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前哨戦

「まだまだいくぞー」

　最初から本気の住吉は鋭いショットをしてくる。それに対して桜木は、コートギリギリの後ろの方へと打ち返す。

　住吉にペースを握られるのはまずいと考え、鮎莉に打たせてペースを戻そうとしたのだろう。

「私もそこそこうまいんだよ?」

　鮎莉はジャンプして、最奥からスマッシュして返す。シャトルはネットギリギリを通る。

　桜木はギリギリそれを返すが、返すので精一杯で結局は相手にチャンスを与えてしまう。

「これで2点目」

住吉は一切油断しないで、桜木が対応できないよなところへスマッシュを打ち、2点目を得る。

　鮎莉も中々の実力者だ。ネットの奥からこちらまでスマッシュはそうそう打てない。今までの付き合いからしても、鮎莉は何でもすぐにできるタイプなのだろう。ある意味住吉と同じ感じだ。

　そして、鮎莉の実力が分かったことだ一つはっきりしたことがある。このメンバーの中で素の実力だけなら僕が一番弱いという事だ。

　少なくともあのような芸当は僕にはできない。

「強いですね」

　相手の実力が分かり始め、桜木はポツリとこぼす。しかしながら、その表情はどこか嬉しそうだ。

　作戦を変えてサポートに動こうと思ったが、これなら必要はないようだ。

「さて、次いくぞー」

　そうして、住吉は再びシャトルを打つ。それに対して桜木はわざとスマッシュを打ちやすいように返す。

「何が目的か知らないが、ここは押す」

　住吉は自分の利点である体格差を優先し、桜木の誘い通りスマッシュを放つ。

　1回目は反応しても対応が厳しかったが、2回目はしっかりと反応して打ち返している。しかしながら、返しが甘い。

　住吉はスマッシュを撃つふりをしてネットギリギリに落とす。それを桜木は取りに行くことをせず動かなかった。

「あと、一回か二回といったところでしょか？」

桜木の目的は次のセットに向けて、脅威となる攻撃を対処方法を見つけようとした。

　根本的にこのセットは捨てるつもりなのだから、存分に有効活用するつもりでいるのであろう。だからこそ、ギリギリだが、対応できたかもしれない攻撃も体力温存のため、捨てた。

　しかしながら、捨ててると決めているといってもついつい深追いしてしまうものなのだが、桜木はしっかりと割り切りが出来ている。その証拠として、3点差がつけられているが、そのことには一切動揺せずに、冷静に現状を分析している。

　そして、桜木の分析は正しく、次のスマッシュでは普通に打ち返すことができ、2回目では鋭く住吉の方に打ち返すことが出来ている。

　しかし、スマッシュに対応できたとしても点を取ることにはつながらず、5点差がつく。

　ここから桜木の戦い方が変わってくる。スマッシュの方はもう大丈夫だと判断したのか、次は鮎莉の方にターゲットを変え、後ろギリギリを狙った攻撃をし始める。

　それに対して鮎莉は苦もなく対応するが、決定的な返しはできていない。そして、ラリーは少しずつ長くなっていく。

　だが、鮎莉と住吉の連携は上手く、こちらが点を取ることはできない。

　そして、10点差がついた。こちらはまだ0点だ。しかしながら、状況的にはまだ互角である。

　一つは、根本的にこのセットを捨てるつもりだということ。そしてもう一つは、ラリーが続くことによってより多くのことを試すことができている。

「さて、次はこっちからいくとします」

　そう言って、ラリーをしている中、住吉を避けて鮎莉の方に初めてスマッシュを打ち始める。

　初めてのこともあり、ギリギリで対応する鮎利。しかし、そんな甘い球を許すわけがなく、再びスマッシュを打つ。

　鮎莉では対応が出来ない。だが、すかさず住吉がカバーに入れる。だが、それもギリギリだ。

　桜木は再びスマッシュを打つふりをして、手間へに落とす。二人とも対応出来ずに、初めてこちらが得点する。

「葵ちゃん、手加減してよー！」

「ダメですよ、鮎莉だってまだ本気を出していないじゃありませんか。」

「むむむ」

　狙われた鮎莉は些細な苦情や入れるが、桜木はそれを上手く返した。こう言ったところで桜木のしたたかな強さを実感する。

　僕では上手く返すことは出来なかっただろう。

「ふん、葵ちゃんをここで倒して、特大パフェ奢らせてあげる」

「鮎莉が本気でやることは滅多に無いですので楽しみにしています」

　バチバチと二人の間で火花が散る。

　第三者から見ると、美少女同士が戯れあっているように見えるのでとても微笑ましい。

　桜木にほぼ全て任せているため、より多くの情報を得ることができている。

　勿論しっかりと試合に勝つための情報分析もしているのだが、それ以上にプレイをしている3人の姿は非常に絵になっていて、気を抜くとついつい見惚れてしまう。

　3人は気づいていないようだが、周囲ではこちらの試合に見ている人がそこそこいる。

　さすが、学校1の完璧美少女である。それに負けず劣らずの住吉と鮎莉もすごいと思う。

　そんなくだらないことを考えていると、桜木が打ち始める。その打ち方はスマッシュを打たせないように高くそして奥に打ち上げる。

　それに対して桜木は、さっきと同じ形で攻めるために鮎莉に向けてスマッシュを打つかと考えたが、そうではなく住吉の反対方向に向けて普通に返した。

　それに対して住吉も難なく対応する。その後はひたすら左右に動かすようなラリーが続く。桜木はさっきみたいなスマッシュを使うことはなく、次はドロップといった別の技で攻める。

　そして、一度うまくいくと、すぐに別の打ち方を試し始める。

　どうやら、次の試合に向けて切れる手札を増やしているようだ。相手もそれを分かって出来るだけ早く終わらせようとするが、桜木は適度に粘りながら、うまく対応する。

　特にうまいと思うのは、こちらが体力的な消費が大きくなる瞬間、わざと打ち返さないなどをして、体力消費が住吉チームが多くなるようにしている。

　体力切れを狙っているこちらとしては、非常にうまく体力消費を狙えてとてもいい。

　結果的に第一セットは21対7で住吉チームが取った。

　そこから1分休憩をする。

「お疲れ様」

「ありがとうございます」

　何もしたいなかっだ僕は、少しでも桜木が休めるようにタオルと水筒を持ってきて渡す。

「次のセットは取れそう？」

「はい、大丈夫です。だから第3セットは任せますよ？」

　桜木は力強く答える。その姿はとても頼もしい。いつも感じる高嶺の花といった感じはなく、今は仲間として戦っている感じがしてなんかいい。

　それに楽しそうにプレイする桜木を見ることができ、頑張っていることが無駄ではなかったと思える。

「ああ、任せろ」

　だからだろうか、僕もついつい格好良くしたいと思ってしまった。

　まあ、今のところ四人の中では最弱なのだが、そんなやり取りをして、休憩は終わり第二セットがはじまる。