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その14 ドルヒ&シルトの計画

今年最後の更新となりました。

来年も皆様にとって良いお年でありますように。

 翌日、朝食を済ませたシャルロッテが暇そうにしながら俺の所にやって来た。

 最近ダンジョン内でドルヒ&シルトのメンバーと揉める事が増えたので、彼女も含めて階位(レベル)3以下の人間は、しばらくダンジョン警察のシフトから外される事になったんだそうだ。

 シャルロッテも割り当てられそうな別の仕事が見つかるまで、クランハウスでの待機を言い渡されたらしい。


 俺は早速、昨夜料理長に言われた事を彼女に聞いてみた。 


「ああ、その事か。アグネスは二年前にダンジョンの中で瀕死の重傷を負ったらしいよ」

「何だって?!」


 命が助かっただけでも奇跡的なケガだったらしく、彼女は一年近くもクランハウスの中から出る事が出来なかったんだそうだ。


「そんな風には見えないけどな」

「確かにそうだけど。でも実際にどんなケガだったのかはケヴィンしか知らないんだって」

「ん? どういう事だ?」



 二年前、アグネスはダンジョンの中で行方不明になった。

 それから一ヶ月後。誰もが彼女の生存を絶望視する中、なんとケヴィンがダンジョンからアグネスを救出して戻って来たのだ。


 ケヴィンはアグネスを彼女の部屋に寝かせると、自分以外に誰もその部屋に近付けなかった。

 クランメンバーは、生きて戻れたはいいが誰にも見せられない程酷い姿なんだろう、と噂し合っていた。


 そんな状況が変化したのはそれからさらに二月後の事だった。

 ようやくアグネスがベッドの上に体を起こせるようになったのを機に、ケヴィンはクランメンバーにも彼女の世話を任せる事にしたのだ。

 おそるおそる部屋に入ったメンバーが見たのは、少なくとも外見上はケガをする前とさほど変わりのないアグネスの姿だった。

 アグネスは意識もハッキリしており、流石に体は満足に動かせない状態だったが、彼らとの会話の受け答えもしっかりしていたそうだ。


 この報告にクランは喜びに沸いた。

 クランメンバー達はこぞって彼女の部屋を訪れた。

 アグネスの体力を考えてケヴィンが追い出すまで、メンバーは入れ代わり立ち代わり彼女の部屋を訪れたのだった。


 ただしケガのせいか記憶が曖昧なところがあり、そのせいか性格も素直というか、少し幼い感じになってしまったという。


「以前はもっと男勝りな勝気な性格だったらしいよ」

「それは意外だな。いや、女だてらにダンジョン夫(荒くれ)共を取りまとめるクランリーダーの孫娘だ。逆にそっちの方が普通なのかもしれないな」


 その後、彼女は半年以上のリハビリを経て、無事に現場に復帰したんだそうだ。


「後遺症とかそういった話はないのか?」

「さあ? 昔の記憶があやふやな所があるとは聞いたけど、それくらいじゃないかな」


 記憶か・・・ 今は髪の毛で見えないだけで、頭にも大ケガをしたのかもしれないな。

 そのせいで記憶に障害を起こしているのかもしれない。

 彼女の味覚――いや、嗅覚に問題があるのも、脳か神経に治療不可能な損傷を受けたのが原因とは考えられないだろうか?



 以前俺は暗殺者集団に腹を刺された時、治癒のスクロールによる治療を受けた事がある。

 その時に聞いた話だが、負傷した部分の機能が完全に死んでいる場合は治癒のスクロールでも元通りに治す事は出来ないのだそうだ。


 治癒のスクロールの限界がどの辺にあるのか俺は知らない。

 多分アグネスのケガは、治癒のスクロールでも完全には治療し切れない程の大ケガだったんだろう。




 その時、クランハウスの中がやけに騒がしくなった。

 殺気立った空気にシャルロッテが反射的に身構えた。

 懐に手を入れているのは、そこに護身用のナイフか何かを隠し持っているのだろうか?


