VS迦楼羅
第十九階層――世界樹上はその頂点がどこかもわからない樹形をしていた。
昇るほど枝分かれするのだ。巨大な幹に作られた道を伝って、鳥の鳴き声がする方へと分岐を進んだ。
緑の匂いを含んだ風が肌に心地よい。
シルフィも砂漠や雪山や火山に比べれば、緑豊かな世界樹の階層は快適らしい。
「そろそろ鳥の魔物が多いテーブルッスね」
「テーブルって?」
もちろん岩窟亭のごちそうが並ぶアレではないことはわかっているが、確認すると溜息で返された。
「ほんっっとに何も知らないんスね。世界樹の上層は枝分かれした先に、いくつかのエリアに別れてるッス。丸い台地みたいになってて、天然の空中庭園なんスよ。採れる薬草なんかもエリアで違ってくるッス」
「ほうほう。さすがエルフの先輩だな。物知りだ」
「ゼロさんが知らなすぎるだけッスからね!」
ツンとした耳を立ててシルフィは怒った。俺がモノを知らないのは今に始まったことじゃないだろうに。
「で、俺たちが向かっているテーブルに迦楼羅がいるのか?」
「そうッス。色とりどりの果物が採れる楽園のようなテーブルッスよ」
「そんなものがあったんだな」
美味いフルーツが食べ放題なんて、住めるじゃないか。
「残念ッスけど魔物が強いんで、あんまり悠長に果物狩りなんてしてられないんスよね。ちょっと変わった果物は手に入るッスけど、そもそも最果ての街だと果物が珍しくないッスから」
朝の市場には果物類がずらっと並ぶ。まさかここまで誰かが取りに来てるとは思えない。
「ここで手に入れた苗木を育てて、街の果樹園で果物が栽培されてるんスよ」
まさしく恩恵という言葉が相応しいな。
木の枝の上だというのに土の地面があった。さながら小さな森だ。
背の低いものから見上げるほどの広葉樹まで、様々な木々に果物がたわわに実っている。
どこからか小鳥のさえずりが聞こえてきた。心地よい音色の歌声につい、意識がボーッとしてしまう。
果実の甘い香りに包まれて、桃源郷とはこんな場所かもしれないと思ったその時――
「上級雷撃魔法ッ!!」
シルフィが杖を構えて魔法をぶっぱなした。
歌う小鳥を雷撃の雨で焼き尽くす。
「お、おいおい! いきなり何をしやがりますかシルフィさんや?」
「ゼロさんしっかりしてほしいッス。誘い歌姫の眠り歌ッスよ」
シルフィの雷撃を受けた青い小鳥は赤い光となって散る。
足下でナビが「今のは誘い歌姫という小鳥型の魔物だね。直接攻撃はしてこないけど、歌を聴くうちに眠らされてしまうよ」と、後から解説を付け加えた。
毒や麻痺と違って、心地よい眠りはオークの加護じゃ対応できない。
こういう状態異常もあるのか。気を引き締め直そう。
森を進むうちに、他の鳥の魔物とも遭遇した。
大深雪山にいたフクロウ型の魔物――オウルーラをより強化したような博識梟姉妹は、赤と青、大小二匹のフクロウ型の魔物が対になって襲ってくる。
賢いと名前がつくだけあって、魔物のくせに中級レベルの炎と氷の魔法を撃ってきやがった。
魔法に弱い種族なら、この連続魔法攻撃に為す術もないだろう。
俺は即座に防御の魔法を左手で発動した。
「魔法障壁」
虚空に古代文字が浮かび上がり、魔法陣が展開して盾を成す。
俺に向かって放たれた炎の渦は、この盾に防がれた。熱気は感じるがせいぜい長い髪の毛先やマツゲの先端が焦げた程度だ。
左手の魔法の盾を維持したまま、右手で放つ。
「上級氷撃魔法!」
炎を放った梟姉妹の赤い方に凍気が集約する。右の手のひらをぐっと握ると、イメージ通り凍気が凝縮して氷の棺に魔物を閉じ込めた。さらにぐっと力を込める。
「粉砕!」
フクロウ型の魔物は赤い光となって砕け散った。
その間にシルフィも魔法障壁で青いフクロウの放った氷の魔法を防ぎきった。
