side /ユイ(2)
もう、一ヶ月くらいになる?
ひとりの部屋でビールのプルタブを引きながら、ユイは小首をかしげた。
―すごいトラブル発生中で、当分遊べそうもない。
ハタノからのメールはそれっきりで、後の連絡は来ていない。
ユイから何度か送ったメールは、戻ってきていないのだから届いているのだろう。
すごいトラブルって仕事だろうな、と予測はつくけれども、何があったのかは皆目わからないし、知りようもない。
ハタノの職場は大手ゼネコン下請けの建設会社だから、建物の仕様が大幅変更になったくらいだろうか。
それにしても、一ヶ月休みナシなわけ?
メールの返事くらいはできるだろうに。
それとも、とユイの懸念が結論を導き出そうとする頭を無理矢理引き戻す。
ユイからの呼び出しを、ハタノが嫌がったことはない。
それどころか、新しい居酒屋を開拓したなんて誘いをかけてくることすらある。
でも、最近のあたしって、ハタノに八つ当たりしっぱなしじゃなかった?
ちゃんと言い返してくるから気がつかなかったけど、あたしの愚痴を聞かせてばっかりじゃない?
ビールを握った手に思わず力が入り、缶はぐにゃりとゆがんだ。
友達って、こんなに一方通行でいいんだっけ。
あたしは、ハタノの愚痴なんか聞いたこと、ない。
ふいに、ユイのケータイの着信音が鳴った。メールではなく、電話だ。
表示されている発信者は「ハタノ」である。
びっくりして、慌てて受信操作をする。
「どうしてたのよ!」
思わずケンカ口調になるのは、頭の中を覗かれたようなタイミングだったからだ。
「あー・・・施主の意向がまるまる変わってさ。一ヶ月、ほぼ睡眠三時間コース休みナシ」
「終わったの?」
「昨日終わって、今日一日寝てた。ユイからメールいっぱい来てたからさ、電話した」
「忙しかったのに、ごめん」
そういうと、受話器の向こうで少し驚いたような気配があった。
「気持ち悪っ!おまえ、熱でもある?」
「なに、それ!ヒトがたまに殊勝な態度とろうってのに!」
「自分で殊勝とか言うな!バカ!」
結局いつものやりとりになり、近いうちにまた呑もう、と話が終わった。
懸念が晴れて、ユイは出さなくて良かった言葉に心底安心した。
本当はあたしと遊ぶの、もうイヤなんじゃない?




