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血霧と狂狼  作者: やまく
20/32

20 機甲器 2

「これは何で動くんだ?」

 老人だけでなく男も興奮気味に質問する。いつの間にか騒ぎ声を聞きつけて倉庫のあちこちから人が集まってきた。ローデヴェイクが修理していたものだけでなく使っていた道具にも関心を示し、あれやこれやと質問してくる。

「こいつの動力源……はここにある特殊金属や運動エネルギー、あー爆発の衝撃とかだな。そういったものが必要になる」

「それをどうやって燃料にするんだ? どうやって使うんだ?」

 この時代の技術系統が自分の慣れ親しんだものと違うと理解しているローデヴェイクは、自分なりになりにぎこちないながらも噛み砕いて説明する。

 だが当時でも最新鋭の技術に加え、製作者が追求するがまま試作段階の仕組みまで投入された『これ』は、彼自身でも説明しづらい原理で動く。使うのと一から仕組みを知っているのは別の話だ。手渡された際も説明を聞きながらだいぶ意味不明だった覚えがある。


 どう説明するかと一瞬考えた時、耳に馴染んだ女の声と共にローデヴェイクの背中に軽く重みがかかった。

「『こいつ』は戦場で暴れる男のために作られたもんだ」


 周囲の人間が驚いているのをよそにマルハレータはローデヴェイクの頭に腕を乗せながら説明を続ける。

「破壊と、それをもたらす兵器を喰らうことで動力を得る。破壊すれば破壊するほどな。こいつは戦場で半永久的に動き続けることを目的としてただひとつだけ作られたもんだ。まあ、今は壊れて動かないからもっぱら廃棄物処理に使ってばかりだがな」

 そう言いつつマルハレータはローデヴェイクの肩越しに腕を伸ばす。ほっそりとした指でそれの表面を撫でると、一瞬黒い水の膜のようなものが表面を覆った。

「また壊れたらめんどうだろ」

 そう耳元でささやき、ぽんぽんとローデヴェイクの銀髪に手を載せる。

「法術で補強しておいた。前よりも壊れにくくなるはずだ」

 そう言うとマルハレータは腕を引き、身体を起こした。

 ローデヴェイクが硬直から立ち直り腕を伸ばして捕らえようとする前に身体は離れ、彼女は周囲の人間に声をかけはじめる。


「おれ達は辺境からやってきて間もないんだが、この国はよその国と戦争でもしているのか?」

「あ……ああ、青嶺国と……」

 男たちの一人が戸惑いながら答える。

「いや、あれは去年休戦条約が結ばれたんじゃなかったか?」

「南の地域はいつも騒がしいからなあ、どうなってるんだ今?」


 内輪での会話が進みはじめ、マルハレータがまた声をかける。

「こっちの地域はどうなんだ? 武装している奴も多いようだが」

「街道を外れると盗賊が多いからな。南に比べると物騒な生き物も多いし」

「それに精霊も出るからな」

「おれ達もここへ来る途中巨大な苔の山みたいな精霊に遭遇したが、多いのか?」

「ああ、『苔ナメクジ』に遭遇したのか。ああいったでっかくて追っ払え無いのは北の方に多いな」

「昔はもっとひどかったぞ。今でも元黄稜国との国境近くは人が住めんくらいだからな」

 老人が興奮気味に言う。

「今回の運搬も北からのは精霊で何隊か潰れたって話だ」

「『今回も』? 精霊が人間を襲う事がよくあるのか?」

 マルハレータが目を細める。黙って聞いていたローデヴェイクは彼女の声の中にわずかに驚いたような響きを感じ取った。

「ああ、運搬隊はよく遭うそうだ。近場で襲われたら捕獲できるんだがな」

「捕まえてどうするんだ?」

「そりゃもちろん本部に送るんだ。大きすぎるのは加工して……」

「あ、おい」

 流れるように続いていた会話はそこで突如止まった。

 失態を認めるかのように硬直する男。何人かは同じように固まっており、残る数人はマルハレータ達を探る目付きをしている。

「こっちも雇われている身だ。こいつを迎えに来たついでの世間話だ。最後の所は聞き流させてもらう。長居したな」

 そう言うとマルハレータは集団に背を向け、倉庫を出ていった。

「……部品を世話になった」

 ローデヴェイクは立ち上がり、机の上から『機甲器』とそのカバーケース、自分の工具などをつかむと彼女の後を追う。


「末端の奴らまで機密意識があるってのはなかなかの組織ということか? しかし面白いことを言っていたな」

 暗い中を歩きながらマルハレータは呟く。その表情はわからない。

 ローデヴェイク自身はそこまで興味がなかったためただ会話を聞いていただけだったが、元上司は何かに興味をもったらしい。

 突然前をゆく足が止まった。

「『それ』、直ったか?」

「ああ」

 背中に担ぐようにして持っていた『それ』。今は『機甲器』と呼ばれる種類の物らしい馴染みの愛機の存在を感じながらローデヴェイクは答えた。

「よかったな」

「……ああ」

 それだけ言うとマルハレータはまた歩き出した。

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