即座に自分の魔法障壁を解除して、シルフィに注意を向けている青いフクロウに手のひらを向け……放つ。
「中級炎撃魔法……放射散弾!」
本来なら炎の渦になる魔法を、小さな火球にして空間にばらまいた。
青いフクロウが咄嗟に魔法障壁を張ったが、散弾状の火球の連打で障壁が打ち破られる。こちらの牽制に反応した時点で、魔物の敗北は決定したな。
満を持してトドメの一撃が放たれた。
「上級雷撃魔法!」
シルフィの上級魔法が炸裂して、青いフクロウは為す術もなく赤い粒子と化した。
上級魔法を放ったことで少し呼吸の荒いシルフィが俺に告げる。
「打ち合わせ無しなのに連携がバッチリッスね! あそこでゼロさんが中級炎撃魔法を撃ってくれたおかげで、完璧にキメられたッスよ」
「シルフィが次にどうしたいのか、見てるとなんとなくわかるからな」
「ぼ、ぼくのことはなんでもお見通しッスか!?」
「戦闘に関してはな」
なぜかシルフィは小さく肩を落とした。
「うう、他のことでもちゃんとぼくのこと理解してほしいッス」
俺は近くにあった林檎の木から果実をもいで渡す。
「他のことって言われてもなぁ。まあ、こいつでも食べて元気を出してくれ」
「別に今はお腹空いてないッス……もう」
小さくほっぺたを膨らませる。なぜか俺が怒られたような格好だ。
「どうして怒るんだ?」
「怒るっていうか……嫉妬ッス。やっぱりゼロさんは黒魔法のセンスの塊ッスよ。というか、戦闘のセンス?」
自分ではあまり意識していないんだが……。
「いいッスか。魔法の改編はやろうと思ってできるものじゃないんス。変化させればロスが発生して威力は弱まるんスよ。それに杖を使わないであの威力……左手で障壁を制御しながら右手で魔法とか、どっちもおろそかになるはずなのに……」
これは褒められているんだろうか? そういえば自然と左手で魔法を使ったりもしていたが、自分の中では普通のことのように思えた。
そっと開いて、革手袋に包まれた左手を見る。
unknownだった時から、魔法については使ったことがあるような気がしていた。
てっきり気のせいと思っていたが、実際に魔法を使いこなせるようになってみると、こういった戦い方が実にしっくりくるのだ。
なんなら右手に打撃武器でも持って、格闘戦をしながら魔法を使ったりもしたいのだが……流石に武器を振るうには腕力がなさ過ぎか。
弓を扱うなら弦を引くくらいの力があればいいんだが、それすら無い。
今は素直に両手で魔法を操る方が、下手に武器を持つよりいいかもしれないな。
鳥形といっても空を飛ぶばかりではない。馬のような大きさの火喰いダチョウは、三体一組で行動し、一匹を囮にして二匹が獲物を仕留めるという連携攻撃を仕掛けてくる。
ものの、まとめて炎撃魔法で焼き尽くした。
他に大深雪山の麓にあるという雪原湖に住むペンギン型の魔物とも遭遇した。
大公ペンギンという、体長二メートルはある巨大ペンギンだ。よちよちと歩いて見た目は愛らしいが、近づかれると威圧感がものすごい。
攻撃は平べったい手で叩くか、クチバシで突くくらいだ。氷の上では腹で滑って高機動という話らしく、土の地面ではデカイ的でしかなかった。
鈍重魔法で動きをさらに鈍らせて、遠距離から一気に攻撃魔法をたたみかける。
恐らくこのテーブルの魔物は格上で、黒魔導士でなければやっかいな相手なのだろうが、魔法による先制攻撃で倒すパターンが通じるため、かなり戦いやすかった。
おかげでレベルが一気に上がり、この辺りの魔物はどれも相手にならなくなった。
さらに俺自身も知性を極めたこともあってか、エルフとして一つ進化したようだ。
そして――
テーブルの最奥の森が開けた広場の中心に、菩提樹の枝にとまった巨大な影を俺とシルフィは発見した。
極彩色の虹のような翼を今はたたんで休めている。
