恋愛? 人生で1番大切じゃない?
ドアをノックする音が聞こえる。
「お兄ちゃん入るよ! 起きてる……」
妹の栞が部屋に入ってきた。
僕は制服に着替えながら栞に挨拶をした。
「おはよう。今日から同じ学園だね。栞も頑張ったね」
僕は栞の頭を撫でてあげた。
「へへ……だってお兄ちゃんと一緒の学園に通いたかったんだもん」
「そっか……」
栞はあのあと学園の編入試験を受けた。
7名家のトップである黒井家が滅びたと同時に、新堂家が名家を牛耳る事になった。
あの試験の時に退学者が大量に出た。
その穴埋めで、大量の編入者を募集することになったらしい。
「ご飯たべよ!」
僕は栞に促され、リビングに向かう事にした。
リビングには父さんと母さんと……美心が座っていた。
「あら、一緒に来たのね、おはよう」
「おう」
「……栞さん、ちょっと慶太と距離が近いの」
栞が僕の腕に抱きついてきた。
「へへ、だってまだ結婚してないからいいじゃん! 結婚したら美心さんが独り占めするんだからさ!」
「ひ、独り占め……なの……」
美心が妄想して赤くなる。
僕は美心の頭をポンポンした。
「美心、大丈夫だよ。僕は美心だけの物だよ」
「う、うん……嬉しいの」
母さんと父さんが生暖かい目で見てくる。
「……初々しいな」
「あら、私達もあんな感じだったわよ? ……ただね……父さんはちょっと女の子とフラグ立てすぎでしたね……」
喧嘩は止めて!
僕らはリミット試験のせいでパグポメ家が壊された。
だから一度実家に帰る事にした。
もちろん美心は僕らの新しい家族だ。
美心も僕らの家に住むことになった。
学園を卒業したら僕らは結婚をする。
二人とポメ子とパグ太と一緒にのんびり住もうと思っている。
今から楽しみに準備をしている最中だ。
「わふんわふん!」
「ばうばう!」
ポメ子とパグ太が僕と美心の周りを駆け回る。
頭を撫でたりお腹をさすってあげた。
この2匹も晴れて恋人同士になったみたいだ。
ポメ子がパグ太のそばを離れない。
パグ太はそんなポメ子をペロペロしてあげる。
ポメ子のお腹が少し大きい。
美心はポメ子のお腹を触った。
「……おっきくなってるの。ここから新しい命が生まれるってすごいの」
「そうだね……きっと可愛い子が生まれるよ」
ポメ子は当たり前だって言うように吠えた。
「わふんわふん!!」
栞は編入手続きがあるから先に登校をした。
僕らは二人っきりで登校する。
美心と一緒に歩くと、いつも見ている町並みが特別に見える。
初めて散歩道であった時はお互い無視しようとしていたね。
懐かしいな。
地味男と地味子。
手を繋いでいる美心が僕に問いかけた。
「……慶太。私は幸せすぎて怖いの……この幸せが幻だったらと思うと……」
美心は傷つき過ぎた。
黒井家での美心の扱いは酷すぎた。
だから美心はもう一度やり直せばいい。
美心が笑って居られる場所を作る。
僕はそう決めた。
「大丈夫。僕がいるから……どんな事があっても美心を幸せにするよ」
「慶太……」
学園に近づくとどんどん生徒が増えてくる。
ミチルが遠くから駆け寄って来た。
「せんぱーい! おはよーございます! 今日のミチルは一味違います! なんと、制服の下はノーブラです! 新しい戦術です! どうですか? 触りますか!」
美心がミチルの頭を押さえた。
「ミチル。女子はもっとおしとやかになるの」
「……は、はい」
意外と仲良くやってるよね。
……ノーブラなんて気にならないよ!
