服装は大切
「いやいや、待てよ。話が飛びすぎだ。こっちにも分かるように説明してくれ。」
突然言われたい予想しなかった言葉に対して僕は説明を要求する。
「簡単なことだぞ、駿人は遊び用の服とか興味ないから持っていない。だから用意しないといけない。それだけの話だ。」
「いやいや、それぐらいは流石に持ってるよ?ずっと制服でいる訳ないじゃん」
「ダメだな。駿人はセンスがない。信用ができない。」
「いやいやいや、僕は住吉に私服姿を見せるのは数えれるぐらいの回数しかなかったよね!しかも何かあったら笑いものにする君が服装に関しては何も言わなかったから特に問題がなかったはずだ」
「拒否権はない。以上だ」
あまりにも一方的な言葉に対して抗議するが、住吉はその全てを薙ぎ払い、それ以外の選択肢はないと突きつける。
てか、センスが無いとか堂々と言われるとかなり傷つく。センスがあるとは考えていないが人並みにあると思いたい。
とにかく、この発言をそのまま認めたら、僕がセンスないことを認めることになるし、僕自身の人権も危うい。だからこそ、必死に抗議するがそれは全て黙殺され、抵抗虚しく服を買いに行くのが決定した。
「あはは、まあ言い方はアレかもしれないけど、一緒に見てくれるんだから、いいことでしょ。前向きに考えていこ」
「こういうときは言い過ぎだよと言って庇ってくれると嬉しいな」
「あ、そうだった。ごめんね。なんかそういった感じがありそうだったから。」
「はは、、、」
桜木のオーバーキルな発言に僕の中にある男としての尊厳は粉々にされ、ただ笑うことしかできなかった。
「よし!駿人も無事に納得してくれた。桜木もそれでいいかな?」
「はい、それで構いません」
「何が無事だー!もっとオブラートに言えー!扱いの差がありすぎるぞー!」
一応、講義の声を小さく上げておくが、華麗にスルーされる。
まさかこんな感じで僕だけをおもちゃにされるなんて予想できなかった。なんて悪辣なことを考えるんだ。
「それじゃ、明日は服屋に行くから。お金だけ持ってこいよー。集合は・・・・・・考えるの面倒くさいからそこら辺、駿人に任せるわー」
「おい!」
さらっと面倒くさいことをこちらに押し付けてくる。理不尽極まりない奴だ。
「ところで、どうして服を買いに行くことにしたんだ?他に楽しいことならいくらでもあったはずだ」
「土曜日に遊びに行くから、その時の服を買いに行くだけだぞ」
「それを最初に言えばいいじゃないか!」
「面白そうと思ったから」
「はあ」
諦めといった感じで、僕はため息をする。服を選ぶだけでこの様なのだから、今後ことがますます不安になる。
「それで土曜日はどこに遊びに行くんだ?」
「それはお楽しみだ」
「なら楽しみにしておこう」
聞いたとしてもいい感じにスルーされるだろうし、こういう時の住吉はしっかりやるやつだ。問題はないだろう。なら当日まで楽しみにしておくか。
そんなこんなで、その日は雑談をして過ぎていった。
次の日、桜木の噂については鎮火する様子は一切なく。無事、僕が考えた逃走経路を使用されることになった。
ちなみに今回行く服屋も偶然の遭遇を避ける為、色々な対策をしている。場所を少し遠いところにすることや微妙に時間をずらすなど服屋一つ行くにしても大変である。
早く鎮火して欲しいものだ。圧倒的に不毛な時間を使用している。
「それで、桜木達はつけられてないだろうな」
「僕が見る限りなら大丈夫だった。というかいた方がやばいから、そろそろ合流する」
僕は合流時点に待機している住吉に報告して通話を切る。
僕はそう言って一本道を見通せる3階建てのスーパーから住吉の方に向かう。
最終チェックとして長い一本道を通ってもらってそこを見通せるところから確認してつけている人がいない事を確認した。
万が一がないように念には念を入れた。ここまでする必要はないかもしれないが、影響力が大きいということはその分些細なことでも大きなことになら可能性がある。
ようやく真っ当とは言えないかもしれないが、まともな人間関係を築き始めた桜木に自分の立場のせいで大変なことになりましたなんて、経験させる訳にはいかない。
少なくとも、桜木が人通り経験して自分で考え行動出来るまでは、守り通してあげたいと考えている。
まあ、これは僕のエゴであるため。出来るだけ周囲に迷惑がかからない様に配慮している。今回のルートもいい場所があったからに過ぎない。それに決めるのは最終的に本人だ。
それにしても大変だ。僕はヒーローの様に力強くはないし、能力があるわけではない。ただただ積み重ねをしていくことしか出来ない。努力を続けるのは大変だ。