 中庭に面した廊下を走る男にシャルロッテが声を掛けた。

 確か先日、一緒にダンジョンに樹脂ゴーレムを倒しに行った男だ。


「何があった?!」


 男は立ち止まるとシャルロッテに叫んだ。


「ドルヒ&シルトがヤツのクランハウスに傘下のチームの招集をかけているという情報があった! ここにカチコミをかけてくる気かもしれない! 防衛網を敷くぞ、お前も俺と来い!」


 男のただならぬ形相に俺とシャルロッテは思わず顔を見合わせた。



 結論から言うとカチコミの情報はガセだった。

 ドルヒ&シルトが戦力を集めていたのは事実だ。だが、彼らがその戦力で向かった先はここではなく、ダンジョンだったのだ。


「どういう事だ? 何でダンジョンに入るのにそんな大人数が必要なんだ?」


 料理長達と共に厨房に立てこもっていた俺は、シャルロッテから事情を聞いて首を傾げた。

 ちなみになぜ厨房に立てこもっていたのかは俺にも謎だ。建物内には他にもっと守りに適した場所もあったと思うが、流石に俺も混乱していたのだろう。咄嗟にいつもの仕事場に駆け込んでしまったのだ。


「今、ケヴィン達が調べているらしいぞ。ドルヒ&シルトの傘下のチームのヤツをケヴィン達が一人捕まえたらしいんだ。そいつから事情を聞いている最中なんだってさ」


 後で分かった話だが、男は捕まったのではなく、荒野の風に庇護を求めて逃げ込んで来たらしい。

 なんでもそいつはダンジョンに入る前に怖くなって逃げ出したんだそうだ。まあ俺達にとってはどっちでもいい話だが。


「ケヴィンさんから話がある! みんな中庭に出るんだ!」


 誰かの大声に俺達は顔を見合わせた。



 俺達が中庭に出ると、そこには既に20人程集まっていた。

 あまり見覚えのないヤツらだ。服装と年齢から見てクランで事務関係の仕事をしている人間だろうか。

 彼らは不安を共有しようと近くの者と声をひそめて話をしている。


 そんな中、ケヴィンが何人かの主要メンバーと共に中庭に出て来た。

 全員の視線が一斉にケヴィンに集中した。


「先ず最初に言っておく事があります。このクランハウスが襲われる事はありません。みなさんが心配しているような事は何もありません」


 ケヴィンの言葉に中庭にホッとした空気が流れた。

 ケヴィンの姿と声には他人から頼られる者が持つ独特の存在感があった。カリスマ性とでも言えば良いだろうか?


「彼の伝えてくれた情報によると、ドルヒ&シルトはダンジョンの50階層を目指しているとの事です」


 ケヴィンはそう言うと、彼の後ろに立つ冴えない男を振り返った。

 俺の周囲の人間が一斉にざわめいた。

 冴えない男は怯えた表情で俺達に訴えた。


「本当だ! 信じてくれ! エルマー(ドルヒ&シルトのリーダー)は自惚れているんだ! 自分達なら50階層に到達出来ると本気で考えているんだ!」

「50階層はかつてケヴィンが到達して以来、誰も行った事のない最下層ですよ? エルマーは何か勝算があっての行動なんですか?」


 事務員らしき中年男の言葉に俺は驚いてケヴィンの方を見た。


 ケヴィンがこのダンジョンの最下層に到達しているだと?! どういう事だ?!