僕はなるべくミチルの胸元を見ない様に3人で一緒に登校した。
ミチルは家を出た。
そして父さんの会社? に入った。ようは新堂家の一員のようなものだ。
存外優秀らしく、父さんのお気に入りとなっている。
……流石に父さんでも女子高生はハーレムの対象外みたいだ。
ミチルとは途中で分かれて、自分の教室に入ると、クラスメイトが声をかけてくれた。
「おはーー!」
「む、新堂氏、おはようでござる」
「おっす、今日も一緒に登校か! このリア充め!」
あの時、僕の敵にならなかったクラスメイトだ。
だけど、家の命令で仕方なく敵対したクラスメイトもここにいる。
お金に惑わされた生徒だけが退学となった。
僕はクラスメイトに挨拶をかわすと、京子と神埼さんが近づいてきた。
神埼さんはあの時の戦いで一皮剥けたようで、自分の意見をはっきり言えるようになった。
「新堂くんおはよーー! 今日もかっこいいね! ねえねえ、今日だよね? 妹さんが編入してくるの? ミチルちゃんと同じクラスになれば面白いね!」
京子は呆れた表情をしていた。
でも、毒気が無くて、友愛を感じさせる。
「あんたね……いきなりかっこいいだなんて、こいつが調子に乗っちゃうよ! ま、まあ、かっこいいのは元から知ってるけどね」
昔の僕だったら冷たい言葉をかけていたかも知れない。
うるさい。知らない。興味ない。
冷たい言葉は人の心を傷つける。
そんな言葉はもう二度と使わないと心に誓った。
「はは、二人ともありがとね……でも、美心が一番可愛いよ!」
二人は同時にため息を吐いた。
「「はぁ……」」
「無理やり美心ちゃんの話しにもってかないでね!」
「全くだわ。でも新堂は昔から一途だったからしょうがないわね……」
「あ、それ惚気だ! ムカつく!」
「うるさいわね! あんただって今は新堂と仲良くしてるでしょ!」
二人は仲良く言い争いをしているので、僕と美心は自分の席に着いた。
三枝先生が現れる。
「おはよう! 来週は月中間試験だよ! みんな勉強した? その後は定期ランク試験! 誰が一位になるかな! 先生は今夜は合コンだからウキウキだよ!」
三枝家は新堂家の傘下に入った。
先生は現当主で、父さんラブだから仕方ないよね。
うちの周辺でよく先生を見かける……
師匠と鉢合わせしなければいいけど……
ちなみに、会長は三枝先生の元で修行をしているらしい。
僕と美心は屋上でいつも通りご飯を食べる。
やっぱりここが1番落ち着く……
美心は僕にはお弁当を食べさせてくれる。
「け、慶太、卵焼きなの……」
「あ、ありがと……」
カチカチに固まった僕らの昼食の時間がゆっくりと過ぎていく。
昼食を食べたあとはいつもの日向ぼっこの時間だ。
美心が僕の胸に顔を埋めながらうつらうつらしている。
僕は優しく美心を撫でる。
地味子って呼んでいた時が懐かしいな。
意外と呼びやすくて良かったよね。
僕は拗らせていたんだな。
孤高を貫く地味子が特別に見えたんだろうな。
僕は地味子のおかげで素直になれたんだよな。
――ありがとう。
恋ってすごいね。
人を変えてしまうんだね。
僕は地味子の顔を見つめる。
――ポメ子よりも可愛いよ。
僕はいつもポメ子の額をキスするように、地味子の額を軽くキスをした。
「はう!?」
「え、起きてたの!」
とんだ狸寝入りだ!
地味子は真っ赤な顔して僕に抗議してきた。
「……せっかく唇にキスをしてくれるかと思ったのに……額なの……ヘタレなの……」
言葉とは裏腹に僕にしなだれかかる地味子。
――僕たちはこの速度でいい。
地味子が僕の不意をついてほっぺたにキスをしてきた。
僕は驚きで固まってしまった。
地味子は照れながら笑いかけた。
「へへ、ずっと一緒なの。地味男の新堂慶太!」
僕はお返しに唇にキスをした。
ヘタレなんかじゃない。大切過ぎて、どうしていいかわからないだけだ!
「!?」
地味子は一瞬驚いた顔をしたけど、目が潤んで泣きそうな顔になっていた。
僕らは唇を離す。
「いつまでも一緒だよ。世界一可愛い地味子の新堂美心!」
僕の拗れた青春が徐々に溶けていくのが分かった。
絶対恋愛しない拗らせ男子の青春 (完)
完結まで読んで下さってありがとうございます。
数話目からランキングとptを見ないようにしていたので、自分の状況が全くわかりません……
応援ありがとうございます。
少し邪道な恋愛でしたので、賛否がわかれそうですね……
バトルいらないよ!って方も多いと思いますし(推測)
今回も色々勉強になりました。
次回に繋げるために、作品の評価をつけて頂けたら今後の参考になります。
よろしくお願いします。
ここまで読んで下さって本当にありがとうございました!