その歌声はまるで笛の音色のように美しい。
鳥の足と翼を餅ながらその上半身は人のそれだ。顔は猛禽で胸や腹は青白い。
鳥人である。燃えるような赤い瞳は、今はどこをみるわけでもなく虚空を眺めていた。
こんなにも美しい魔物は今まで見たことがない。
森の茂みでシルフィが息を殺して俺に囁く。
「極楽昇天トルネード迦楼羅の名前は伊達じゃないッスね」
「どうする? 一応、居場所は確認できたが……」
「訊いた話だと、どうも炎の魔法を操るらしいッス。弱点はその反対……氷属性が有効ッスよ」
まさに黒魔導士が得意とする相手だ。いかに空を駆ける翼を持とうと、魔法はある程度までなら標的に追従して炸裂する。
迦楼羅が炎の魔法を使うなら、それは魔法障壁で防ぐこともできた。
鳥らしく鋭い爪やクチバシは要注意だが、こちらも敏捷性は高めてある。防ぐのではなく避けて対処だ。
俺はゆっくり頷いた。
「避けて通れない相手だ。俺がヤツと対峙する。シルフィは援護してくれ」
「わ、わかったッス。頼りにしてるッスよゼロさん」
「それはこっちのセリフだ」
これ以上粘ってもレベルの壁が見えてきてしまっている。
一度呼吸を整えてから、俺はシルフィに告げた。
「もし、俺が死にそうになったら逃げてくれ」
「そ、そそそんなことできないッスよ」
「じゃあ死んだら逃げてくれ」
「うう、縁起でもないこと言わないで欲しいッス」
まあ、こんなことが言えるのは俺の“やり直し”の力があるからなんだが……。
俺が庇って死ぬ分にはいくらでもいいが、俺を誰かが庇って命を落とす光景なんて、もう見たくない。
再び迦楼羅に視線を向ける。
まだ、俺たちの存在には気づいていない。
最初の一撃で、どこまで削れるかが勝負だな。
シルフィと別れて迦楼羅の側面に回り込むと、俺は右手に上級氷撃魔法を……そして左手に上級雷撃魔法を発生させて、それを一つに組み繋ぎ合わせた。
キュピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!
同時に魔法を感知して迦楼羅の首がこちらに向く。両腕を広げるように翼を展開した途端、迦楼羅の背に炎の輪が生まれた。
口を開くや熱線が放たれる。俺が使う収束型の炎撃魔法と同種のものだ。
しまった。初撃に欲張りすぎたな。
先手をとったつもりが、迦楼羅の反撃の方が迅速い。
目の前が閃光に白く染まった。
名前:ゼロ
種族:エルダーエルフ
レベル:62
力:G(0)
知性:A(99)
信仰心:G(0)
敏捷性:A(99)
魅力:F(18)
運:G(0)
黒魔法:初級炎撃魔法 初級氷撃魔法 初級雷撃魔法
中級炎撃魔法 中級氷撃魔法 中級雷撃魔法
上級炎撃魔法 上級氷撃魔法 上級雷撃魔法
脱力魔法 対象の力を下げ攻撃と物理防御を弱める
鈍重魔法 対象の敏捷性を下げ速度や命中率を落とす
魔法障壁 敵意ある魔法による攻撃を防ぐ盾
呪封魔法 魔法を打ち消し封じる魔法殺しの術
種族固有能力:エルフの目 魔法によって隠されたものを見つけ出す探求の眼差し
学習成果:黒魔法の最適化 学習進度によって魔法力の効率的な運用が可能となる
種族特典:研ぎ澄まされしエルフの叡智 すべての黒魔法が強化される。ただしその知性が禁忌に触れることを許さない相手に敵対視される。
師匠:シルフィ
仲間:ガーネット
――隠しステータス――
特殊能力:魂の記憶 力を引き継ぎ積み重ねる選ばれし者の能力
種族特典:雄々しきオークの超回復力 休憩中の回復力がアップし、通常の毒と麻痺を無効化。猛毒など治療が必要な状態異常も自然回復するようになる。ただし、そのたくましさが災いして、一部の種族の異性から激しく嫌悪される。
????: 左右両手で別の魔法を繰り出す能力




