レッツ採掘!
ドーム状の小部屋の中心に祭壇があった。そこから六つ、タコ足のように坑道が放射状に伸びる。
先客のドワーフたちが、ツルハシを担いでそれぞれの坑道の奥へと吸い込まれていった。
「明るさは大丈夫かい?」
祭壇から降りてガーネットが俺に訊く。
「薄暗いな。まあ、戦えないこともないが」
魔力灯のカンテラが坑道の通路に点在していて、城塞廃虚の地下水路を思い出した。
「アタイらドワーフは採掘が得意でさ、これくらいの明るさでも見えるんだ」
なるほど、それがドワーフの種族特性なのかもしれない。
「じゃあ、手近なところで採掘のやり方教えてあげるから、着いてきなよ」
祭壇正面の坑道に入ると、その先は木の枝のように細かく分岐していた。
すいすい先を行くガーネットだが、まるで考え無しのように見える。
「お、おい大丈夫なのか? 地図も無いのに」
「へーきへーき。坑道のドワーフは最強だかんね。出口が感覚でわかるんだよ」
振り向いて俺に告げたところで、三叉路の右手側から殺気を感じた。
ガーネットの腕を掴んで引き寄せる。途端――右手側から両手に巨大な爪を備えたモグラの魔物が飛び出してきた。
モグラにしてはデカイな。後ろ足で立ち上がると、全長1.5メートルほどか。
今し方、ガーネットが立っていた場所をモグラの巨大爪が空を斬る。
ブンッ空振りしたのだが、彼女の長い赤毛の先に爪がかかって何本かハラリと落ちた。
彼女を庇うように左腕で抱き寄せながら、黒曜鋼の手斧を構える。
腕の中でガーネットが目を丸くする。
「きゅ、急にびっくりするじゃないかい……」
「大丈夫だったか? ここは任せてくれ」
ガーネットを背中に庇うようにしてウォークライで気合いを入れる。
「うおおおおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああああ!」
初見の魔物だ。どういった攻撃をしてくるか読めないため、カウンターはあえて狙わずラッシュを撃ち込んだ。
ザシュッ! ザシュッ!
と、モグラの魔物の胸に瞬時に十字傷を刻み込む。手応え充分だが、反撃の爪が俺の胸元に振り下ろされた。
やばい避けられない。左腕の盾でガードも間に合わなかったのだが……。
ガキンッ! と、魔物の爪は軽銀鋼の胸当てに弾かれた。
衝撃は受けたが無傷である。
ああ、なんて素晴らしいんだ。防具ってありがたい。まるでつけていることを感じさせない軽さなのに、敵の攻撃をきっちり防いでくれるだなんて。
「こいつでトドメだッ!」
身体のひねりを加えながら一歩踏み込んで、逆水平に斧を振るう。
ズザッシュウウウウウウウッ!
抜群の切れ味を誇る黒曜鋼の斧が、モグラの胴体を真っ二つに分断した。
赤い光の粒子となった魔物を、足下からひょいっと飛び出したナビが吸収する。
ずっと気配を消していたように静かにしていた小動物は、ここぞとばかりに俺の前に躍り出た。
「メイズメイカーを倒したね。おめでとうゼロ。レベルが上がったよ。ステータストーンを振るかい?」
問いかけに首を左右に振る。
「わかった。温存だね」
二十階層の魔物というだけあって、経験値も高いな。
振り返るとガーネットが眉尻を下げていた。どことなく困ったような表情だ。
「あ、あれくらいの魔物の攻撃なんて、食らっても大したことなかったのに」
「余計なことをしたか?」
「べ、べべべ別にそんなことないけどさ……あり……がとね」
急にしゅんっとしおらしくなって驚いたのもつかの間、三叉路を右手に進むとモグラの魔物――メイズメイカーが三匹現れた。
たった今、スキルを使ったばかりだってのに。
「今度はアタイの番だね。火力支援魔法」
ガーネットが呟くように唱えると、彼女の身体が一瞬だけ赤く発光した。
片手持ちのハンマーメイスを手にすると、流れるような動作で魔物の頭部をぶっ叩く。メイズメイカーの巨体が沈んだ。赤い光に分解されてガーネットの胸元に粒子が吸い込まれる。
俺が三発かかった魔物を一撃かよ。
「手出しすんじゃないよ!」
続けて二匹目、三匹目も片付けてガーネットは長い髪をふわりとなびかせるようにしながら振り返る。
「な? 楽勝なんだから。アンタが一匹倒す間に三匹はイケルんだし」
俺の助けなんていらなかったみたいだ。その割に、さっきはちょっと怯えたみたいに様子が変だったんだが……。
自慢げに胸を張る先輩冒険者に、俺の口から「新人相手に張り合うなよ大人げないな」と、つい本音が漏れた。
枝分かれした坑道の行き着く先は行き止まりだ。祭壇のあった部屋の半分ほどの広さしかない。
「なんだ、ここまでか」
「ここまでって、目的地だっつーの。アタイらの目的を思い出してごらんって」
