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ウォーアクス戦記  作者: 秋月
四章 聖戦と呼ぶ事なかれ
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七十九話 駆け抜ける刃のひらめき

 一斉に駆け出した両団は、中間点で激突。はじめこそ、四百対百三十という数の差で白蜥蜴団が押したものの、次第に装備の差で鉄鬼傭兵団が押し返し、今は前線を一定に保っている。


 一般の兵の装備とは、槍、もしくは剣である。扱いやすい、オーソドックスと言うべき武器であり、兵士の装備を統一するという面では、非常に有利だ。故に、白蜥蜴団の殆どの者達も槍と武器を携行している。


 だが逆に、フランシス達鉄鬼傭兵団は違う。団長であるフランシスの主な武器である斧をトレードマークとし、大勢がそれらを携行しているのだ。両手斧、片手斧の違いはあろうと、やはり前線をぶつけ合うという関係上、上から振り下ろすという攻撃へ特化した戦斧の有利さは計り知れない。


 前線を張り、前線同士で衝突する以上、その後ろの者達は攻撃できない。武器を振り回せば味方を傷つけてしまいかねないからだ。となれば、最も前、最前線に立つ者の力量で戦場の有利不利が決まる。


 しかし、左右と後方を味方でふさがれている以上、武器を大きく振り回すという事はできない。剣や槍は、突きていどしかできず、それでも味方に引っ掛かる可能性がある。


 だが、鉄鬼傭兵団の――フランシス自身、指示はしていないが――標準武器となっている、斧はそうではない。薙ぎ払いもできる斧であるが、重心が刃に傾いている以上、非常に遠心力が乗る。であれば、もっとも強いのは直線の攻撃、真上からの振り下ろし。


 しかも、振り上げ、振り下ろす形であれば、左右の味方に引っ掛からない。最もダメージの乗る形で、尚且つ防御の死角となる上から攻撃できるのである。であれば、横に並んだ前線がぶつかり合うとき、剣と斧のどちらが有利に立てるかと言われれば、斧だ。


 前線を張ったが故に、数の差を生かしきれていない白蜥蜴団側。真っ向から向かって行く鉄鬼傭兵団。二つの団は圧倒的数の差と、圧倒的武装の差により、こう着状態に入っていた。


 そんな両者の接触点の周辺を、二人の鬼が駆け抜ける。


 火花が散り、互いの武器が互いの武器を打つ。何度も金属同士がぶつかる音が激しく鳴り、縦横無尽に二人が駆けて行く。


 尋常ならざる戦いは、無論周りの兵も巻き込む。フィルマが攻撃の合間に鉄鬼傭兵団員の首を刈り取り、フランシスはその隙を縫うように白蜥蜴団の者たちをし止めて行く。そうしてまた、別の場所へと移るのだ。


 戦場の雑踏の中にあって、しかし二人の進行が妨げられる事はない。恐れのあまり、道が開けられて行くのだ。道を開けられなかった者から首を跳ね飛ばされるか蹴り飛ばされるという有様であるから、仕方ないのであろうが。


 フランシスはそんな状態を一望し、瞬間フィルマへと蹴りを放った。


 風を伴って放たれたそれを、フィルマはとっさに腕を交差させて防ぐが、あまりの衝撃に体が浮き、数メートル後退した。そこは丁度、前線の端。フランシスは、前線の被害をこれ以上広げないため、フィルマを蹴り出したのである。


「終わらせよう。俺とお前が初めて戦った時と同じく、二人だけでな」

「あの時は俺に負けた癖に、よく言うな」


 言葉と同時、互いの刃がすれ違う。




 フランシスとフィルマは、最初に出会ったあの日に、一度刃を交えている。フランシスが死をあれほど強く感じたのは、後にも先にもあれだけであった。それらを思い出しながら、フランシスはフィルマを睨み付けていた。


「互角、互角か。はは、随分強くなったな、フランシス?」


 横薙ぎにフランシスの首を狙いながら、フィルマは笑う。懐かしむような口調に、フランシスは鋭く黙れ、と返した。と同時、斧を振り下ろす。


 しかし、受けられぬ筈のフランシスの一撃は、フィルマの曲剣の切っ先で"滑らされた"。受けるのでも、避けるのでもなく。風を伴うほどの強打を、何でもないように流したのだ。あの時と同じだと、フランシスは奥歯を噛み締めた。


 フランシスは昔、初めて出会ったその日に、フィルマに敗北している。その要因の一つが、この不可思議な切っ先での逸らしだ。降ってくる攻撃に刃を軽く当てるだけでそれを流す、独特な防御方。


 何年も経った今でさえ、フランシスにはその突破口が見つからないままでいた。


 だがフランシスとて無為に何年と過ごしてきた訳ではないのだ。フィルマの流しが更に鋭くなった様に、フランシスの観察眼は長年の経験で研ぎ澄まされている。一撃一撃、流されても諦めず、静かに繰り出し続けながら、フィルマの動きをよく観察した。


 あの奇妙な流しの正体は、フランシスの目利きでは、曲剣の技量によるもの。だが、それだけではない、とフランシスは睨んだ。単純な技量であの流しができるのであれば、フランシスとて力で押し切れない事はない。


 であるならば、とフランシスは、左から滑らかに振り切られた反った刃を首を倒して避け、右の刃を斧で打ち落としながらも、思考を続けた。そうして、彼の中に、あれは力と技術の合わせ技だ、という仮説が立った。


 だからどうするは、これから考えるのだ。思考をやめるな。フランシスの経験が叫ぶ。気魄をこめた叫びでもって己を奮い立たせたフランシスは、何度でも斧を振り上げた。

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