差は確実に先程までとの流れを変え始めていた。鮎莉の想定外の粘りに、桜木も体力を多く減らされ、技の精度が落ちてきた。
先ままでの鋭い攻撃は無くなっており、このまま続けば桜木が体力切れを起こすだろう。だが、それが起きる前に鮎莉の体力が尽きる。
鮎莉は奥に放たれたシャトルに追いかけることができなくなっていた。そのままさらなる点差がつくと思ったが、それを住吉が強く返す。
体力の消耗としばらく住吉が攻撃していないこともあって、桜木は反応できず、シャトルはこちら側に落ちる。
「よくやった」
「ふふ、あとは任せたぜ!」
住吉は頑張った鮎莉に一言をかけて、先程同様、住吉が前、鮎莉が後ろの陣形に変わる。
それに対して桜木は苦しそうな表情をする。理由は簡単で桜木の体力が残り少ないのと、鮎莉が粘った時間で住吉の体力がある程度回復したからだ。
ここからは住吉のターンになる。だが、こちらに勝ち目がないという訳ではない。ここまで持ち込むために、2人は18対4と言う14点差ある。
こちらはあと3点取ればいい。それで勝ちだ。しかしながら、住吉は甘くなかった。
「ここから逆転だ」
そう言って、放つ住吉のスマッシュは第一セットの時と遜色がないと言うか、それ以上に強く放たれる。
それに対して、桜木もなんとか対応するが得点には繋がらない。徐々に点差がなくなっていく。
途中からは桜木の体力切れも手伝い、点差は20対18まで迫っていた。
ここで桜木は勝負を仕掛ける、最後の力を振り絞り奥の方へと力強く返す。
「勝たせてもらうね!」
鮎莉もここが勝負所だと判断して、全ての体力を使い、打ち返す。
それに対して桜木はギリギリで返す。
それを見逃さず住吉はスマッシュをしようとする。桜木は咄嗟に住吉のスマッシュが放たれる方へと体勢を変える。
「な!」
「これで勝ちだ」
その瞬間、桜木は驚きの声をあげ、住吉は勝利を確信する。
住吉は桜木がフェイントに引っかかったことを確認した瞬間、それとは反対の方向にスマッシュを打った。
住吉はここで初めてフェイントをした。アイツらしい手である。ギリギリの戦いだからこそ、住吉は頭を使い確実に勝てるようにフェイント入れてきた。
それは付き合いが浅い桜木には予想もできないことであり、付き合いが長い僕には予想ができることだった。
「ここは取らせてもらうよ」
だからこそ、僕はその攻撃を防ぎカウンターをする。
「何!」
「ちょ!見えない」
今まで一切動かず、存在自体忘れかけていた僕が突然動いたことに驚き、住吉は動けず、鮎莉は住吉の横をスレスレで通りすぎるシャトルに反応ができず、そのまま地面へと落ちる。
こうして、第二セットは桜木チームが獲得するのであった。