 しかし、どうやら何も事情を知らないのは俺だけだったらしい。

 シャルロッテすら、驚愕する俺を見て意外そうな表情を浮かべていた。

 当然周りの連中は全員冴えない男の方に向いたままだった。だがそれはいい。


 このダンジョンは50階層と聞いていたが、まさかケヴィンが――ケヴィンだけが最下層に到達していたとは。


 俺はこの事実から想像されるイヤな予感にゴクリと喉を鳴らした。


 冴えない男の話は続いていた。


「最近ドルヒ&シルトは大枚をはたいてボスマン商会からミスリルの装備を買ったんだ。集めた俺達に向かって、ケヴィンですら――あ、いや、ケヴィンさんが行けたのならこの装備を持つ自分達だって行けるに決まっている、と言っていた」


 冴えない男は、”ケヴィンですら”と言いかけて、チラリとケヴィンの方を見て言葉を濁した。

 ケヴィンの穏やかな表情には何の変化も無い。というか、この男はエルマーが言った言葉をそのまま言おうとしただけだろうしな。


 しかし、ボスマン商会から買ったミスリルの装備か。


 俺は舌打ちしたい気持ちを懸命に堪えた。

 多分そいつは、少し前に俺がマルティンに卸した装備に違いない。

 ミスリルの装備がまとめて出回る事はそうそうないからだ。

 以前マルティンをスタウヴェンのダンジョンから助けた時、俺はティルシアに貸した装備も含めて手持ちのミスリルの装備を何点かマルティンに売ったのだ。


 その装備が巡り巡ってこんな事態を引き起こす原因となるとは、誰が予想できるだろうか?

 というかマルティンも相手を見て売って欲しいものだ。


 俺が心の中でマルティンに責任を押し付けている間にも男達の話は続いていた。


「だが何故、ドルヒ&シルトは今のこのタイミングで50階層を目指す事にしたんだ?」

「エミール(ドルヒ&シルトのもう一人のリーダー)は、前からボスマン商会とつながりを持ちたがっていたんだ。そのエミールをエルマーがそそのかしたんだ。ケヴィンが50階層に到達出来るダンジョン夫だからボスマン商会はケヴィンの荒野の風を評価しているって。だから自分達もケヴィンと同じ事をすれば、歳、えとその、現役の、そう、ケヴィンより今後の現役時代の長い自分達を選ぶに違いないって」


 懸命に言葉を選んで説明する冴えない男。

 察するにエルマーは「ボスマン商会はもう爺のケヴィンより、今後も長く付き合える俺達の方を選ぶに違いない」とでも言ったんだろう。

 荒野の風の面々も俺と同じことを察したのだろう。険悪な空気に中庭の気温が1~2度下がったような気がした。

 冴えない男は気の毒に、本人は何も悪くないのに目を白黒させて死にそうな顔になっている。


 その時ケヴィンが一歩前に出ると、全員の視線を男から遮るようにして言った。


「彼の話で分かったでしょう。このクランハウスに危険はありません。そして仮にドルヒ&シルトが50階層に到達したとしても、荒野の風とボスマン商会の関係は今後も何ひとつ変わりません。なぜなら我々とボスマン商会の間には今日まで積み上げられた実績があるからです。これはれっきとした事実です。我々がボスマン商会から利益を得ているように、ボスマン商会もまた、我々の協力で莫大な利益を得ているのです」


 その言葉はまるで魔法のようだった。

 聞きたい言葉を力強く聞かされた荒野の風のメンバーは一斉に表情を和らげたのだ。


 やがて中庭に集まった者達は三々五々クランハウスの中に散って行った。



 俺も自室に引き上げようとしたが、未だに中庭を離れようとしないシャルロッテを不審に感じて立ち止まった。


「どうした? 何か気になる事でもあるのか?」

「あ、いや、ケヴィンはこのクランハウスに危険が無いと知っていたのに、何で装備を身に着けているのかと思って」


 確かに、ケヴィンは以前も見たミスリルの装備を身に着けていた。

 だが別におかしなことはないんじゃないか?


「念のために周りが勧めたんだろう。ケヴィンはこのクランの最大戦力だからな」


 俺の言葉にシャルロッテも一応納得した様子を見せた。


 しかし、俺の予想は間違えていた。ケヴィンはこの直後に一人でダンジョンに向かったのだ。

 こうしてドルヒ&シルトの暴走から始まった一日は、この後、予想もしない血生臭い展開を迎える事になるのだった。

明日から正月三が日は毎日投稿を予定しております。

読み飛ばしにご注意下さい。

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