だが、その積み重ねによって守りたいものは守れるし、あらゆる手を打つことができている。
どっちもどっちだな。そんな結論を出して僕は住吉達と服屋に行く。
たどり着いた服屋はみんながよく利用する安くてクオリティが高いと有名なところだ。
「それじゃ、俺たちはあっちで」
「私たちはあっちで」
桜木は鮎莉に連れてから、僕は住吉に連れていかれる形で服屋に入った瞬間、僕達は別行動をする。
「4人一緒に動くんじゃないのか?」
「それじゃ、効率が悪いだろ」
「確かに」
有無を言わさないで別行動をさせたので何かあるのかと思ったが、単に効率が落ちるだけだった。
「取り敢えず服を選んでこい、それをチェックする」
「わかった」
住吉の指示に従い適当に服を選び、住吉のところへと持っていく。
「はあ、ダメだな」
持っていた服をみて住吉はがっかりしたような表情をする。
「悪くはないが、よくもない。てか地味すぎる。」
「悪くもないらなよくないか?それに目立たないぐらい僕にはちょうどいい」
「はあ、これだから駿人は、あのな今回は俺たちだけじゃなくて、鮎莉たちもいるんだ。一緒にいる俺たちがダメな恰好していたら、鮎莉たちにも迷惑が掛かるんだ」
「なるほど、確かにそうだな」
住吉先生のありがたい指導に僕は感嘆する。流石は、女子とよく遊んでいるやつである。いつものそのことで厄介事ばかりを持ち込むのだが、今に関してはこれほど頼もしい味方もいないだろう。
「少し待ってろ!おすすめのやつを持ってきたやる」
「はい!待ってます」
そういって、住吉は服を選びにいく。待つこと数分、住吉は選んだ服を渡してくる。
「え、これ着るの?」
「つべこべ言わすに着ろ」
「わかったよ」
僕は試着室に向かい、用意された服を着る。
「これでいい?」
疑問を抱きながら試着室から出る。
「おー、やっぱり似合っているな!物語に出てくる黒幕感がすごくあっていいぞ」
「僕が悪役みたいな言い方じゃないか?それに僕を着せ替え人形で遊ぶんじゃない」
住吉が渡してきた服は、ブラックチェスターコートとネイビージャケットなど、品のある雰囲気漂うドレスアイテムと相性抜群な黒ニットという、完全に冬用のものであり、基本的に影が薄い僕には全く合わないと思う。
「いやいや、あっているぜ。いつも何食わぬ顔で策謀を巡らせているお前だからこそあってる。」
「策謀なんて人聞きが悪い。ただ良い結果になるように頑張っているだけだよ。てか、これ熱いからもういいかな?」
「ごめん、ごめん。もういいぞ」
全く、感心した矢先にこのありさまだ。住吉はどこまでいっても変わらないなと思う。
服を戻すと、住吉はまともな服装をこちらに渡してくる。それを受け取り再び試着室で着替える。
「これでいいか?」
「悪くはないか。まあ、素材自体が残念だし、ここまで盛ることができるなら及第点といったところか」
「素材が悪くてすいませんね!」
住吉が選んでくれた服はネイビーの麻混シャツにボーダーTと言った、爽やかな印象を与えるもので、地味すぎると言ったこともない無難なものだ。
「今回は気楽な遊びだしな。盛り過ぎたら逆効果だし、ここが限界だな」
住吉もこれが最善と考えている。もっといい感じにすることも出来るのだが、今回は友達同士、気楽な遊びをメインにしているらしく、過度なテコ入れはやりたくないらしい。
僕もそう言ったことには興味がないし、目立つのは苦手なので丁度良かった。
「ありがとう、これを買うことにするよ」
「お礼はしっかりと返せよ」
服も決まったことだし、僕たちはレジのところまで行った。ちなみに、これだけで1万円以上取られるのだから、こういうのにこだわっている人は凄いなとただただ思うのだった。
服を購入してから数分後、桜木たちも服を購入して合流する。
「待ったー?」
「いや、丁度終わったところだ」
「それはよかった」
今回、服を買ったのは僕と桜木だけだ。二人はこういったことがよくあるので大丈夫のこと。
完全に二人にキャリーされている僕と桜木であった。
「それでそっちはうまくやれたんだろうな?」
「勿論だよ!葵ちゃんの魅力を余すことのないコーディネートをしたよ」
「それはよかった。当日が楽しみだ」
住吉と鮎莉が僕たちから少し離れた所で怪しい会話をしている。
まあ、確実に何か企んでいるのだろう。出来れば、やり返しやりたいという気持ちはあるのだが、こういったことに関しては住吉に手も足も出ないので、無駄な抵抗をせず酷い目にあわないことを祈っておこう。
こうして、僕たちの服選びは終わり、週末を迎えるのであった。