「そういえば採掘に来たんだった」
戦闘とレベルアップ気を取られて、すっかり忘れていた。
とはいえ、目の前は岩壁だ。
「こんなところで鉱石が採れるのか?」
「良く目をこらして見れば、あっちこっちに原石が埋まってるんだけど……ハァ……こればっかりは種族と経験の差っってやつかもしれないね」
溜息交じりにやれやれとガーネットは
どうやら今の俺には、目の前の宝の山が認識できないらしい。
ナビがガーネットに見えないのとは……ちょっと違うか。
一度足下に視線を落とすと、ナビが顔を上げながら首を左右に振って言う。
「ごめんねゼロ。ボクにも鉱石や原石はわからないや」
頷いて返事をしつつ、俺はガーネットに訊いた。
「素人の俺が手を出すとまずいのか?」
「何のために採掘道具一式を貸してやったと思うんだい? アタイがどの辺りを掘ればいいか手取り足取り教えてあげるから、まずはやってみなって!」
気さくに笑いながら、ガーネットは「うーん、まずは銅鉱石辺りやってみよっか?」と、壁の一部に軽くツルハシを打ち込んで、実演してくれた。
俺も武器から採掘道具に持ち替えて、彼女がやるよう見よう見まねだ。
力には自信がある。ツルハシでザクザクと掘っていくうちに、壁の一部からぽろっと握りこぶしくらいの大きさの鉱石がこぼれ落ち、赤い粒子に変換されてナビの額の宝石に吸収された。
「銅鉱石を手に入れたよ」
ナビは満足そうに目を細める。どうやら今の感じでいいようだ。
ガーネットも「上手い上手い。けど、もう少し周囲から掘っていけば大銅鉱石になったね。アンタ銅鉱石真っ二つにしちゃってるし」と、褒めつつもダメ出しだ。
「そういうことは先に言ってくれよ」
「失敗してこそ学ぶことは多いんだって。ほら、次はこっちの銅鉱石を採ってみなよ」
彼女に指示されるまま、次の銅鉱石を掘る。まだ岩と鉱石の違いがわからないが、倣うより慣れろってことらしい。
次々とガーネットに鉱石の場所を指定されて、俺は黙々とそれ従い鉱石を掘り続けた。
一時間ほどで、小部屋の鉱石は取り尽くしたようだ。
ガーネットがふぅと息を吐く。
「んじゃあ次行こうか。つーか、ずっと掘りっぱなしなのに疲れた素振りも見せないのな?」
「こういうコツコツやるのは得意みたいだ」
「そろそろ銅鉱石と岩壁の違いがわかるようになったかい?」
「全然わからん」
「だめじゃん! あぁ……やっぱ鍛冶職人には向いてないっぽいねぇ」
小部屋を出て道を戻り、次のルートを選択する。途中で魔物に出会えば戦い、倒す。
俺が一体を引き受けて、残りはガーネットが片付けるという感じだ。
次の小部屋でも同じように銅鉱石を採取した。時折、鉄鉱石も取れるようになった。
「いいじゃんいいじゃん。その調子でがんばんなよ」
ツルハシを振るいながら、俺の背後で監督を続けるガーネットに訊く。
「なんだか悪いな。俺に経験を積ませるために、初心者向けの場所を選んでくれてるんだろ?」
「まぁね。アンタまるで才能無いけど、真面目に働く意慾は買ってるから」
「あんまり直球で言わないでくれ。力仕事には自信があったんだ」
幸い、鉱石の場所さえ教えてもらえばなんとかなる。岩壁を掘ること自体は地味な作業でも楽しかった。
「まあクヨクヨしてもしょうがないじゃん。それにアンタがドワーフだったら、こうしてアレコレ教えてあげるってことも無かったわけだし。そこは異種族間交流ってやつでしょ。得意な事も苦手な事もそれぞれあって、補いながら街は生きてるのさ」
「その割にエルフとは仲が悪いんだな」
一瞬、ガーネットは黙り込んでしまった。地雷を踏んだかと心配になったが、振り返って彼女の顔を確認する前に、小さく漏らす。
「感謝はしてるんだよ。魔力灯だって街の便利なエルフの発明だし……ただ、どうしても顔を合わせるとね。誰かが間に入ってくれりゃあ、もう少し仲良くできると思うんだけど」
「例えば獣人族とか天使族を介したらどうなんだ?」
「獣人族はまあ、誰とでも仲良くできるけど個人差で性格もけっこうバラバラだし、どっちかといえばエルフよりなんだ。森に生きる仲間意識? みたいなのがあってさ」
「なるほどな」
「んで、天使族は同じ光の神を信仰するドワーフよりになっちまうんだ」
「エルフは神様を信じてないのか?」
「連中にとっては魔法は学問なんだとさ。考え方が根本的に違うんだよ。神の存在は否定しないけど、信じるかどうかはまた別問題……ってね」
俺がドワーフとエルフの間に立とうものなら、もれなくエルフの黒魔法が飛んできそうだ。
ガーネットは「だからお互いに不快にならない距離を保つのさ」と、締めくくった。




